テレビや雑誌といったオールドメディアの影響力が低下するなか、YouTubeをはじめとする動画メディアの台頭が著しい。誰もが手軽に情報発信できる時代にあって、“自己開示”が当然とされる潮流に対し、あえて逆行し、独自の存在感を放つ経営者がいる。
株式会社TELESAのCEO・車谷セナさんだ。
シャンプー1つで6000万円売った車谷セナの「名前も年齢も明...の画像はこちら >>
 名前も年齢も明かさず、徹底した匿名性を貫く「ミステリアス・ブランディング」は異例の戦略として注目を集めている。彼が開発・販売したシャンプー・トリートメント・ボディソープが一体化した製品「シャントリボディ」は、通販番組で6000万円を売り上げるヒットを記録。その成果は“素顔を見せない”戦略のままでも、商品力とマーケティング次第で大きな実績を上げられることを証明した。

 さらに異色なのは、彼の運営するYouTubeチャンネルの内容である。社内の喧嘩や経営上の苦境すらも隠すことなく公開し、企業のリアルな舞台裏を赤裸々に映し出している。「美容YouTuber」から「経営者」へと転身した車谷さんは、現在、会社設立2期目にして年商3億円を達成。将来的には270億円企業を目指しているという。

 今回、そんな注目の起業家・車谷セナさんに迫るのは、出版プロデューサーでビジネス書作家の水野俊哉さん。これまで数々のベストセラーを世に送り出してきた水野さんが、自らの視点で車谷さんの戦略、考え方、そしてその根底にある哲学を掘り下げていく。

“見せないことで惹きつける”という異端のブランディングと、“隠さないことで信頼を得る”というYouTube戦略。この一見矛盾するような両面性を併せ持つ車谷セナさんのビジネス手法と、その背後にある覚悟と展望を、余すことなくお伝えする。


名前も年齢も明かさぬ戦略で急成長

水野俊哉(以下、水野):なぜ、名前や年齢といった個人情報を公開しないのでしょうか? 何でも公開する現代では珍しい戦略ですが。

車谷セナ(以下、車谷):大きく2つの理由があります。1つは、インスタグラムやYouTubeをはじめとするSNSが席巻している時代において、不要に自分のパーソナリティが知られることで、今後の展開や自分が目指しているところに向かうにあたって足を引っ張られるリスクを減らすためです。

水野:なるほど。

車谷:一つ、嘘ではないというところに定義があると思っています。年齢も名前も言っていないだけだと。そうすれば、メディア上も、今後の人生でも叩かれるリスクが軽減できるだろうというのが一つ目です。

水野:もう1つの理由は?

車谷:今は少し違うんですけれど、僕がYouTubeを始めたときは、インフルエンサーが出てきてはどんどん消えていきました。僕の分析なんですが、インフルエンサーの寿命が短いことに着目したんです。

水野:けっこう短いですよね。

車谷:だいたい22~24歳が寿命になりがちで、若い人は新しいものが好きなので、次々と出てくる新しいインフルエンサーに興味を抱きます。若いときに好きだったものに対して、そのインフルエンサーが年を重ねると飽きてしまう。その人が錆びついているわけではないのですが、年齢というものが“古いと思われる記号”だと思いました。
だから、年齢という古さを感じさせる記号概念をなくせば、それを打破できると考えました。

年に一度だけSNSに写真をアップする

水野:なるほど。いいところに気がつきましたね。僕も若いときにメディア系の仕事をしていて、当時、注目されていたメディアはテレビだったのですが、テレビも出るとデメリットがありました。特に大きいメディアに何度も露出することで消費されてしまう。だから僕はできるだけ露出を避けていましたね。

車谷:実は、もう一つ理由がありまして、持っている資産を小出しにすることで、コンテンツとしての賞味期限を延ばせると思ったんです。人間は引き出しが多くても、いずれ枯渇する。だから戦略的に情報を出していくことで長く細く活動できると。

水野:具体的にはどんな仕掛けを?

車谷:例えばSNSでは「初公開!」と称して年に一度だけ写真をアップします。「15年前の写真ですが…」と前置きして。「本当の素顔はいつか見せます」――そう予告するだけで、情報を小出しするたびに話題が拡散していくんです。

水野:確かに、ミステリアスなほど注目度は高まりますね。


車谷:実際、「どこまで隠しているんだ?」という憶測でメディアにも取り上げられたこともありました。結果、自分の素性よりブランドの新商品に注目が集まる。これが現代型セルフブランディングのロジックだと考えています。

水野:人気があって、めちゃめちゃ露出は多いのに、出している個人情報は限られている。なるほど、年齢を明かせない理由がよくわかりました。

車谷:ただエゴサーチもあまりしないので、世の中に出ている自分の情報は間違っていることも多いですね。どれが本当か自分でも「あれ?」と思うことがあります。

「通販の虎」で6000万円を掴むまでの舞台裏

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株式会社TELESAのメンバー
水野:YouTuberのヒカルさんと格闘家の朝倉未来さんによる起業リアリティショー「Nontitle」出演の狙いは?

車谷:美容YouTuberとして認知されていましたが、私の本業は経営者。ただ、美容がノイズになり、経営者としての実力が評価されにくかった。それを変えるリブランディングのチャンスだと思ったんです。

水野:YouTube番組「令和の虎」が運営する「通販の虎」へはどうして出演することになったんですか。

車谷:実は出たくなかったんです。インフルエンサーブランドのビジネスモデルは属人性が高く、脆弱だと思っていましたから。
でも当時、会社の資金がショートしそうで……口座残高が800円まで落ちたことも。

水野:そこまで厳しい状況だったとは……。

車谷:私たちの会社には、ラオス西田、おもち、松葉の4人の役員がいるので人件費が一番大きかったのですが、それ以外にもいろいろな形でキャッシュアウトが続き、創業期としてはかなりキツい状況でした。直接消費者に商品を製造販売するD2Cモデルなので、最初にたくさん商品を製造する必要もあり、製造費も先行投資になりました。

水野:「Nontitle」出演の効果はいかがでしたか? サポートとか有利な状況があったのではと思っていました。

車谷:全然華やかではなくて、根性で経営していました。4人で毎日、朝から夜中まで泊まり込んで泥臭いことをずっとやってましたね。

水野:そこで「通販の虎」に出演したことで転機が訪れる。

車谷:出たくなかったけど、出るしかない。かなり会社も厳しかったので。がむしゃらではないですが、とにかく結果を出して売り上げにつなげようと思って出演しました。

水野:出演理由は商品ですか? それともセナさん自身をアピールしたかった? 両方ですか?

車谷:僕が出た当時、「通販の虎」は数千回しか再生されていませんでした。
だったら、商品のよさを神プレゼンしてもほとんど意味はない。どれだけ自分で再生数を稼いでインパクトを残すかが勝負でした。あの番組では商品の良さよりも、虎の方々との「化学反応」を作ることが大事だと考えました。

水野:で、売れたんですか?

車谷:今もずっと売れているのでありがたいのですが、1回の出演によって最終的に約6000万円の売上になりました。

経営リアリティをYouTubeで完全公開する理由

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水野:番組で設立した株式会社TELESAの経営状況を日々、明らかにする番組「車谷セナ~年商100億への道~」を配信されていますよね。YouTubeで会社の内部事情まで公開される理由は?

車谷:マーケティングとしての側面と、私のこだわりの両方があります。マーケティングとしては毎日本当にリアルを追求してやっていて、「素直さ」をアピールできるかなと思っています。

水野:叩かれるリスクも大きいですよね。

車谷:もちろん叩かれもするし、こんな会社から物を買えるかというのもあります。でも、何も隠さずに公開することは誰よりもお客さまと向き合っているということ。そうなると僕たちのファンとして商品を買ってくれる期間も長くなるだろうと思います。

水野:なるほど。

車谷:企業経営者や政治家には嘘がはびこりがちですが、そこに対する自分のアンチテーゼとして、素直で正直でありたいと思っています。


水野:配信映像に演出はないのですか?

車谷:基本的に作り込みはありません。もちろん、社員が作った映像のなかには演出が入っているのではと思われるものもある。そういうときは、「これってヤラセじゃない?」という社内の議論も全部撮ります。その議論自体がリアルなんです。

水野:すごい複雑な構造ですよね。

車谷:ドッキリのドッキリではないですが、ちょっと視聴者さんもついていきにくくなっているのかもしれません。

水野:サムネもけっこう激しめですよね。あの会社、喧嘩ばっかりしているとはならないですか?

車谷:今日も社員が辞める、辞めないというのがありましたが、僕たちみたいな規模の会社はそういうのが実際によく起きることですし、日常茶飯事ですよということですね。それをリアルに撮影しているということです。

水野:採用も採用リアリティショー「Newtitle」という番組を作ってYouTubeで配信していますよね。

車谷:今後「Newtitle」に出たいという人が応募してくるだろうということを期待しているということがあります。そして、TELESAという会社や社員を愛してほしいと思ったので、配信を始めました。

水野:会社設立のきっかけとなった「Nontitle」にも影響を受けていますか?

車谷:はい。絶対に関わることのなかった4人が一致団結できたという成功体験を持っています。だから「Newtitle」を通じて、関わることがない人たちが一致団結できるような体験ができれば、結果的に離職率は減らないということもわかってきたんです。

水野:働き方について「ブラック企業」という声もありますが?

車谷:私としては、世間が定義するブラック企業には当てはまる部分があるかもしれません。でも、ハードワークしたい人と会社のニーズがマッチしていれば問題ないと思うんです。法令は守りますが、自己実現するには働き方改革が邪魔になることもある。本当に幸せになるのは、人生のどこかで魂を燃やした人間だけだと思っています。

「シャントリボディ」の一般名詞化を目指す野望

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水野:シャントリボディの開発背景は?

車谷:もともとビジネスアイデアの1つとしてありましたが、新しい概念を市場に浸透させるには膨大な広告費がかかるため、優先度は低かった。でも「Nontitle」という場があれば、広告費をかけずに認知してもらえるチャンスだと。

水野:一般名詞化を目指すとは大胆ですね。

車谷:そうです。ジョンソン・エンド・ジョンソン社の商標名である「バンドエイド」が「ばんそうこう」の一般名称として呼ばれるように、シャントリボディという商品名を一般名詞化させたい。そのためにはドラッグストアなどの流通に乗せる必要があり、現在はファミリーラインの開発を進めています。

水野:売上目標はどの程度ですか?

車谷:番組では100億円と言っていますが、実際は270億円を目指しています。これは私が計算した現実的な最高値です。その先にはIPO(新規公開株式)も視野に入れていますが、資本関係の壁もあるので、最悪エグジットの可能性もゼロではありません。

水野:御社の強みは何でしょうか?

車谷:4人の役員それぞれが異なる強みを持っていて、私はリーダーシップと推進力、松葉は映像制作、お持ちはお客さま対応、名越はtoB営業と明確に役割分担しています。「Nontitle」で同じ苦労を乗り越えた絆があるからこそ、チームワークが生まれているんです。

「会社の倒産を経験した家庭で育った」逆境から生まれた経営哲学

水野:経営者としての資質はいつ頃から?

車谷:小学4年生と中学2年生の時に、自分の人生を紙に書いて考える時間をとりました。兄弟が多く、みんな性格もやっていることも違うので、それぞれの良いところを取り入れるポートフォリオが形成されたのかも。

水野:経営者を目指したきっかけは?

車谷:小学生の頃には決めていました。実は父も経営者で、幼い頃からビジネス書を読むよう指示されていました。ただ、父の会社は倒産して自己破産している。

水野:その体験が今の経営に影響していますか?

車谷:当時、地元では豪邸と言われる家に住み、地主でもありました。でも一気に全部失って、みんなが通る通学路にあるボロアパートに引っ越した。ドアも壊れていて…恥ずかしさや悔しさはありましたが、「楽しむしかない」と思っていた記憶があります。

水野:尊敬する経営者はいますか?

車谷:柳井正さんですね。ユニクロという“ただの服”とも言えるカテゴリーで世界的企業に育て上げた狂気を感じます。IT企業でもなく投資でもなく、衣食住という基本的なジャンルで成功されている。そこに可能性を見出しています。

水野:今後の展望をお聞かせください。

車谷:シャントリボディの一般名詞化と並行して、新しい概念商品も今年秋にリリース予定です。映像制作事業も好調で、上場企業からの依頼も増えています。テレサの文化を体現するこの一体感のあるオフィスを大切にしながら、270億円企業を目指します。

【インタビュー後の感想(水野)】
この連載インタビュー中に始まった「NONTITLE」で特別な存在感を放っていたセナ氏。
中性的なビジュアルのイケメンながら強気で空気を読まないキャラというイメージだったが、実際会って話を聞くと、気合の入った本物の起業家だと感じた。
 経営している会社もイケてる人達が、流行りのビジネスをやっているように思われそうだが、オフィスは昔のテレビ制作会社のような雰囲気だった。ユーチューブ発のスタートアップとして数少ない成功例になって欲しいと思う。

【プロフィール】車谷セナ
年齢・名前不詳の起業家、美容系YouTuber。株式会社TELESA代表取締役。起業リアリティショー「Nontitle」からできた会社で、頭から身体まで一気に洗う魔法のシャンプー「シャントリボディ」を開発。「通販の虎」出演で約6000万円の売上を達成。

<取材・文・構成/水野俊哉・高橋真以>

【水野俊哉】
1973年生まれ。作家。実業家。投資家。サンライズパブリッシング株式会社プロデューサー。経営者を成功に導く「成功請負人」。富裕層のコンサルタントも行う。著書も多数。『幸福の商社、不幸のデパート』『「成功」のトリセツ』『富豪作家 貧乏作家 ビジネス書作家にお金が集まる仕組み』などがある。
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