さまざまなシーンで問題となっているハラスメント行為。徐々にその言葉は世間に浸透し、人々の認識は高まっているものの、減少する気配はなさそうです。今回は、あるサポートセンターで起きた、客の“とんでもない行為”をレポートします。ただ、その結末は決して悪くはなかったそうです。
カスハラと格闘する日々
某ECサイトのサポート部門で勤務する長谷川さん(仮名・25歳)。以前はアウトソーシングで顧客対応を行っていましたが、長谷川さんが入社するタイミングで自社体制になったそうです。「ウチは多種多様な商品をオンラインで販売しているので、ユーザー層はさまざまです。入社当時に比べればカスタマーハラスメント(カスハラ)は減ってきているものの、未だゼロにはなりません。先日も、悪天候で配達が遅れた客から『おまえが今から持ってこいよ!』『返品受けないと怖い目に遭うぞ』という脅迫じみた罵声を浴びせられることもありました」
カスハラは減少傾向にあるものの、時折発生する常識はずれな客の態度は、サポート業務に精通しているベテランスタッフでさえもメンタル的につらいという事実は否めないようです。
いきなりキレる男性客
そんななか長谷川さんも、ある年配の男性客に手を焼いているそうです。「商品を買うための会員登録ができないと言うんです。初日は特に声を荒らげることもなく、私の説明を素直に聞き入れ『とりあえずやってみます』と言って電話を終了しました。でも、次の日もまた問い合わせがあり、男性客は私を指名しました。私は昨日と同じ内容の手順をゆっくりとした口調で伝えました。
男性客はその件で5日連続して電話をかけてきました。初日こそ穏やかな口調だったそうですが、「途中から徐々にイラだつ様子が手に取るように感じた」と語る長谷川さん。
「もうこれ以上説明する手立てがなくなったので、丁重にその旨を伝えたところ『おまえはわしをばかにしとるのか! もういい!』と激昂し電話を一方的に切ったんです。鼓膜が破れるかと思いました」
まさかの怒鳴り込み

ところが翌日、とんでもない事態に発展することになります。なんと、その男性客が、どこから情報を取得したのか、カスタマーサポートの会社まで押しかけてきたのです。
「めちゃくちゃびっくりしました。出勤してしばらくしたら受付から『かなり年配の男性が長谷川さん宛にお見えになっていますよ』という内線が掛かってきたんです。客が押しかけて来るなんて初めてのことです。とにかく急いで受付まで走りました」
長谷川さんが階下の受付フロアに行くと、白髪の年配男性が腕を組んで立っていたそうです。ただ、想像とは裏腹に長谷川さんの目には一見紳士風の上品な感じに映ったそうです。
「バカにするのもいい加減にしなさい」
「自分の名前を名乗り、男性客の名前を確認すると『君が長谷川くんか。年寄りをバカにするのもいい加減にしなさい。長谷川さんは「私の力が及ばずご迷惑をおかけしていて大変申し訳ございません。よろしければ、ここでもう一度ご説明してもよろしいでしょうか?」と、冷静に話しかけると、男性客は持参したノートパソコンを受付のソファにたたきつけるように置いたそうです。
「持参したノートパソコンを開き、以前その男性が登録したパスワードを入力すると、あっさりとログインできました。たぶん、Caps Lockが押されていたのか、大文字と小文字を間違えるなどの初歩的なミスだったのでしょう」
問題を解決させた“祖父”というワード

長谷川さんは、無事にログインができたことと、失敗し続けた原因を伝えました。すると、長谷川さんのことが孫に見えてきたのか「私にも君くらいの孫がいるよ。でもな、あいつはどこで何をしとるんだか」と、さっきまでの鬼のような形相は消え、別人のように穏やかな雰囲気になったそうです。
結局、その男性は「ありがとう。わざわざ来てよかったよ。
<TEXT/ベルクちゃん>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営