日本における1日あたりの電車利用者の数は6258万人にも上るという。膨大な数に上る乗客の中には、満員電車という状況を利用して憂晴らしをするような人物もいるのかもしれない。

 首都圏在住で日々満員電車で通勤しているという田坂隼人さん(仮名・34歳)は、そんなことを考えさせる体験をしたことがあるそうだ。

「ダサくね?」満員電車に“タックル”で乗り込む男性を成敗した...の画像はこちら >>

満員電車内で突然タックルをかまされ…

「最寄駅から乗り換えがあるターミナル駅まで30分ぐらいかかるんですが、後半の15分間の混み方がエグくて。ポジションが悪いと周りに潰される感じになって、大人の男でもキツく思うぐらいの満員電車なんです」

 そんな不快な通勤時に、嫌な出来事があった。

「混雑がピークの車内で、ドアの近くに立っていた時のことです。駅についてドアが開いた時に、駅で待っていた列の先頭に、ガタイが良くて筋トレをガチでやっている感じの20代後半ぐらいの男がいたんですね。それで、その男がちょっと屈んだかと思うと、ショルダータックルの格好で思いっきり突っ込んできたんです」

 やばいと思った田坂さんは、腕で身を守る体勢をとったが、しかし……。

「防御した腕に直撃されて身体ごとバーンと跳ね飛ばされる感じになりました。その衝撃で後ろにいた女性に当たってしまい、女性も声を上げるほどで……。自分もめちゃくちゃ痛くて、なんだこいつ! ふざけるなと思って男の顔を睨んだんですが、『やるならこいよ』という感じで見下ろされて、くそダサいですが目を逸らしてしまったんです」

“タックル男”と再び遭遇してしまう

 タックルを受けた腕は、真っ青なアザができるほどだった。

「ふとした時や寝る前に思い出ししまい、悔しく思う体験でした。それから何カ月か経って、いつものように通勤電車に乗っていると、またあの男に遭遇したんです。男はまた物凄い勢いでタックルして電車内に飛び込んできました」

 この時の田坂さんは少し奥まった場所にいたため、タックルの直接的な被害はなかったそう。

「やはりドア前にいた中年の男性がもろにタックルを喰らってしまったようで、痛そうにしていました。アイツまたやってるのかよと、頭にきました」

そんな田坂さんの耳にこんな声が飛び込んできた。


「はあ? なんなのあの男。ガチでウザくね?」

タトゥーを入れたギャルから辛辣な言葉が…

 見ると腕にタトゥーを入れた、朝帰りと思われるギャル2名がいた。ふたりはタックル男を苦々しい顔で見つめながら、こんな会話をしはじめた。

「タックルしてきたんだけど。あり得ない」

「ストレス解消とかしてんじゃね?」

「それな。アイツ、仕事できなくて怒られてる感じの仕事できないタイプっしょ。それでタックルかましてストレス解消とかガチでダサくね?」

「だせえwww」

 ギャルふたりによる男への悪口は延々と続いた。

「すごかったですよ。『毎日上司に詰められて会社のトイレで泣いてる』とか『新婚なのに仕事ができなくてリストラされてる。だけど奥さんに言い出せなくてエアー通勤しながら憂さ晴らししてる』とか。その車両にいる全員に聞こえているんじゃないかという大声で、男を罵倒する会話を繰り広げていました」

顔を伏せ逃げるようにして消えていった

 ギャルたちの会話に、周囲の乗客たちから笑い声が漏れるほどだった。

「2人の喋りはテンポがよく、しかも妙な説得力もあったんです。普通ならうるさいレベルの声量にもかかわらず、ほかの乗客もむしろその会話に溜飲を下げているかのようで、どこか和やかな雰囲気でした。


 そんな一体感に反して、男は真っ赤な顔で窓の方を見つめていました。ギャルたちを睨むことすらできず、馬鹿にされっぱなしのままに。男はその後、ターミナル駅で降りて行ったんですが、顔を伏せ逃げるようにして消えていきましたね」

 しばらく経ったある日、田坂さんはまた例の男に遭遇した。だが男はタックルせず、普通に乗車してきたという。

<TEXT/和泉太郎>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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