5月30日には念願となる初のレシピ本『なにもしたくない日の ひらめきレシピ』を刊行。さて、脱サラして料理家になるまでの経緯とは!?
きっかけは「家族のための料理」
——ふらおさんは、もともと料理が得意だったのでしょうか。脱サラ料理家ふらおさん(以下、ふらお):妻が育休から復職するとき、必要に迫られて家族のために料理をするようになったのですが、実はほとんどしてこなかったので、どちらかというと苦手意識を持っていました。
基本的にかなりめんどくさがりなタイプなので、「少しでも時短して料理したい」という思いは当初からあり、今も手間なく作れるようにと考えることが多いですね。
——苦手だった料理を軸にしてサラリーマンを辞めてしまうことになるとは、ご本人もびっくりの展開なのですね!?
ふらお:そうですよね。前職は公務員で、長く広報を担当していたので今とは別世界です。
ただ、自分でカメラを持って取材に行ったり、チラシなどの制作をする機会もあったりしたので、そのとき職場の先輩がたに教わったマインドやスキルは、今の仕事にもとても活きています。
——SNSで発信しはじめたのは、いつ頃からですか?
ふらお:2021年から料理をはじめて、翌年にはSNSでレシピを書くようになりました。料理へのモチベーション維持のために始めたことでしたが、さらにその翌年には「しっかり料理の仕事をしていこう!」と思って退職することにしたんです。
副業などではなく、自分ができるすべてのことをやって料理を仕事にしていこう、と思っていましたし、そもそも公務員だったので副業はできなかったんですよね。
——組織を辞めるのは、覚悟がいったのでは……?
ふらお:確かに、住宅ローンを組んだばっかりで、当時子どもはまだ3歳。本当にこれで生計を立てていけるのか……という悩みは常々抱えており、脱サラ1年目は苦しい時期もありました。
ただ、その頃には「レシピ本を出版したい」という夢があったので、そこまではがんばろうと必死でしたね。
SNSは誠実に。バズるヒントはユーザー視点に立った執筆力

ふらお:多くの人に見ていただけるよう、媒体ごとに言葉の使い分けや工夫はしていました。一口に言い切れないので簡単になりますが、それぞれの媒体のメインユーザーが読み慣れている言葉を使う、ということはしっかり意識して書いています。
たとえばXなら簡潔にわかりやすく、22時半にお酒を飲みながらでもスラスラ読めるくらいの文章にする、とか、noteであれば長文を読む準備のある方がメインになるので、読んだときに香りや味のイメージまで届くように詳しく書くようにしています。
また、当然のことですが、「記事に誠実であること」にもとても気を配っています。レシピを読んで実際に作っていただくわけですから、材料表記に間違いがないことや、事故につながらない安全な調理法であることなどを、日々の投稿で意識しています。

ふらお:普段料理をしているときに「この工程が面倒だな」と思ったポイントを見逃さないようにして、それを解消する方法を探すところから、新しいレシピ制作が始まります。
たとえばわたしのレシピにじゃがいもをレンチンして作る「塩昆布ポテサラ」という料理があるのですが、これは、「ポテサラって、じゃがいもをゆでる工程さえなければ、もっと頻繁に作るのにな」と思ったところからの発想でした。
ほかにも、レシピ本や雑誌を見て、「この写真はどうして魅力的に見えるのかな」と自分の考えを分析し、そこから自分のレシピに活かす方法がないかと、常に考えています。

ふらお:初めてよく伸びたのは、「握らない焼きおにぎり」のレシピでしたね。これはアレンジバージョンのレシピを書籍にも掲載しているのですが、作りやすいのに見た目が斬新で、作る工程も楽しんでいただけると思います。
出版社に持ち込んで叶ったレシピ本企画

ふらお:そうですね。
もちろん、仕事があるのは本当にありがたいことなのですが、時間の使い方をきちんと考えていかないと、夜遅くまで仕事することになってしまったりしますね。
でも、SNSで発信していると、フォロワーさんからの意見をダイレクトに聞くことができるので、それが本当に日々の活力になっています。温かいメッセージをいただくこともありますし、「おいしかった」「作ってみた!」と言っていただけるのがありがたいです。
——さて、初のレシピ本はどのような経緯で出版が決まったのでしょうか?
ふらお:きっかけは、企画書を作って出版社に持ち込んだことです。独立したころから「レシピ本出版が目標です」と宣言し続けてきたので、とにかくやると言ったら最後までやり遂げよう、という強い気持ちがありました。
企画書を実際に持ち込むまで2年ほどかかっているのですが、目標を宣言し続けて、365日欠かさずレシピを発信しようと決めて、地道に達成してきたのも、自分の勇気につながったように思います。
——持ち込みは緊張しそうですね……。
ふらお:断られるかも、と考えるとやっぱり怖かったですね。でも、尊敬している料理家の若山曜子さんが「最初は企画を持ち込んだ」と知って、自分もがんばらなくてはと思いました。
——それで見事出版に至ったわけですね! 今回の本はどのような思いで作られたのでしょうか。
ふらお:料理に苦手意識があったのに、キッチンに立つことになってしまった過去のわたしのように、「料理が面倒だな……」とか「もっと簡単だったらいいのにな」と思っている方に向けて制作しました。
「なにもしたくない日の」というタイトルの通り、「これなら忙しい日でも作れそう!」と思ってもらえたら嬉しいです。
——最後に、今後の目標を教えてください。
ふらお:出版という目標は達成しましたが、本は作って終わりではなく、やはり届けるところまでが出版なのだと思うのです。
本を作って出すまでには本当にたくさんの方が関わっていて、編集者やカメラマンなど顔を合わせたことのある方から、校正、宣伝、印刷所の方、書店員さんなど、本をつうじて関わっていただいている方もたくさんいらっしゃいます。
そうしてみんなで作った本ですから、ひとりでも多くの方に手に取っていただけるよう、著者としてできることを努力していきたいと思います。そしてまた次の本の出版が叶うよう、日々コツコツと料理に向き合っていきたいと思います。

29歳で脱サラし料理家になった1児の父。工程を極限まで省いた「〇〇しない」引き算レシピや、知ると得するキッチンまわりの雑学をSNSや各種メディアで発信。Yahoo!ニュース エキスパートやフーディストノートで公式連載を担当。LINEアカウントメディア「食の知恵袋」を運営するなど活躍の場は多岐にわたる。
<取材・文/吉川愛歩、撮影/林 紘輝>