アメリカの名門オートバイメーカー、ハーレーダビッドソンが窮地に陥っています。2025年1-3月の販売台数が前年同期間の2割減となったのです。
大株主は取締役の交代を求めるなど、大波乱の展開といえるでしょう。
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大株主がツァイツCEOの即時退任を要求か?

ハーレーダビッドソン「販売台数2割減」の衝撃… ホンダ・カワサキと大きく明暗が分かれたワケ
業績推移 ※Quarterly Resultsより筆者作成
 株式の9%を保有するHパートナーズは、取締役8名のうち3名の解任を要求する準備を整えていると、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。CEOのヨッヘン・ツァイツ氏に対しては、即座の辞任を求めるとのこと。ツァイツ氏はすでに退任することが予定されており、後任が決まるまでは留任すると発表していました。

 ハーレーは2024年度の通年の販売台数が7%減少。売上高は11%も縮小していました。

 販売台数は年末にかけての落ち込みがひどく、2024年10-12月の販売台数は15%減。主力市場のアメリカにおいて、インフレと高金利の影響を受けたといいます。2025年度は巻き返しに期待されましたが、1-3月はまさかの21%減で減少幅を広げる結果となりました。

 大株主であるHパートナーズが、焦りを滲ませるのも頷けます。

 高シェアを保ちながらも、旧来型のクルーザーモデルに特化するという稀有なメーカーであるハーレー。2020年にCEOに就任したツァイツ氏はそこに風穴をあけようと革新的なモデルを投入したものの、それがライダーに支持されず空回りした印象があります。

『ターミネーター2』からロングセラーモデルも

 ハーレーはオートバイの開発競争が激化した1969年に経営難に陥り、AMFという会社の傘下に入りました。そこから「ローライダー」や「XLCR」といった伝説的な名車を残し、熱狂的なファンを獲得していきます。
1981年に経営トップと現場の熱量の差が目立ちはじめ、品質の低下が懸念されたためにAMFから独立。エボリューションという新たなエンジンを開発するに至りました。

 1990年に入って映画『ターミネーター2』で使用された「ファットボーイ」を発売すると、これがロングセラーモデルとなります。その後もヒットモデルを生み出し、日本におけるアメリカンブームも重なってハーレーは飛躍しました。

 オートバイ市場においては、1960年代末ごろから日本車が大躍進を遂げていました。エンジンは多気筒化し、空冷から水冷を採用するモデルも増加。70年代後半に入ると、DOHCと呼ばれる機構を取り入れるのが一般的になっていきます。日本の技術力によって、オートバイは性能を競い合う時代に突入していました。

独自の地位を築くも、時代に取り残されてしまう

 ハーレーは空冷Vツインエンジンにこだわり、エボリューションの新型モデルにおいてもバルブの開閉をプッシュロッドという機構で行う従来のスタイルを踏襲。

 これが市場に受け入れられたことにより、競合他社が生き残りをかけて切磋琢磨していた機能性を追い求めるというポジションから、ハーレーは抜け出すことができたのです。しかし、これは諸刃の刃でもありました。当時は優位性を保っていたものの、ガラパゴス化によって時代に取り残される結果となったのです。

 一般的な大排気量モデルは、排出ガス規制への適合や性能面で劣るため、空冷が使われることはほとんどありません。
しかし、ハーレーは最新型のミルウォーキーエイトVVT121エンジンにおいても空冷を採用しています。これはハーレーの既存のファンが空冷特有の鼓動感を求めているからにほかなりません。

ホンダとカワサキは北米で好調を維持

 ただ、オートバイ市場全般においてはクルーザーの人気が衰えました。性能を極限まで追求したスーパースポーツやストリートファイター、走破性の高いアドベンチャータイプが人気を獲得しています。

 ハーレーとよく似たオートバイを販売するアメリカの会社に、インディアンモーターサイクルがあります。ハーレーとインディアンは、クルーザーの購入をする際に比較検討されることでよく知られています。この会社を傘下に収めているのがポラリス・インダストリーズ。ポラリスのインディアンを含むオンロード事業は、2024年度が17%の減収でした。2025年1-3月は2割の減収。不振ぶりはハーレーと非常によく似ています。

 一方、ホンダの二輪事業における2024年4-12月の北米販売台数は11.4%増加。カワサキの2024年度の北米販売台数も23.4%増加しています。

 こうした数字を見ると、ハーレーの売れない主要因がインフレや高金利ではないことがよくわかります。


新たな顧客層を開拓しようとするも…

 旧態依然とした体制を打破しようとしたのが、ツァイツ氏でした。ハーレー初の電動バイク「ライブワイヤー」、アドベンチャータイプの「パンアメリカ」を世に送り出しました。そして日本でも人気のあるシリーズ「スポーツスター」を水冷モデルに一新し、高度な電子制御システムを搭載して販売しました。中型免許でも乗れる350ccモデルも市場投入します。

 ツァイツ氏が新たな顧客層の開拓を目指したのは明らか。しかし、ハーレー社の販売台数を見ると分かる通り、この目論見は大きく外れてしまいます。

「パンアメリカ」は価格が230万円を超えますが、アドベンチャーモデルの絶対的な王者であるBMWのGSシリーズと価格はそれほど差がありません。長い歴史をかけて実績を積み上げてきたBMWとの比較において、突然発売されたハーレーのモデルに手を伸ばす人は少ないでしょう。よほどデザインを気に入った人でなければ購入の決断をしないのは容易に想像ができます。

日本では過剰なノルマで自爆営業も

 350ccのモデルは価格が安いものの、これは中国メーカーが基本設計したものをハーレー風に味付けしたもの。ハーレーブランドに憧れを持っていても、OEMとなると尻込みする人が多いのかもしれません。

 電動バイクは早すぎたといったところでしょう。

 2024年7月にハーレーの日本法人が販売店に対して過剰なノルマを課していたことが表面化しました。
公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を行ったのです。

 ノルマが達成できなかった販売店は、自分たちで購入する“自爆営業”が横行していたといいます。

 しかし、いくら厳しいノルマを課しても、売れるオートバイがなければ目標は達成しません。日本でのこの出来事は、アメリカ本社の行き詰まりを如実に物語っています。

 ハーレーは上場企業として拡大を目指すメーカーではなくなったように見えます。上場を維持したまま経営を続けると、これからも迷走を続けることになるのではないでしょうか。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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