JRの公式サイトによると、縦・横・高さの合計が250㎝以内で、長さは2mまで、重さは30kg以内のサイズの荷物であれば持ち込み可能とされているのだが、規格以上のスーツケースを持ち込んで狭い車両を占拠する乗客もなかにはいるだろう。
いまから2年前、出張先へ向かう電車内にて、スーツケースで通路をふさぐ迷惑客に遭遇したという山川さん(仮名・40代)が当時のエピソードについて語ってくれた。
ほぼ満員の車内で通路に大きな荷物を置く若者
都内に住む山川さんはその日、出張のために神奈川県西部方面へと移動していた。「翌日の早朝から、神奈川から静岡へ移動しなければならない仕事の予定があったので、前日のうちに静岡寄りの神奈川のホテルに1泊しようと思っていたんです。その日は都内の勤務先での仕事が終わってから、そのまま東海道本線に乗って神奈川方面に向かいました」
山川さんはその日残業をしており、夜遅い時間帯に乗車したそうだが、ほぼ満員の状態だったという。その車両には、ボックス席と通常のロングシート席が設置されていた。
「車内には帰宅するサラリーマンなどが多かったんですが、ボックス席に座っていたガラの悪そうな若者4人組のグループはとても目立っていました。ほぼ満員状態で狭いのに、大きなスーツケースを通路側に置いて場所を塞いでいたんです」
山川さんによれば、若者たちは周囲から冷たい目で見られていることも気にしていない様子で、大きな声で会話をし、さらには酒まで飲み始める始末だったという。
しびれを切らしたサラリーマンが果敢に
逆ギレされるなどして面倒ごとに巻き込まれたくないのか、ほとんどの乗客は注意できない状況だったそうだが、そんななか、しびれを切らしたとある人物が若者たちに声を上げる。「私と同世代くらいのスーツを着たサラリーマンの男性が、少し離れた場所から若者たちに向かって『うるさい君たちさあ!みんな迷惑してるんだから、その荷物、足元に置くとか、網棚に上げるとかできないわけ?』と果敢に注意してくれました。その男性はかなり怒っている様子でしたね」
しかし、注意された若者たちは「チッ」と舌打ちをするだけで、男性を無視。注意されたからか大きな声で会話をすることはなくなったが、依然として酒を飲みながら会話を続けていた。
そんな態度に、注意した男性は怒りが収まらなかった様子。「おい!何とか言えよ!」などと声を荒げ、若者たちにさらに怒りを向けた。
「車内はとても険悪な雰囲気になっていました。
だがそれでも若者たちは相変わらずで、スーツケースを通路からどける様子はなかったという。
ブチギレたサラリーマンに近づいた意外な人物

「60代くらいで、いかにも紳士といったような、身なりのきちんとした初老の白髪男性が、サラリーマンの男性に近づいて、『バカは相手にしちゃいけません。相手にしない、相手にしない』などと言って落ち着かせていました」
サラリーマンの男性はその言葉に納得したのか「それもそうですね。言っても通じない相手はいますからね」などと言って、穏やかな様子で白髪の男性と談笑し始めたんだとか。
バカ呼ばわりされてしまった若者たちはその後…
「その後2人の男性はボックス席のある場所から離れ、車両間のデッキで何やら話し込んでいました。しまいには名刺交換までしていて、ビジネスの話で盛り上がっていた様子でしたね。このひょんな出来事が、そのサラリーマンにとって自分の仕事上メリットのある出会いになったようでした」
一方、周囲の視線がますます冷たくなっていたのを感じたのか、“バカ”呼ばわりされてしまった若者たちはさすがにその場に居づらくなったようで、次の駅でべつの車両に移動したそうだ。
――迷惑客に果敢に注意したことで、思わぬ仕事上のチャンスに巡り合えたかもしれないサラリーマンの男性。迷惑していた乗客を救った因果応報かもしれない。
しかし、男性側も声を荒げてしまった点も忘れてはいけない。迷惑客に逆上されるなど、リスクもある。トラブルを避けるためには、常に冷静に対応したいものだ。
<取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio)>
【瑠璃光丸凪】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは、アングラ・音楽・ファッションなどサブカルチャー全般と、ジェンダー問題、政治経済問題について。趣味はレコード集め。