今夏に控えた参院選の争点としてあげられるのが、物価高対策としての消費減税だ。家計における食費の割合を示す2024年のエンゲル係数は総務省統計局の家計調査によれば28.3%と、1981年以来43年ぶりの高水準となった。
そのことから、立憲民主党、日本維新の会は、食料品にかかる消費税を期限付きでゼロにする案を出している。消費税の減税を求める声は日増しに強まっているが、消費減税を打ち出す各党が言うとおり、財源を国債に頼っても大丈夫なのだろうか。元日銀副総裁の岩田規久男氏が詳述する(以下、岩田氏による寄稿)。
「消費税の減税」は国債で財源を確保できる?元日銀副総裁が直言...の画像はこちら >>

消費税減税してほしいけど、日本の社会保障は大丈夫?

野党の「消費税減税」案に対して、自民党は「消費税は社会保障費の重要な財源であるから、消費税に代わる財源が確保されない限り、減税はできない」という立場です。

’24年度について見ると、社会保障4経費(年金、医療、介護、子供・子育て支援)の合計は33.4兆円です。そのうち19.2兆円を消費税で賄っていますから、差し引き14.2兆円が不足していることになります。これまで、不足分はほかの税収や国債発行で賄われてきました。

現在、立憲民主党は食料品の税率を原則1年間ゼロとし、財源は国債発行で賄い、その後は給付つき税額控除(税金から一定額を控除する減税)で対応するとしています。日本維新の会は食料品の消費税を’27年3月まで廃止し、財源は税収全体の上振れ分で賄うとしており、国民民主党は時限的に5%ヘ引き下げ、国債発行と特別会計の剰余金を財源に充てるといいます。

これら3党の案を踏まえて、減収を国債発行で賄うことの是非を考えてみましょう。

自民党は、日本の国債残高の対GDP比が約258%で、G7の中で最悪の水準だとして、国債発行を財源とする消費税減税には反対しています。

日本国債の格付けはG7の中では低いほうですが、それでも、投資適格のA格を維持しています。
その原因としては、①対外純資産残高のGDP比が77%(’24年末)に達していること、②日本国債はすべて為替リスクのない円建てであること、③外国人投資家の日本国債保有率は6.4%(’23年末)にすぎないことなどが挙げられます。

’25年1─3月期の名目GDP成長率は3.1%で、同期間の10年物国債金利の平均1.37%を大きく上回っています。こうした状況では国債残高のGDP比が緩やかに上昇後、いずれかの時点で金利が安定化する条件が満たされているため、金利暴騰のリスクはほとんどありません。

以上から、日本の国債市場には財務省や自民党の財政族議員が囃し立てるようなリスクがないことがわかります。したがって、消費税減税の財源を国債発行に求めても、財政上の問題は起こらないと考えられます。

しかし、長期的には、社会保障の財源は保険料と税金で賄うことが安全です。その場合の税金は、税率が逆進的(所得が低いほど税負担が大きくなる)な消費税よりも、累進的な所得税のほうが公平の観点から望ましいと考えます。

現在、基礎年金の財源として消費税が投入されていますが、高額所得者の基礎年金までも低所得者が負担する消費税で賄うことを、私は妥当だと考えておりません。

【岩田規久男・元日銀副総裁】
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数
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