現在公開中の劇場版『僕とロボコ』では、原作漫画、TVアニメでおなじみの『僕とロボコ』の世界にマルチバースから4体のロボコが迷い込む映画独自のストーリーの中でロボコ(ラブコメの世界線)を好演している。
実はTVシリーズのオーディションには落ちていた
「実は私、TVシリーズのロボコ役のオーディションに落ちていて……。今回ラブコメの世界線のロボコ役にオファーされたうえに、キャスト表には別の世界線のロボコ役に田中真弓さん、千葉繁さん、野沢雅子さんのお名前があったので、最初は『ホントかな?』と思ってました。作品自体は“いい意味でズルい”というか、『怒られるからやめようよ』ってくらい往年の名作の数々をパロディしているものの(笑)、どの引用元にも丁寧なリスペクトを捧げつつ新しいギャグを生み出していて、とても好きですね。私自身、これまでに出演してきたラブコメ作品で吸収してきたエッセンスを抽出しながら楽しくお芝居させていただきました」
「コロナの影響でお仕事が何か月も止まった時期に逆に体調がよくなったんです。それ以前は毎日キャパオーバー気味。お仕事に対して『もっとできたのに』という思考すらできない日もありましたが、たくさん休んで創意工夫の余地ができたというか。この役を通じて自分は何を表現できるのか? とゆっくり考えることができるようになり、仕事が何倍も楽しくなって。それがいい方向に作用しているのかもしれないですね」
コロナ禍を挟んだからこそ気付いた現場の貴重さ
さらにここ数年、対人関係にも変化があったのだとか。「コロナを挟んだからこそ、アフレコ現場ってすごく貴重なんだってあらためて気付けたんです。だからこそ共演者さんとのお芝居や会話をより大事にしたいし、最近は『初アフレコです』という新人さんと一緒になる機会も増えていて。例えば去年、『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』という映画の舞台挨拶で福嶋晴菜さんとご一緒したんですけど、福嶋さんは舞台挨拶が初めてだったとのことで。そういうときに『こういう時はこうすれば上手くいきますよ』と声をかけられるようになったことには、我がことながら変化を感じています。

「個人的には声優になりたくてこの世界に入ったら、いろいろなご縁があってアーティスト活動もさせていただけるようになったという感覚なんです。だからタイミングが合ったら曲を作るし、ライブもできたらいいな、というノリというか。(声優アイドルグループ・i☆Risが「今週の顔」に登場している『週刊SPA!』をめくりながら)この3月まで『声優と夜あそび』というネット番組で共演していて、プライベートでもよくごはんに行っているセリコ(i☆Risの芹澤優)は本当に根がアイドルというタイプ。
声優としてお芝居にもしっかり取り組みつつ、さらにすごくまっすぐ音楽にエナジーを傾けているから『本当にすごいよ、君』という話をよくしていますが、私はまた別のタイプというか。『楽しく音楽活動をするのも、別に悪いことじゃないのかな』という開き直りのもと活動させてもらっています(笑)」
自身はそう謙遜するが、多彩な作家陣による“上坂すみれの音楽”は、アニソンシーン内外から熱視線を注がれるワンアンドオンリーなものばかり。そしてそんな彼女は来たる6月、その音楽的キャリアと声優としてのキャリアのハブともいうべき「キャラソンライブvol.1『FLASHBACK HEROINES』」を開催する。
キャラソン文化ってやっぱりいいよなって

声優を10年以上経った今、これまでに担当してきたキャラソンを集めて歌ってみたら、私自身はもちろん、同志(上坂ファンの通称)もそのキャラクターやアニメ・ゲームとの思い出を振り返れるだろうし、振り返ることで『これからもがんばろう』という気分にもなれるかもしれない。あと、自分名義で発表する楽曲とは明らかにテイストの違う曲も多いので、それを歌うのって楽しそうだな、ということで立ち上がった企画なんです」
そしていざ“上坂すみれによるキャラクターソング”を集めてみたら意外な発見も。
「『アイドルマスター』や『ウマ娘』や『BanG Dream!』みたいな劇中の音楽がストーリー自体に大きく関係しているアニメ・ゲームの場合、出演声優みんなでその曲を歌うライブが開催されることもあるんですけど、基本的にキャラクターソングってステージで披露されることが少ないんです。
レコーディングして、その曲がリリースされた時点でそのお仕事は完了というケースが多いから、曲やタイトルを忘れているわけではないんですけど、今回のライブに当たってキャラクターソングリストを作ってみたら、その曲数に『普通にすごいな』ってあらためてビックリしました。
そういう曲をキャラクターをまといながら初披露すること自体が楽しみですし、『アニメやゲームの映像を使えないのかな?』と普段の私のライブとは違うにはあまりない演出を考えるのも楽しいですね」
物件探しからキャスト面接まで携わったコンカフェ

「ある日、マネジャーさんと『コンカフェって楽しいですよね』という話をしていたら、そのマネジャーさんが実はコンカフェガチ勢で。『興味ある?』『お店やる?』みたいな話をしながらコンカフェ通の方や実際にコンカフェを経営なさっている方を紹介してくれたので、あれよあれよという間にプロデュースすることになっていました。私のなにげないひと言から始まった『超ラッキー』なお話なんですけど、何軒も回って物件を探したし、フードとお酒も含めたドリンクのメニューや、カラオケとチェキのメニューも考えていて。
“ヴァンパイア候補生が通う学校”というコンセプトもヴァンパイアと学園モノが好きな私らしいし、直接面接して選ばせてもらったキャストの子はみんなかわいいし。本当にこだわりの詰まった全面プロデュースのお店を作ることができました。いつでも同志が集まれる空間にしたい、ということしか考えていなかったのに、推しキャスト目当ての同志以外のお客さんもいらっしゃるようになっていて。オープンして2か月ではありますが、すごく充実しています」
運動とオタク趣味を両立するための上坂すみれ流健康法

「ジムやヨガ教室に通うとそれだけで1時間は割かれるじゃないですか。余暇が絶対に1時間は削られる。その間はアニメも観られないし、小説も溜まっていくわけですよね? だから去年、運動とオタク趣味をどうにか両立するための健康法を編み出したんです。
リビングのテーブルにゲーム機、小説、マンガを置いて、それをプレイしたり読んだりしつつ、テレビではアニメや映画を流しておいて、その間ずっとその場でランニングくらいの速さで足踏みを続ける。
このなんとも不思議な健康法を編み出す背景には自身のコンテンツへの渇望感もあるようだ。
「去年はって本当に本屋さんに行けていなかったんです。電子書籍は買っていたんですけど、忙しくさせてもらっていたこともあって“意味なく本屋に行ってみる”という私の趣味のひとつができていなかったので、週に1回は行くようにしたいなって。あと映画もできる限り映画館で観たいですね。
気になる新作映画があっても『いずれサブスクで配信されるしな』って思ってしまうことも多いんですけど、実はそういうことじゃないんですよね。本屋さんも映画館もそうですけど、絶対にリアルな現場にしかない”なにか”との出会い合いがあるはずですから」
停滞しているようで実は激動だったこの数年をオリジナリティあふれるポジティブさでサバイブした上坂。’25年度もシーンのマスターピースの一角を担い続けるだろう。
【上坂すみれ】

<撮影/鈴木大喜 取材・文/成松 哲 ヘアメイク/澤西由美花 スタイリング/佐野夏水 衣装協力/Ryukoh Sakamoto>