好調ドジャースがマーリンズをスイープし、連勝を5に伸ばした。貯金の数は今季最多の11となり、地区2位パドレスに1.5ゲーム差をつけている。

 マーリンズとの3連戦で、“パパ第1号”を含む3安打を放ったのが大谷翔平だ。ドジャースの主砲はチームの勝利に呼応するように5試合連続安打を継続中。一時は.260まで下降していた打率も.287まで引き上げ、3割も視界に入る。

大谷の「打球方向」に変化?

 ただ、今季は開幕から調子にムラがあり、打棒を爆発させた昨季終盤に比べると、成績はまだまだ物足りないのも事実である。実際、本塁打と盗塁の数は昨季の「54&59」から、今季は現時点で「36&47」ペースに……。もちろん今後の数試合で大幅ペースアップに転じる可能性もあるが、やや気掛かりなデータもあるので紹介しておこう。
 1つ目が、今季の大谷の打球方向である。昨季は右方向への打球、すなわち大谷が引っ張った打球は43.6%あった。これは自己最高だった2021年の46.6%に次ぐ自身2番目に高い数値だったが、今季はそれが57.1%まで増加。今季を含めた大谷の通算が37.2%なので、激増しているといってもいいだろう。

“打撃妨害ゼロ”も変化のひとつ

 2つ目のデータが捕手の打撃妨害による出塁だ。昨季の大谷は5月半ばまでに5回もの打撃妨害を記録。メジャーのシーズン最多を更新する勢いだった。

 その後は落ち着いたが、ドジャースが世界一を決めたワールドシリーズ第5戦では、大谷のシーズン最終打席が打撃妨害となり、それが勝ち越しにも結び付いた。
まさに打撃妨害に始まり、打撃妨害に終わる1年でもあった。

 エンゼルス時代から打撃妨害での出塁が多かった大谷だが、今季はチーム31試合を終えていまだゼロである。

 大谷の打撃妨害の頻度と打撃の調子に因果関係があるかどうかは分からないが、昨季から変化したのが、今季は1インチ(約2.5センチ)長いバットを使用している点だ。

 仮に昨季と同じスイングの軌道を描いているとすれば、ここまでに打撃妨害が1つ2つあってもおかしくないだろう。つまり、今季の大谷のスイングには何かしらの変化が生じている可能性がある。

「打撃スタンス」にも変化

 そこでMLB公式のデータサイト『Baseball Savant』を用いて、昨季と今季の大谷のスイングを調べてみた。

 大谷のスイング速度やスイングの開始からインパクトまでの距離(Swing Length)には特段の差がなかった。Swing Lengthは7.9フィート(約2.41メートル)から、8.1フィート(約2.47メートル)に6センチほど伸びていた(=スイングが大きくなっていた)ため、打撃妨害がゼロの理由にはならない。

 一方で、大谷の打撃スタンスには小さくない変化があった。

 野球の打撃スタンスには3種類ある。バッターボックスのラインに平行に立つ構えが“スクエア”、足の位置と体の向きが投手視点で閉じた位置になるのが“クローズド”、そして投手から見て足の位置と体の向きが開いた位置になるのが“オープン”である。

 大谷の打撃スタンスはご存じの通りオープンだが、スクエアを0度としたときの開き具合が昨季の9度から今季は11度に広がっている。つまり、今季の大谷はよりオープンに構えているのだ


 オープンスタンスは投手の球の出所が見やすくなるメリットがあるが、外角への対応が難しくなるデメリットも同居している。また、体を開いている分、より引っ張る意識が強くなる可能性もあるだろう。

“ミートポイント”は昨季比で7センチ以上の変化

 さらに大谷の“ミートポイント”にも変化があった。ミートポイントとは、バットがボールをコンタクトした位置を指す。昨季は大谷の平均ミートポイントが、ホームベースの投手側から2.4インチ(約6.1センチ)捕手側に寄った位置だった。

 しかし、今季は一転、ミートポイントが2.9インチ(約7.4センチ)も投手側に移動。その地点はホームベース上ではなく、ホームベースから0.5インチ(約1.3センチ)投手側に寄った地点である。

 つまり、今季の大谷は昨季比で7センチ以上も投手側でボールをさばいているということだ。断っておくが、ミートポイントの位置は良し悪しではなく、あくまでもその打者の特徴を示しており、大谷の変化が一概に悪いというわけではない。

「センターからレフト方向への打球」が増えれば…

 昨季の大谷は差し込まれることを覚悟して投球をギリギリまで見極め、より捕手寄りでボールをさばいていた。並みの打者なら、振り遅れて空振りか、バットにボールを当てたとしてもどん詰まりがほとんどだろう。

 しかし、大谷はメジャーでも屈指のスイングスピードとパワーの持ち主。たとえ差し込まれても本塁打にする技術も持ち合わせている。
また、このミートポイントがセンターからレフト方向の打球の多さにもつながっていた。昨季まで大谷の打撃妨害が多かったのも、ギリギリまで投球を見極めていたことが大きいのではないだろうか。

 今季の大谷は長尺バットを使い始めたことで、より早く、より前でボールをさばきたいという意識が働いている可能性がある。言い換えれば、新たなバットに適応している過程の途中ということだ。

 今後、センターからレフト方向への打球が増えるようになればいよいよ本領発揮といえるかもしれない。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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