基礎年金の底上げとは?
政府与党案を改めておさらいする。基礎年金の底上げとは、基礎年金と厚生年金の減額期間を一致させるために厚生年金の減額期間を延長し、その財源を基礎年金の減額期間短縮に活用する取り組みを指す。この調整により、基礎年金の減少を抑えて世代間の不公平を是正し、同じ世代内での減額の程度を均一化することで、不公平感を軽減することを目指している。そもそも、日本の年金制度では、20~59歳が加入する「国民年金」と、会社員が追加で加入する「厚生年金」がある。老後には、基礎年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)の合計額が受け取れる仕組みだが、厚生労働省の試算によれば、低成長経済の下では基礎年金の減額が2057年度まで続く見通しで、所得が低い人ほど基礎年金の割合が大きいため、減額の影響を大きく受ける問題がある。
基礎年金の底上げ策は、特に所得の低い人々への影響を緩和し、公平で持続可能な年金制度を作るというのが政府側の見解だが、基礎年金の半分以上は国庫が負担する。そのため「財源が不透明で、将来的な増税も視野に入る」とするのは、ノンフィクションライターの石戸論氏だ(以下、石戸氏の寄稿)。
現役世代だけが損する厚生年金「流用」案に欠ける姿勢とは?
つくづく私も含めて現役世代は損ばかりしている。昨今の年金改革法案を巡る議論を見るにつけ、考え込んでしまった。自公立が賛同することで可決の可能性が高まったが、批判も根強い。特に会社員が加入する厚生年金の積立金を「流用」して国民年金を支える財源にするという案だ。この案に賛同する立民などは流用でなく、多くの人の得になる改革だと躍起になっているが、間違いなく流用だ。改革法案も考えとして筋が通っていることは認める。
年金の本質は「長生き保険」だ。データを見れば経済的苦境は就職氷河期世代だけでなく、その下の世代にも広がっている。この先、年金を軸にして生活できる水準を目指すならば、持たずして高齢者になってしまう人をできる限り減らすため、多くの世代が貯蓄や資産形成できるだけの経済状況を目指すか、年金財源を安定させる改革──端的に負担増──が求められる。
社会保険料で何を守り、何を削るか
私はまずは前者を目指し、現役世代のための手取り増が最善であるという立場を取る。選挙が近いせいか消費税減税を訴える声が大きくなっている。反対ではないが、さらに踏み込んで社会保険料の低減で手取り増を目指すのも手だ。現役世代から高齢者への再分配という性格が強い以上、「保険」に相応しくない不必要な医療を抑制するために、高齢者の窓口負担増や市販薬で代替できる医薬品の保険適用は外していくといった政策は必要だ。これを唱えれば高齢者と業界団体の票は逃げていく。しかし、今の医療体制を支えるためには現役世代の負担増しか選択肢がない以上、社会保険料で何を守り、何を削るかは待ったなしの課題だ。
年金にせよ、医療にせよ高齢者が充実した制度を求めるというのならばそれでいい。

【石戸 諭】
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)