帝国データバンクによると、ステーキ店の2024年の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は13件。2年連続で増加し、過去最多を更新したとのことだ。
個人店の廃業・閉店を含めると、かなりのステーキ店が市場から退出したとされる。
輸入牛肉の値上がりや円安・ガソリン高による物流コストの上昇、干ばつによる飼料価格の上昇を背景にした、生産コストの増加がその主要因で、コメや野菜の高騰も経営を圧迫している。今後、米国産牛がトランプ関税でどうなるかも不透明で予測が難しい状態だ。
今回はステーキ市場の中で存在感を発揮する、ファミレス業態の「ブロンコビリー」と、ファスト(カジュアル)業態の「やっぱりステーキ」を取り上げたい。
東海地方を中心に全店直営、2025年3月末時点でその数は140店舗にのぼる。現在、他の業態も開発しグループシナジーを高めており、グループ合計155店舗を展開中だ。
経営環境が厳しいステーキ業界の中でも、店舗数と売上を確実に増やしており、財務基盤を盤石化させながら、次なる成長に向けた戦略を推進中だ。
需要があるからと無理に出店し失敗する例の多い外食市場だが、身の丈に合った堅実経営を貫いている。
直近の決算(2024年12月期)を見ると、売上266億円(全店ベース、前年比+13.9%)、営業利益25億円(前年比+53.9%)、営業利益率9.5%(前年比+2.5%)である。
既存店ベースで前年比は、売上108.6% 、客数 104.6%、 客単価 103.8%と全て上回っている。
時間帯別の売上構成は、ランチ56%、ディナー44%となっており、ディナー(売上109.0%、客数108.4%)が、順調に伸びていることが売上向上の主な要因だ。
経営の安定性の指標である自己資本比率も81.6%と財務基盤は盤石過ぎるほどで、将来の不測の事態に対する備えも万全だ。
2025年12月期の第1四半期(1月~3月)の業績に於いても、売上は72億8400万円(前年同期比+11.6%)と確実に伸びている。
加えて、強みのサラダバーも季節の野菜を使って年6回の内容刷新で価値を高めて来店を促進しているようだ。
店の総合力が競争上の差別的優位性を確保し、ハレの日やプチ贅沢需要に適合した店づくりに繋がっている。
客単価アップには、プラスワン商品などコンビメニューを推奨販売したことが大きく貢献。また、利用金額に応じたポイント付与も後押しした。
ブロンコビリーが圧倒的な人気を維持できている理由は、価値ある商品・リーズナブルな価格・元気ある接客と快適な雰囲気・来店を促進させる販促を効果的に組み合わせているからだろう。
DX化を推進して配膳ロボットなどを活用する他店と違い、人を中心としたオペレーションで付加価値を高めているのが特徴だ。
営業利益率の高さは原価率の低さが主要因だろう。
物価が高騰し節約志向の人が増える中、強いブランド力で適切な値上げを許容された価格政策で、集客と収益のバランスを取っている。
その効果もあり、重要指標の原価率は32.4%と適度に低い状態だ。仕入食材が高騰する中、最適な粗利ミックス計画と高度な原価管理技術で実現したと推察される。その結果、営業利益率は9.5%と、低収益になりがちな大型店舗でありながら高水準だ。
高収益率を維持するための施策として、商品力の強化を徹底し、顧客提供価値の向上に努めている。
具体的には、自社工場で定番メニュー化できない量でも高品質肉として柔軟に期間限定メニュー「バイヤーズセレクション」として販売したり、難しい規格の肉もステーキの規格にするための加工技術を磨いているようで、これが他社との差別化ポイントのようだ。
この米不足の中、ライスも店舗にかまどを設置し、新潟県魚沼産のコシヒカリを炊き上げており、釜戸ならではの強い火力と高い保湿性が品質を高めている。
また、店の目玉として常時20種類ある新鮮サラダバーもおすすめしている。毎年、契約農家と調達の時期や量を決めて発注していることから、野菜特有の市況の乱高下の影響が少なく原価も安定する。
サラダーバーは客席からも見える複数のモニターに映し出され、リアルタイムでサラダバーの状態が見える。これは、お客さんにモニターを通じてサラダバーを推奨すると共に、サラダの減り状態をスタッフが確認し、迅速に準備と補充をすることで、常にサラダバーを最適な状態にしているのだ。
ランチ(税込)は1,012円から販売し、572円のサラダバーや少量サイズで注文しやすい価格のトッピング商品を推奨販売して客単価アップを図っている。
ディナーはハンバーグ1,078円、ステーキ2,178円から用意されている。価格は、コストを重視しながらも品質価値を重視したプライシングだ。
顧客の来店促進に向け、アプリ会員には来店金額に応じたポイントを付与し、それとは別にアナログ販促として人数分の特典付きのスクラッチ券を配布して、再来店を促している。
市場を開拓した先駆者である「いきなりステーキ」のパクリと揶揄されながらも、店舗間のカニバリゼーションで失速したその先駆者から学習し、成長を加速させている「やっぱりステーキ」。
店舗の半分はフランチャイズで、他人資源を活用し経営リスクを分散させながら、経営理念共同体として強固な関係を構築し、積極的な店舗展開を推進中だ。
人口10万人当たりのステーキ店が10.8店と47都道府県で最も多い、沖縄が発祥の地だ。
ステーキを日常食にし、毎日でも食べられる気軽な食事にしたいと立ち上げたのが、ディーズプランニングの義元大蔵社長である。
2015年、那覇市に1号店をオープン。ローコストオペレーションの仕組みの確立により、多店舗展開をしていった。飲んだ後はステーキで締めるという沖縄文化を他地域でも広めており、店舗数の伸びは成長著しい。
コロナ禍でも店舗数を1.5倍と急伸させた実績を持つ。同社は非上場のため業績は公開していない。
ボリューム感ある美味しい肉を低価格で提供されており、食肉が高騰している中で、コスパ最強と定評がある。
溶岩石の上に肉が盛られて提供され、シズル感(肉が焼ける音)と匂いがますます食欲を掻き立てる。卓上には豊富な種類のソースが置いてあり、味変が楽しめる。
2024年10月から、お肉はスモールサイズ(約150g)、レギュラーサイズ(約200g)、ラージサイズ(約300g)と用意されている。
小規模な店舗で一人でも気楽に入れて、しかも、今の時期にライス・卵スープ・サラダ(キャベツ千切り・マカロニサラダなど)も食べ放題で、安価だから、人気が出るのも当然のようだ。
2025年2月は10周年を迎え、より一層の成長を目指している。
海外市場の開拓にも注力し、現在、オーストラリア、シンガポール、ネパール、フィリピンなど、海外では合計12店舗がある。
直近では、2024年12月、シンガポールに2店舗目がオープン。2025年3月に4店舗目がオープンしたフィリピンは、人口構造的に若者世代が多く平均年齢も若くて人口も増加傾向にある。そして、経済も明るい兆しを見せている。もともとファストフードなどの外食文化があることから、安くて美味しいカジュアルステーキの文化を浸透させつつ、成長の加速に期待できそうだ。
増加するインバウンド客にもステーキや鉄板焼きは人気だ。そのステーキ市場で、ブロンコビリーとやっぱりステーキの両社。それぞれ業態は異なるが、お互いを意識しながら市場に競争と刺激を与えている。
スクラップ&ビルドが頻繁で新陳代謝が激しい外食環境の中で、あらゆるコストの上昇に柔軟に対応している。この逆風を跳ね返し、今後も策定した成長戦略の実現に努めてほしい。
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。
個人店の廃業・閉店を含めると、かなりのステーキ店が市場から退出したとされる。
輸入牛肉の値上がりや円安・ガソリン高による物流コストの上昇、干ばつによる飼料価格の上昇を背景にした、生産コストの増加がその主要因で、コメや野菜の高騰も経営を圧迫している。今後、米国産牛がトランプ関税でどうなるかも不透明で予測が難しい状態だ。
今回はステーキ市場の中で存在感を発揮する、ファミレス業態の「ブロンコビリー」と、ファスト(カジュアル)業態の「やっぱりステーキ」を取り上げたい。
堅実経営で安定成長を実現するブロンコビリー
現在、東証プライム市場、名証プレミア市場に上場しているブロンコビリー。ステーキは炭火焼き、ライスは魚沼産コシヒカリの釜戸炊き上げ、新鮮で豊富なサラダバーが特徴のステーキ&ハンバーグチェーンだ。東海地方を中心に全店直営、2025年3月末時点でその数は140店舗にのぼる。現在、他の業態も開発しグループシナジーを高めており、グループ合計155店舗を展開中だ。
経営環境が厳しいステーキ業界の中でも、店舗数と売上を確実に増やしており、財務基盤を盤石化させながら、次なる成長に向けた戦略を推進中だ。
需要があるからと無理に出店し失敗する例の多い外食市場だが、身の丈に合った堅実経営を貫いている。
直近の決算(2024年12月期)を見ると、売上266億円(全店ベース、前年比+13.9%)、営業利益25億円(前年比+53.9%)、営業利益率9.5%(前年比+2.5%)である。
既存店ベースで前年比は、売上108.6% 、客数 104.6%、 客単価 103.8%と全て上回っている。
時間帯別の売上構成は、ランチ56%、ディナー44%となっており、ディナー(売上109.0%、客数108.4%)が、順調に伸びていることが売上向上の主な要因だ。
経営の安定性の指標である自己資本比率も81.6%と財務基盤は盤石過ぎるほどで、将来の不測の事態に対する備えも万全だ。
2025年12月期の第1四半期(1月~3月)の業績に於いても、売上は72億8400万円(前年同期比+11.6%)と確実に伸びている。
売上アップの要因は客数と客単価が共に伸びているから
客数アップ要因は売れ筋価格帯に断続的に新しいステーキメニューを投入し、飽きのこないメニューの拡充で集客力を強化。加えて、強みのサラダバーも季節の野菜を使って年6回の内容刷新で価値を高めて来店を促進しているようだ。
店の総合力が競争上の差別的優位性を確保し、ハレの日やプチ贅沢需要に適合した店づくりに繋がっている。
客単価アップには、プラスワン商品などコンビメニューを推奨販売したことが大きく貢献。また、利用金額に応じたポイント付与も後押しした。
ブロンコビリーが圧倒的な人気を維持できている理由は、価値ある商品・リーズナブルな価格・元気ある接客と快適な雰囲気・来店を促進させる販促を効果的に組み合わせているからだろう。
DX化を推進して配膳ロボットなどを活用する他店と違い、人を中心としたオペレーションで付加価値を高めているのが特徴だ。
営業利益率・収益率が高いワケ

充実したサラダバー
物価が高騰し節約志向の人が増える中、強いブランド力で適切な値上げを許容された価格政策で、集客と収益のバランスを取っている。
その効果もあり、重要指標の原価率は32.4%と適度に低い状態だ。仕入食材が高騰する中、最適な粗利ミックス計画と高度な原価管理技術で実現したと推察される。その結果、営業利益率は9.5%と、低収益になりがちな大型店舗でありながら高水準だ。
高収益率を維持するための施策として、商品力の強化を徹底し、顧客提供価値の向上に努めている。
具体的には、自社工場で定番メニュー化できない量でも高品質肉として柔軟に期間限定メニュー「バイヤーズセレクション」として販売したり、難しい規格の肉もステーキの規格にするための加工技術を磨いているようで、これが他社との差別化ポイントのようだ。
この米不足の中、ライスも店舗にかまどを設置し、新潟県魚沼産のコシヒカリを炊き上げており、釜戸ならではの強い火力と高い保湿性が品質を高めている。
サラダバーに対するこだわり

サラダバーの様子は常時モニターに映し出されている
サラダーバーは客席からも見える複数のモニターに映し出され、リアルタイムでサラダバーの状態が見える。これは、お客さんにモニターを通じてサラダバーを推奨すると共に、サラダの減り状態をスタッフが確認し、迅速に準備と補充をすることで、常にサラダバーを最適な状態にしているのだ。
ランチ(税込)は1,012円から販売し、572円のサラダバーや少量サイズで注文しやすい価格のトッピング商品を推奨販売して客単価アップを図っている。
ディナーはハンバーグ1,078円、ステーキ2,178円から用意されている。価格は、コストを重視しながらも品質価値を重視したプライシングだ。
顧客の来店促進に向け、アプリ会員には来店金額に応じたポイントを付与し、それとは別にアナログ販促として人数分の特典付きのスクラッチ券を配布して、再来店を促している。
ファストステーキの「やっぱりステーキ」の業績は?

やっぱりステーキ
店舗の半分はフランチャイズで、他人資源を活用し経営リスクを分散させながら、経営理念共同体として強固な関係を構築し、積極的な店舗展開を推進中だ。
人口10万人当たりのステーキ店が10.8店と47都道府県で最も多い、沖縄が発祥の地だ。
ステーキを日常食にし、毎日でも食べられる気軽な食事にしたいと立ち上げたのが、ディーズプランニングの義元大蔵社長である。
2015年、那覇市に1号店をオープン。ローコストオペレーションの仕組みの確立により、多店舗展開をしていった。飲んだ後はステーキで締めるという沖縄文化を他地域でも広めており、店舗数の伸びは成長著しい。
コロナ禍でも店舗数を1.5倍と急伸させた実績を持つ。同社は非上場のため業績は公開していない。
“コスパ最強”と言われる充実のメニュー

やっぱりステーキのメニュー
溶岩石の上に肉が盛られて提供され、シズル感(肉が焼ける音)と匂いがますます食欲を掻き立てる。卓上には豊富な種類のソースが置いてあり、味変が楽しめる。
2024年10月から、お肉はスモールサイズ(約150g)、レギュラーサイズ(約200g)、ラージサイズ(約300g)と用意されている。
小規模な店舗で一人でも気楽に入れて、しかも、今の時期にライス・卵スープ・サラダ(キャベツ千切り・マカロニサラダなど)も食べ放題で、安価だから、人気が出るのも当然のようだ。
2025年2月は10周年を迎え、より一層の成長を目指している。
海外市場の開拓にも注力し、現在、オーストラリア、シンガポール、ネパール、フィリピンなど、海外では合計12店舗がある。
直近では、2024年12月、シンガポールに2店舗目がオープン。2025年3月に4店舗目がオープンしたフィリピンは、人口構造的に若者世代が多く平均年齢も若くて人口も増加傾向にある。そして、経済も明るい兆しを見せている。もともとファストフードなどの外食文化があることから、安くて美味しいカジュアルステーキの文化を浸透させつつ、成長の加速に期待できそうだ。
業態の異なるステーキ店がそれぞれ拡大中
贅沢で豪華な食事とされたステーキ。昔はお祝いごとやハレの場でしか食べる機会がなかったが、気軽に行けるように業態開発してきたのが、ファストステーキ店やステーキファミレス店だ。増加するインバウンド客にもステーキや鉄板焼きは人気だ。そのステーキ市場で、ブロンコビリーとやっぱりステーキの両社。それぞれ業態は異なるが、お互いを意識しながら市場に競争と刺激を与えている。
スクラップ&ビルドが頻繁で新陳代謝が激しい外食環境の中で、あらゆるコストの上昇に柔軟に対応している。この逆風を跳ね返し、今後も策定した成長戦略の実現に努めてほしい。
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。
自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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