「“自分は裏方でいい”と思った瞬間に、表に出たいという欲求がなくなった」
事務所の代表となったことで、佐倉さんに訪れた心境の変化とは。セクシー女優引退後に歩んできた5年間の軌跡、そして今後の展望を語る。
親には「30歳で辞める」と言っていた。引退から5年…

「もうそんなに経ちますか。時間が過ぎるのは早い……」
――セクシー女優としての活動期間は約6年。これはデビュー当時から決めていたことだったのですか?
「はい。私はデビューが24歳だったのですが、最初から30歳で引退することを決めていたんです。というのも、デビューする際に親とかなり揉めまして……。
親を説得するにあたって、『普通に結婚して子供も欲しいから30歳で辞める』と言っていたんです。まあ、それでも親からは『うちに娘はいなかった』ということにされてしまったんですけど(笑)」
――なんと!親御さんと絶縁していたのですか?
「今はもう和解済みですよ。
――引退日は2020年3月31日。佐倉さんの誕生日が5月30日。ギリギリですね(笑)。
「本当は引退と同時にSNSのアカウントもすべて消すつもりだったんですよ。当時は名前を世に残さずにスパッと辞める方がカッコいいと思っていたので。
でも、そのタイミングでコロナ過に入ったせいで、引退プランが伸びてしまったんです。ちょうど『スカパー!アダルト放送大賞』にノミネートされていて、結果発表が引退後の10月になってしまった。だから、辞めた後も名前を残さなきゃいけなくなったんです」
――そして、2020年12月に「佐倉絆」がオーナーのラーメン屋『新潟発祥なおじ 上井草店』を開業していますね。
「引退後は本名で就職しようと考えていたのに、色々あってそれも難しくなってしまって。やることがない状態になった時に『飲食店の経営に興味ない?』と声が掛かったんです。ラーメンは大好きだったし、ファンの皆さんと会える場所にもなると考えてやってみることにしました」
――しかし、2024年に惜しまれつつも閉店。
「飲食店経営は好きではあったけれど、心から情熱を傾けることができなかったのが本心です。あと、けっこう『アダルト系の仕事は止めてくれ』とか、活動の制限をかけられることも多かったんですよ。『佐倉絆』の名前を全面に出して経営する以上、それは無理な話なんですけどね(笑)。
でも、経営については色んな人からアドバイスをいただいて、本当に助けられました。決して一人ではできないことだったと思っています」
新事業立ち上げの前に「お金を持ち逃げされて…」

「『佐倉絆』の名前を残す以上は、やっぱりアダルト業界にいたいと思ったんです。実は、ずっと夢だったアダルトグッズの会社を立ち上げるつもりで動いていたのですが、共同で運営しようとしていた相手にお金を持ち逃げされてしまいまして。いったんそっちは諦めて、前に所属していた事務所のマネージャーと一緒にプロダクションを立ち上げることにしました」
――今、サラっと重めの暴露を……。
「お陰でいちばん自分のやりたかったことにストップがかかっちゃいました(笑)。でも、ラーメン屋の時もそうですけど、『これからどうしよう』って状況になると、何かしら新しい話が来るんです。たぶん、私は運が良いんですね」
――社長としてどのような業務をしているのですか?
「経理は完全に元マネージャーに任せています。女優さんたちがギャランティを元・女優に知られるのは嫌なんじゃないかと思ったので。私が担当しているのは、主にメーカー回りや採用面接ですね。
とはいっても、今の所属女優さんはほとんどが移籍組で、まっさらな新人さんってまだ一人だけなんです。自分のことは自分でできる女の子が多いので、ラーメン屋の時より、圧倒的に時間に余裕がありますね。もっぱら、犬と戯れてるか、Webデザインや動画編集の勉強をしているかです」
――面接の時は、女優志望の方とどういう話をしているのでしょうか。
「まず、お金が欲しいのか、それとも知名度が欲しいのかの確認ですね。今はセクシー女優がアイドル化しているので、憧れを持って事務所の門を叩く人がすごく多いんですよ。
だからこそ、必ず将来のことを聞くようにしています。女優を辞めた後のセカンドキャリアを見据えたうえで始める方がいいですから。本気で頑張る必要がある、中途半端な承認欲求でやっていくのは難しい世界だとも伝えています」
ようやく今になって「引退ってこういうことなんだ」

「オタクは今でも継続中です。推し活している時がいちばん楽しいです。ただ、私は腐女子ではなく夢女だったせいか、セクシー女優時代から同担オタクに、しょっちゅうネットで悪口を書かれていました。推し活現場で盗撮をされて、勝手に写真をアップされたりもしていましたよ」
――そんな恐ろしい経験をされていたとは。
「でも、今はまったくそういう攻撃がないんです。本当にここ最近になって、一気になくなりました。これは、私が推しや周囲に対してギラギラしなくなったからじゃないかと考えています」
――引退直後からではなく、最近のことなのですか?
「ラーメン屋の時には『佐倉絆の名前を残さなきゃ!』という気持ちが強かったんですよ。だから、まだ現役当時と同じくらいギラギラだったんです。
事務所を立ち上げることになって、“自分は裏方でいい”と思った瞬間に、表に出たいという欲求がなくなりました。主役は私じゃなくて、別の女の子。もう、私は目立たなくていいんです」
――今後、事務所の社長としてどのような展望を描いていますか?
「細く長くやっていきたいと思っていますが、看板になる新人女優さんが欲しいのも本音です(笑)。私は6年間同じメーカーの専属女優だったのですが、それを超える7年以上の専属女優を生み出すことが今の目標ですね。事務所から『佐倉絆』のイメージが消えるくらいの女優を育てていきたいです」
――プライベートでの目標はありますか?
「“中の人”としては、生きていける程度の生活力が欲しいですね。あとは、親に仕送りができるくらいの稼ぎが欲しい。すっかり自分に対する欲は消失しましたが、ようやく今になって『引退ってこういうことなんだ』と実感しています」
――ありがとうございました!
<取材・文・撮影/もちづき千代子>