―[貧困東大生・布施川天馬]―

 みなさんは自分自身が「地頭がいい」と思っていますか?
 私は、理解力に乏しい人間です。「地頭」はよくないと思っています。
ほかの人ならなんなく理解できることを、私は長い時間をかけなくては理解できませんでした。何度「コツさえ掴めば早いんだけど……」と言われたかわかりません。

 ある日私は、物事をそのまま理解することを諦めました。文字をそのまま理解しようとしてもわからないのだから、もっと簡単で同じような仕組みの物事を例にとって、それと比べて理解しようとしたのです。

 最近になってから、この考え方を「類推思考」と呼ぶことを知りました。

 未知の出来事でも、構造さえ見抜けば、同じような構造をしている既知の事象との比較を通して、正体を見抜くことができる。

 東大合格をはじめとして、「地頭がいい」とされる人々のマネをするためには、この考え方は欠かせませんでした。今回は、思考や理解に欠かせない類推能力についてお伝えします。

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「授業」と「料理」の共通点は?

 類推思考では、共通点を見つけ出すことが重要になります。共通の特徴は、一目でわかるものから、考えないとわからないものまでさまざま。

 これをとらえるには、抽象化の思考が必要になります。傘を「雨の時にさすもの」、冷蔵庫を「食べ物が腐らないようにするもの」と考えているだけではわかりませんが、両方とも「外的要因から中身を守る」ためのものだと抽象化すれば、共通点に気付けます。

 では、みなさんは「授業」と「料理」の共通点がわかりますか? 一見すると、全く関連のないように見える2つの物事ですが、これらには確かに共通する性質があると私は考えています。


 これを考えるためには、抽象化が必要。抽象化するためには、両者の具体的な特徴から構造を考える必要があります。

類推思考を実践してみる

 授業とは、学校や塾で行われる定期的な催しで、なにかのテーマに沿って講演者が解説を行い、多数の受講者の理解を促します。

 授業で解説される内容は、一般的に「理解すべき」とされながら独力では理解しがたいものが多く、そのために聴講者の理解を促すような解説がなされるか、登壇者の手腕が問われるケースが多い。

 一方で、料理とは、家庭やレストランなど幅広く様々な場所で行われ、食材に対して切る・煮る・焼くなどの操作を加え、より食べやすい形に変えていく試みのこと。

 通常、食材はそのままの状態では、食べにくいもしくは食べられないことが多く、それらに対して様々な操作を加えることで、味や触感、安全性を改善し、より食べやすい形に変えることができます。

 操作の結果によって出力される料理の食べやすさの度合いは、調理者の手腕によって大きく変化し、高い腕前を持つ調理者は料理そのものを生業とすることもあります。

 これらから、どんな特徴が抽象化できるでしょうか?

両者に共通する性格とは

誰でも「地頭がいい人」になれる思考法を東大合格者が伝授。「授業と料理には“共通点”がある」
両者に共通する性格とは
 授業も料理も、催行者によって提供される事象であること、さらにその腕前によって提供される内容のクオリティが大きく変化することなどがわかったかもしれません。さらに言えば、授業も料理も、「そのままだと摂取しにくい・できない」ものを加工する試みでした。

 つまり、両者に共通する性格とは「一次状態では摂取困難な事象を操作によって摂取しやすくする試み」であること。

 もう少し平易な言葉で言えば「そのままでは取り入れられないものを、あれこれ工夫して取り入れやすくする試み」であるといえます。

 授業とは、「そのままでは理解しにくい・理解できない内容」について、解説による理解の補助を促す試みのこと。そして、料理とは「そのままでは食べにくい・食べられない材料」について、調理による可食性を向上させる試みでした。

 具体的なレベルでは、「勉強を教える」「材料に調理を加える」と全く共通点が見いだせないものでしたが、一歩引いてみてみれば、同じような形が見えてくる。


 この考え方を普段から癖にしておけば、わからない物事が出てきたときに「構造を把握して、同じような構造を持つ別の物事と比較することで、内容の理解を類推する」ことで、理解を促すことができます。

応用する類推思考

 類推の優れたところは、未知の物事について、既知の同じような構造を持つ物事をあてはめることによって大枠を把握できること。

 大抵の物事は、まずざっくり理解してから、細かい相違点について把握していけばよい。少なくとも、私は中高生の頃からあらゆる物事についてこの方式で理解を試みてきました。

 私の記憶にある中で、最初の類推体験は、中学生の時の国語の教材について。ファッション哲学に関する文章で、何を言っているのかわからなかった。ただ、「要するに、着ぶくれと同じことでは?」と当てはめた瞬間に、筆者の述べる違和感の正体がよく理解できた気がしました。

 どんなプロセスを経ても、最終的に理解できているならば、出力される結果は大して変わらないでしょう。問題は、理解に至るまでの速さと正確さではないでしょうか。

 その点で、難しい物事であればあるほど、類推の思考は役に立ちます。難しい概念を簡単な概念と置き換えることで、内容が一気に身近に感じられるようになるからです。

 私は幼少期からこれを実践してきましたが、いきなりこれを実践するのは難しいでしょう。


 お勧めは細谷功先生の著書です。『具体抽象トレーニング』など、例題を通して類推思考が鍛えられます。難しい話を、難しいまま理解する必要はない。理解力に自信がない方は、類推思考にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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