コロナ禍で三密や接触を回避するため、さまざまなソリューションが生まれ、気がつけば我々の生活になくてはならないものになったり、あって当たり前の存在になったりしたものは多い。その1つが飲食店におけるタブレット端末を使った注文だ。
導入当初はトラブルの連続で仕事量が増加!?
「人手不足を背景に、2018年くらいからチェーン店を中心にタブレット端末によるオーダーが導入され始めました。ただ、当初は操作方法が分かりづらかったり、アプリの不具合が頻発するなど、評価はわかれましたね。しかし、ご存じのようにコロナ禍でできるだけ接触しないことが求められ、タブレットや客のスマホを使ったオーダーシステムが広まりました。さらにスマホやタブレット端末によるオーダーシステムはPOSシステムと連動できるので売上の管理だけでなく、在庫管理や材料発注にまで一括で管理することができるため、急速に広まっていったのです」(飲食店向けコンサルタント)
チェーン系の飲食店ではメニューの注文状況から仕入れを管理することで、フードロスの削減にも繋げるなど、スマホやタブレット端末によるオーダーシステムは、今やなくてはならない存在になったのだ。
2019年にタブレット端末によるオーダーシステムを導入した回転寿司チェーンの元店長は、導入当初の苦い思い出を話してくれた。
「導入したタブレットがポンコツで、すぐに固まったり反応がよくなかったりで、従業員の呼び出しボタンを何度押されたことか。私がいたのは都内の繁華街で、22時過ぎからは1軒目で飲んで出来上がったお客さんが多かったんです。酔っ払ってるからうまく操作できなくて直接注文や逆ギレして怒鳴られることなんて、ほぼ毎日。みんな疲れ切ってましたね(苦笑)。でも、タブレットがしっかり機能するようになってからは従業員の負担も減って、大助かりです」
この店長曰く「何事も最初は大変ですからね」というが、雨降って地固まる、改良を重ねた結果が今日に至るわけである。
飲食関係者からは高評価
他の飲食関係者に聞いても、タブレット端末によるオーダーシステムは概ね好評だ。いくつか声を紹介しよう。「注文で呼びつけられないから、バイトのコたちは料理を運んだりドリンクを作る作業に時間が割けるようになった。バイト2人分くらいの働きはしてくれているよ」(ファミレス店長)
「明らかに注文ミスが減った。よくあったのが『こっち頼んだんだよ、そんなん頼んでねぇよ!』って、絶対に言い間違ってるのに逆ギレする人。タブレットでオーダーしたら、どちらが間違えているかハッキリしますからね。まぁ、自分がミスしてたとしても逆ギレするひともいるんですが(苦笑)」(チェーン系居酒屋 従業員)
「私の店は浅草の近くなんですが、外国人の方がものすごく増えたんです。これまでは言葉の壁もあって意思疎通がうまくできず、外国人の方も注文が難しかった。でも、英語メニューを導入してスマホでオーダーできるようにしたら、すごく好評で、売上も増えましたね。やっぱり人ってわからないと注文しないんですよ」(チェーン系寿司店 店長)
どうやら飲食業界にとって、スマホやタブレット端末によるオーダーシステムはまさに福音のようだ。
一方で不満の声も…

「システム障害のときは従業員が注文を取るわけですが、しばらくやってないとミスを連発しちゃうんですよね(苦笑)。以前、システムがダウンしちゃったときはものすごいパニックで、スマホオーダーを導入された後に入ったバイトのコなんて半泣き状態でしたよ。売上管理も一緒にやっているので、売上の計算もしなきゃいけなくなって、復旧するまでは地獄でした」(チェーン系ラーメン店 店長)
「操作がうまくできない人への対応がけっこうな負担になることもあります。特に高齢者の方に多いんですが、最初から呼びつけて口頭注文され、その際にバイトのコに『こんなんよくわからんから、ちゃんと注文取りに来い』とか言ってくる人もいますね。
一般の客からも高評価
では、一般ユーザーからの評価はどうなのだろうか。こちらも支持する声が多く聞かれた。「私のような女性客からは好評なんじゃないでしょうか。仕事帰りにファミレスで1人飲みすることがあるんですが、いちいち従業員の方を呼びつけなくていいから、気兼ねなく1人飲みができるようになって嬉しいですね」(30代会社員 女性)
「最近は外国人の方がバイトしてることってあるじゃないですか。たどたどしい日本語で話されると、こっちも大丈夫かなぁって思うけど、スマホでオーダーできたら、店員も客も負担が減るからWin-Winだと思う」(30代 会社員男性)
なかには「牛丼店で注文が恥ずかしくなくなった」という女性の声もあり、お一人様を気兼ねなく楽しめる、従業員に気を遣わずに注文できるといった声が多く聞かれた。
使いづらいシステムや細かい注文に対する不満も

「たまにものすごくデキの悪いオーダーシステムのとこってあるじゃないですか。『注文する』ってボタン押して注文できたと思ってたら、最後に『確定』のボタン押してなかったから注文できてなかった……なんてこともありましたね。誤発注防止のためなんでしょうけど、手間が増えると客のストレスは増えるので、導入するときにちゃんとチェックと検証をしてほしいですね」(30代 会社員男性)
「最近は細かい注文ができるシステムも増えてますけど、苦手なものとか抜いてほしいときにスマホオーダーだとできないみたいな。チャーハン注文したいけど、グリーンピースは抜いてほしいとか(笑)。それで店員さんをいちいち呼んじゃうと、なんか悪いなぁって思ったりしますね」(20代 大学生女性)
「チェーン系のお店ならいいんだけど、ちょっと高級なお店でタブレット出されると、やっぱり萎えるなぁ。導入するお店は客層をしっかり判断して導入してほしい」(40代 会社員男性)
便利さゆえに生まれた意外な不満
これらのシステムは特に女性からの評価が高い傾向にあり、従業員を呼ぶことに抵抗を感じるようになったという声は多く聞かれた。細かい注文が可能なシステムも最近は増えているのだが、それについてラーメン店の店長からのこんな声もあった。「麺の硬さ、味の濃さ、脂の多さをこれまでは聞いていたんですが、スマホオーダーにしたらそれも全部やってくれるようになった。前までは『麺カタ、コッテリ、味は少し濃い目で!』とか『麺と味はフツー! 超コッテリで!』とか、お客さんの注文が響くとテンション上がるんですよ。外国人のお客さんも“勉強”してきてくれて、片言の日本語で『メンカタメ……アジィ、フツゥ……コッテリィ?』みたいに頑張って言ってくれたら、こっちも『オーケー! オーケー! 麺堅め、味普通でコッテリね!』って返して、お互い笑い合ったりね。そういったことがなくなって……たしかに便利にはなったけどなんかしっくりこないですよね」(ラーメン店 店長)
便利になればなるほど新たな問題は出てくるとはなんとも皮肉なことである。店員とのやり取りも食事をするうえでは、大きな楽しみの1つであることも今回の取材では強く印象に残った。
もちろん、システムの開発者たちはこうした不満の声があることを知っているだろう。デジタルの便利さとアナログの楽しさがうまくハイブリッドしたシステムが誕生するのも、そう遠くないのかもしれない。開発者たちの新たなソリューションに期待したい。
取材・文/谷本ススム
【谷本ススム】
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター