こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
「歩きやすい靴が欲しい」と思い、靴屋に行き、無数に並んだ靴の前に立つと、どれもそこそこ歩きやすそうに見えます。ある程度当たりをつけて、店員に相談し、案内された靴を購入していざ外を歩いてみると、思いのほか歩きづらかったり、高価だったのにすぐに壊れてしまった──そんな経験はないでしょうか。
不景気の中、ショップ側も売り上げを確保するために必死です。しかし、お互いが不愉快な思いをしないためには、購入する我々にも事前知識が必要なのです。
今回は、歩きやすい靴の見分ける方法を伝授します。それには、まず靴の「裏」を見ることです。歩きづらい靴の多くは、実は目的からズレている場合が多く、その靴が「何の目的で作られているのか」を端的に知るのが、靴の「裏」なのです。
ドライビングシューズはやわらかいけどワンシーズンで終了
「いい大人は上品なドライビングシューズを選ぶ」とも謳われ、履いた瞬間のソフトな印象に惚れる方も多いドライビングシューズ。ガチガチな革靴から乗り換える人も年々増えています。ただ、価格の割に数か月で底に穴が開いてびっくりした人も多いでしょう。当然です。車を運転するためだけの靴であって、決して「歩く靴」ではないからです。クラークスの名作「マークマンプレイン」が有名ですが、裏を見ればすぐに理解できます。
底が自在に曲がるスリッポンなのに脱げづらく、カカトもすぽすぽと浮くことがないのでつい買ってしまう気持ちもわかります。筆者がリペアをやっていた時代にこの靴は何度も修理しましたが、コンクリートの上を歩くと、薄いラバーの角をヤスリでこすり続けるようなものなので半年も持ちません。ブロック状に分かれたパーツは修理用のゴムでは対応できず、仮に直しても数か月で元の木阿弥。
スリッポンの裏をひっくり返して、ブロック状に分割されていたり、スパイクのようなゴムがあれば、それは、かなりの確率でドライビングシューズです。買うのは自由ですが、車の運転か、歩くならカーペットの上だけにしておきましょう。
大人気スニーカー、プーマ「スピードキャット」もドライビングシューズ?

その“Nマーク”、本当に歩ける? ニューバランス神話に潜む落とし穴
大人が選ぶべき靴として必ず名前が挙がるのがアディダスの「スタンスミス」。しかし長時間歩くにはまったく向いていません。これも底の裏から見ると一目瞭然で走ることが目的のニューバランスのクラシックモデルと比べてみましょう。



シューフィッターの立場からすると、革靴もスニーカーも、あまりに大雑把なくくりだと考えています。ショップも売れてなんぼの世界なので、その場で履き心地が良く、見栄えのする靴を売りたがります。店頭で迷ったら、ぜひ靴をひっくり返してみてください。歩きやすさ・長持ちをする靴を選ぶには、靴の「裏」に答えがあります。
―[シューフィッターこまつ]―
【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。