長年にわたりさまざまなニュースに接していると、「この事件あるいは事故の処理について、法律のほうがおかしくないか?」と思うことがある。そもそも「法律の抜け穴」があるのもおかしいし、裏金問題のように釈然としないものもある。

 実は、世の中の法律はけっこう謎の多い世界。そんな謎を解き明かすのも骨が折れるし面倒……という、われわれ大多数の人に答えた書籍『世にもふしぎな法律図鑑』(日経BP)が出た。

トンチを駆使して24時間営業するネットカフェのカラクリ…「店...の画像はこちら >>
 その一部を抜粋・編集したうえで、ここに紹介しよう。

トンチを駆使して24時間営業! ネットカフェのカラクリ

トンチを駆使して24時間営業するネットカフェのカラクリ…「店内で提供しているもの」はNGなのに「持ち込み」はOK?
※写真はイメージです
 ある24時間営業のネットカフェの「店内で提供している飲食物を鍵付き個室内で飲食してはいけないというルール」がSNSを賑わせたことがありました。一方、利用客が自分で持ち込んだものであれば、そのような鍵付き個室で飲食することも禁じられないのだといいます。

 そんなバカなと実際にある事業者のウェブサイトを見てみると、いずれの店舗でも麺類やカレー、揚げ物を中心に豊富なメニューが安価に提供されているにもかかわらず、「警察の指導により、当店提供の飲食物(お食事・ドリンクバー・ソフトクリーム・お菓子含む)は個室内でお召し上がりいただくことができません」とあります。

 一方、「店外(コンビニエンスストア等)で購入された飲食物は個室内でお召し上がりいただけます」ともあります。自店で提供しているものではダメで、ほかで買って持ち込んだものであればOKという不可解なルールの理由はどこにあるのでしょうか。

風俗営業の規制を避けるため

 このような謎ルールの理由ですが、「警察の指導により」というところを手がかりに考えてみると、風営法に該当するのを避けるためではないかと思われます。

 風営法の2条1項では「風俗営業」に当たる5つのケースが挙げられています。客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業だとか、まあじやん・ぱちんこ等を用いて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業だとかが該当します。

 その中に①喫茶店・バーなどの営業も含まれているのですが、これらが「風俗営業」に当たるのは②「店内の照度が10ルクス以下」であるか、③「他から見通すことが困難」④「その広さが5㎡以下である客席」という条件を満たす場合になります。

 結果として「風俗営業」に当たるということになると、公安委員会の許可が必要になりますし、原則として深夜0時以降は営業できなくなるので、24時間営業ができなくなります。

 せっかく高性能なグラフィックボードを搭載したネットゲーム環境や全巻そろった『三国志』があるのに、深夜に店舗を追い出されてしまうのであれば、快活な生活など全く絵に描いた餅になってしまいます。


ネットカフェは風俗営業に当たってしまうのか?

トンチを駆使して24時間営業するネットカフェのカラクリ…「店内で提供しているもの」はNGなのに「持ち込み」はOK?
飲食の制限は個室営業を守るためだった(本書64pより)
 もし、ネットカフェが風俗営業に該当しないために、事業者はどのような対策をとりうるでしょうか。

 先に見た風営法上のカテゴライズからすると、ネットカフェが該当してしまいそうなのは、①「喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業」という部分です。店内がものすごく暗いか、閉鎖的で狭い個室を営業に使っていれば「風俗営業」になるということでした。もっとも、②「照度10ルクス以下」というと、イメージ的には黒魔術の儀式を執り行うくらいの明るさですから、ネットはできても『三国志』が読めません。ここは心配しなくてよいでしょう。

 一方、ネットカフェの鍵付き個室は③「他から見通すことが困難」なことは明らかですし、④「広さが5㎡(正方形なら一辺2.2メートル強)以下である客席」にも当たってしまいそうです。そもそも「狭く区切られたプライベート空間」は24 時間営業と並んでネットカフェの死守しなければならない営業上の砦です。

 そうなると、閉鎖個室営業を守るネットカフェがとるべき選択は、①にある「客に飲食をさせる営業」という部分の見直ししかありません。

 そこで、「自店で販売しているメニューを個室内で食べられると『飲食させる』に当たってしまう」→「でもお客さんが外から買ってきたものを勝手に飲んだり食べたりする分には『飲食させる』に当たらないのではないか」という流れに至ったのではないかということです。こうした発想は短絡的でも何でもなく、実際、風営法上の無許可営業で検挙されるケースでは、店舗側が飲食物を提供することが前提とされています。

 こうして生まれた変なルールとともに、鍵付き個室にて24時間の快活な時間が守られるというわけです。

快活と合法の狭間で

 熟慮の結果、事業者側が合法となる抜け道を見いだしたように、利用客の側も個室に居ながらにして店内メニューを食べる方策というものを見つけられないものでしょうか。ここで「鍵付き個室のドアを開け放って食べる」「ドアから頭と両手と皿だけ出して食べる」というのは鍵付き個室の趣旨に合いません。


「2名で店舗に行き、それぞれが店内メニューを購入したあと、それを交換する」という形はどうでしょうか。購入した時点で購入した客の所有となるとして「僕たち(私たち)店舗が提供したものを飲食しているわけではないのよ」という説明も考えられます。

 ただし、警察のご指導を受けるのはあくまで事業者ですから、こうした屁理屈を見過ごすことはできんと考えた店舗からあなたが出禁をくらうだけでしょう。

 郷に入りては郷に従え、ネットカフェに入りては風営法に従えを心がけて、楽しいネットカフェライフを堪能していただければと思わずにおれません。

著者/中村真
神戸大学法学部法律学科卒業。2003年、弁護士登録。2014年、方円法律事務所に加入し現在に至る。神戸大学大学院教授も兼務。著書に、『裁判官! 当職そこが知りたかったのです。―民事訴訟がはかどる本―』(学陽書房)、『相続道の歩き方』(清文社)ほか多数。『世にもふしぎな法律図鑑』(日経BP)は最新の著作。

【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。
ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki
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