翻って、2015年の覇者であるトレンディエンジェル・斎藤司も“文春砲”を喰らっていた。ファンの女性と「投げ銭を巡るトラブル」を起こしていることを、5月22日配信の『文春オンライン』がスクープ。斎藤は、計500万円以上の投げ銭などを受け取りながら、一方的に決別のメッセージを送ったとして問題になったようだ。ただ、本件も大きな話題になるかと思われたが、SNSでもさほど盛り上がっていないようだった。
トレンディエンジェルは影が薄い?
そもそも、トレンディエンジェルはテレビでコンビの活躍を見ることが少なく、影が薄い。テレビやラジオ番組へのゲスト出演はあるが、コンビでのレギュラー番組は地上波ではない状態だ。今年4月にはタブレット菓子「ミンティア」のPRイベントに2人で参加しているが、斎藤は舞台やドラマなど俳優仕事に熱心で、コンビでの直近の活動を見ると劇場公演やイベント出演がメインとなっている。トレンディエンジェルと同じく、M-1王者ながらコンビでのテレビ出演が少ないケースは意外にも少なくない。例を挙げると、ますだおかだ、パンクブーブー、笑い飯、銀シャリは、ピンでの番組出演がメイン。
“M-1の神通力”が薄れている?
ますだおかだに関しては、増田英彦は『かんさい情報ネットten.』(読売テレビ)など関西圏の番組出演が多く、岡田圭右は『クイズ!脳ベルSHOW』(BSフジ)をはじめ、一発ギャグを武器にさまざまな番組にゲストとして参加。パンクブーブーは、それぞれが個人でYouTubeチャンネルを運営するなど、舞台以外ではコンビでの活動はほとんど見られない。
さらに、笑い飯は『ウラマヨ!』(関西テレビ)の準レギュラーを務めるが、哲夫は『ちちんぷいぷい』(毎日放送)をはじめ旅番組に出演し、西田幸治は『アメトーーク!』(テレビ朝日系)や『千原ジュニアの座王』(関西テレビ)などにピンで出演。銀シャリは、コンビでラジオのレギュラー番組は持つものの、テレビ番組では『よ~いドン!』(関西テレビ)のコーナーレギュラーを務めるくらい。
ますだおかだ以外の吉本興業所属のコンビは劇場公演では引っ張りだこではあるが、M-1王者になってもテレビという媒体で“大ブレイク”とまではいかなかったのではないか。
かつて、『M-1グランプリ』で優勝すれば一夜にしてブレイクすると言われた。現在でも、優勝直後はテレビ番組への出演が急増して、知名度が一気に上がる仕組みは変わらない。ただ、ここ最近ではかつての神通力が薄れているように思える。ことテレビにおいて、ブレイクしたコンビと、そうでなかったコンビで、なにが差をつけたのか。
M-1で大ブレイクしたコンビの筆頭は…
まず、『M-1グランプリ』きっかけで大ブレイクしたコンビの筆頭は、2007年に優勝したサンドウィッチマンだ。王者になる前は鳴かず飛ばずのコンビだったが、優勝をキッカケにテレビ出演を増やし、着実に国民的なスターへの道を歩んでいった。今年4月時点では、テレビで11本、ラジオが2本のレギュラー番組を担当。CMに多数出演し、さまざまなメディアが発表する「好きな芸人ランキング」で上位にランクインするコンビとしておなじみでもある。漫才だけでなくコントでも実力を発揮し『キングオブコント2009』では準優勝。そもそもネタが強いという裏付けがあるため、芸人からの支持も集めている。サンドウィッチマンと同じく一躍脚光を浴びたのが錦鯉だ。歴代最年長で栄冠に輝いた彼らの主戦場は、いわゆる“地下の劇場”。それまで、ほとんどテレビでの仕事はなかった。大ブレイクとまではいかないが、“中年の星”としての同世代からの支持を得た。もちろん、長谷川のネタそのままの人間性もお茶の間の人気者になった理由のひとつだろう。
その他の歴代王者でいうと、中川家、フットボールアワー、マヂカルラブリー、霜降り明星がテレビでよく見かける面々か。アンタッチャブル、チュートリアルに関しては、紆余曲折がありつつも、人気に陰りはなさそうだ。最近では、ウエストランドは井口浩之だけがブレイク中だ。これらのコンビは、優勝したことで人生がガラリと変わった芸人たちだと言えよう。
一方で、彼らとは異なるキャリアを歩んだコンビの存在も忘れてはいけない。前述した通りトレンディエンジェルをはじめ、ますだおかだ、パンクブーブー、笑い飯、銀シャリはコンビでテレビに出演する機会はさほど多くはない。
ハゲネタをイジりにくくなっている?
さて、トレンディエンジェルについては、優勝してから数年で失速している印象だ。斎藤を中心とする手数の多いキャッチーなボケが特徴だが、トーク番組やロケでしっかりと活躍できなかったように感じる。コンビでバラエティ番組に出演する際は、斎藤が前面に出ることが多く、オタク趣味を持つたかしをうまく活かせなかった。例えば、『千鳥のクセスゴ!』(フジテレビ系)では「セニョール斎藤 モノマネSHOW」という企画をコンビで担当したが、斎藤の個人技ばかりが目立ち、司会者役のたかしは影が薄いキャラだった。大木凡人にそっくりというおもしろさはあったが、たかしのキャラを視聴者に見せるものではなく、この企画でもコンビで良い相乗効果を生むことはなかったように思える。
昨今ではテレビにてコンプライアンスの意識が高まり、トレンディエンジェルのハゲネタを他の芸人がイジりにくい風潮にあるように思える。結果として、コンビとしてはなかなか活躍の場が少ないのではないだろうか?
加えて、斎藤は『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ系)に出演するなど、コメンテーターとしても活動。歌手活動やミュージカル出演などピンでの仕事が忙しいのか、コンビとしてテレビで見る機会が激減してしまった。
必ずしもバラエティタレントとして成功するわけではない
ご存じの通り、賞レースの中でもっとも注目度が高い『M-1グランプリ』。だが、必ずしも優勝したコンビが“テレビで大ブレイク”するわけではないことがわかったと思う。では、どんな要素が彼らの“差”になったのか? ひとつは、一流の漫才師であっても、必ずしもバラエティタレントとして成功するわけではないということだろう。現在、主にバラエティ番組で高い人気をほこるのは千鳥、かまいたち、博多華丸・大吉、チョコレートプラネット、バナナマンなどで、一様に『M-1グランプリ』の優勝コンビではない。
バラエティタレントとしてブレイクするために必要なのは、臨機応変なアドリブやコメント力。ある程度は型が決まっている漫才とは違う筋肉が求められることになり、いわば戦うフィールド自体が違うわけだ。
吉本興業所属の芸人ならではのジレンマもありそうだ。吉本の重鎮であるトミーズ雅が、『せやねん!』(MBSテレビ)にて高比良の退所に対して、『M-1グランプリ』で優勝すれば、劇場公演や営業でギャラが多くもらえることを明かしている。
要するに、テレビに出演するよりも、吉本の主軸事業である劇場や営業で稼げる仕組みができているのだ。それぞれのコンビに事情はあるだろうが、無理にバラエティタレントとして露出するより、漫才の腕を磨き続ける道を選んでも不思議ではない。
“テレビ以外”を主戦場とするコンビが増える?
サンドウィッチマン、錦鯉、ウエストランド井口が“非吉本”であることを考えれば、こうした意識の差がハッキリ出ているようにも思える。ちなみに、高比良が「テレビ出演をそこまで重視しない」と発言をしたのも、この劇場システムに加えて、今の時代は動画配信等でいくらでも稼げる環境が整っているからではないだろうか。アマプラやネトフリといった動画サブスクがコンテンツ産業の中心になりつつある中でも、テレビで見ない芸人は「消えた」とSNSやヤフコメで言われがち。とはいえ、外野の声をもろともせず、自らの信じる進路をコアなファンとともに歩んでいくコンビは今後増えていくはずだ。
かつては売れない芸人がテレビでブレイクするための大会だった『M-1グランプリ』だが、徐々に形が変わってきている。競技的に漫才を行う令和ロマンが2連覇したこともあり、今年以降も技巧派のコンビが優勝する可能性が高い。そうなると、劇場公演が多い吉本芸人が有利になり、結果として“テレビ以外”を主戦場とするコンビが増えるのではないか。
<TEXT/ゆるま小林>
【ゆるま小林】
某テレビ局でバラエティー番組、情報番組などを制作。退社後、フリーランスの編集・ライターに転身し、ネットニュースなどでテレビや芸能人に関するコラムを執筆