出張のビジネスマンにとっては、新幹線など列車での移動中も貴重な業務時間。ノートPCを開いて作業する姿をよく見かけるが、座席でのオンラインミーティングや通話は基本的に認められていない。
ただし、東海道・山陽新幹線では、21年10月から『のぞみ号』の7号車がビジネスユース向けの『S Work車両』となった。ノートPCを使った作業も気兼ねなくできるようになり、座席に座ったままでのオンラインミーティングや通話も可能に。導入後は出張族に大好評で、一般の指定席よりも早い段階で席が埋まってしまうことが多い。
「今から2年ほど前、新大阪から東京に戻ったときの出来事です。その日は直帰が認められていましたが、翌朝までに報告書を提出しなければならず、また移動時間を利用してオンラインでの打ち合わせの予定も入っていました。だから、席に座ってすぐにノートPCを開いて作業していたんです」
S Work車両には2席並びの「S Workシート」、3席並びのシートの真ん中の座席部分にパーテーションとドリンクホルダーを設置し、1.5席分のスペースを使える「S WorkPシート」の2種類が存在。より人気があるのは後者の座席で、坪井さんもこちらに座りたかったが、出張の日程が決まった時点でS WorkPシートは埋まっていた。そこでパーテーションのないS Workシートを予約したそうだ。
当日は報告書を書き終えた後、翌週の出張先である地方支社の担当者とオンラインで打ち合わせを行っていたが、ここで思わぬハプニングが……。隣の窓側席に座る50代くらいの恰幅のいいスーツ姿の男性が「さっきからうるさいんだよ!」と言ってきたのだ。
「条件反射的に『すみません!』と謝りました。
でも、納得がいかなかった坪井さんは、座席ポケットに入っているS Work車両の案内用リーフレットを取り出し、オンラインミーティングの利用が認められていると反論する。
「そもそもマイク付きのイヤホンを使っていたため、相手の声は隣の方には聞こえていないはずです。私はマスク着用のうえに小声でしたし、座席ポケットに入っていたS Work車両のリーフレットに明記されていた『まわりのお客様へのご配慮』というのは守っていました。ただ、こちらもケンカ腰では火に油を注いでしまうため、そこは気をつけていたつもりです」
ちなみに、相手はすでにこの日の仕事を終えたのか、窓にはビールとチューハイの空き缶。泥酔という感じではなかったが、シラフではないのは明らかだった。相手は坪井さんからの反論に苛立ちを隠せないのか、「マナーを守れ!」と文句を言ってきたそうだ。
「マナーは守っていましたが何度話したところで埒が明かないし、車掌さんがくるのを待って間に入ってもらうことも考えていたのですが……。男性の胸元に付いていた社章バッジをよく見てみると、少し見覚えがありました。なんと前の会社に勤めていたときに担当していた取引先の社章だったのです。そこで『○○にお勤めですか?』と尋ねてみました」
「最後の一言は余計だったと反省していますし、手を出されたわけではないので会社に連絡するつもりもなかったです。それでも効果は絶大だったらしく、それ以降、絡まれることはありませんでした。自分より年下の若造に頭を下げるのはプライドが許さなかったのか、男性からは最後まで謝罪の言葉がなかったですけど(苦笑)」
社章バッジに関しては社外では外す企業もあれば、業務中は社外で付けることを義務付ける企業もあり、ルールは会社によって異なる。いずれにしてもバッジを付けている状態でトラブルを起こした場合、相手に対してだけでなく勤務先にも迷惑が及んでしまう可能性もあるだろう。
「S work車両」のルールを理解し、まずは自分自身がしっかりとマナーを守らなければならない。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
ただし、東海道・山陽新幹線では、21年10月から『のぞみ号』の7号車がビジネスユース向けの『S Work車両』となった。ノートPCを使った作業も気兼ねなくできるようになり、座席に座ったままでのオンラインミーティングや通話も可能に。導入後は出張族に大好評で、一般の指定席よりも早い段階で席が埋まってしまうことが多い。
「S Work車両」での思わぬトラブル…
ほぼ月イチで関西への出張のある化学メーカー勤務の坪井次晴さん(仮名・36歳)もS Work車両を利用。車内では快適に作業できるので気に入っているそうだが、一度だけトラブルに巻き込まれたことがあるとか。「今から2年ほど前、新大阪から東京に戻ったときの出来事です。その日は直帰が認められていましたが、翌朝までに報告書を提出しなければならず、また移動時間を利用してオンラインでの打ち合わせの予定も入っていました。だから、席に座ってすぐにノートPCを開いて作業していたんです」
S Work車両には2席並びの「S Workシート」、3席並びのシートの真ん中の座席部分にパーテーションとドリンクホルダーを設置し、1.5席分のスペースを使える「S WorkPシート」の2種類が存在。より人気があるのは後者の座席で、坪井さんもこちらに座りたかったが、出張の日程が決まった時点でS WorkPシートは埋まっていた。そこでパーテーションのないS Workシートを予約したそうだ。
当日は報告書を書き終えた後、翌週の出張先である地方支社の担当者とオンラインで打ち合わせを行っていたが、ここで思わぬハプニングが……。隣の窓側席に座る50代くらいの恰幅のいいスーツ姿の男性が「さっきからうるさいんだよ!」と言ってきたのだ。
「条件反射的に『すみません!』と謝りました。
でも、S Work車両ってオンライン会議ってOKじゃないですか。大声で話していたわけではないんですけどね。それでもうるさいと言われてしまったため、声のボリュームもさらに落として打ち合わせを続けました」
オンラインミーティングが認められていることを説明したが…
ところが、隣席の男性はそれでも気に入らなかったのか、「うるさいからやめろって言ってんだよ!」と、再度トゲのある口調で文句を言ってくる。結局、打ち合わせは中断せざるを得なかったそうだ。でも、納得がいかなかった坪井さんは、座席ポケットに入っているS Work車両の案内用リーフレットを取り出し、オンラインミーティングの利用が認められていると反論する。
「そもそもマイク付きのイヤホンを使っていたため、相手の声は隣の方には聞こえていないはずです。私はマスク着用のうえに小声でしたし、座席ポケットに入っていたS Work車両のリーフレットに明記されていた『まわりのお客様へのご配慮』というのは守っていました。ただ、こちらもケンカ腰では火に油を注いでしまうため、そこは気をつけていたつもりです」
酔っ払い男がつけていた“とあるバッジ”

東海道新幹線の「S work車両」
「マナーは守っていましたが何度話したところで埒が明かないし、車掌さんがくるのを待って間に入ってもらうことも考えていたのですが……。男性の胸元に付いていた社章バッジをよく見てみると、少し見覚えがありました。なんと前の会社に勤めていたときに担当していた取引先の社章だったのです。そこで『○○にお勤めですか?』と尋ねてみました」
社章で“相手の弱み”を突くことに
すると、男性はわかりやすいほど表情を一変させる。しかし、ここで追撃の手を緩めず、「御社にこの件を連絡してもいいんですよ」と付け加えるのも忘れなかった。
「最後の一言は余計だったと反省していますし、手を出されたわけではないので会社に連絡するつもりもなかったです。それでも効果は絶大だったらしく、それ以降、絡まれることはありませんでした。自分より年下の若造に頭を下げるのはプライドが許さなかったのか、男性からは最後まで謝罪の言葉がなかったですけど(苦笑)」
社章バッジに関しては社外では外す企業もあれば、業務中は社外で付けることを義務付ける企業もあり、ルールは会社によって異なる。いずれにしてもバッジを付けている状態でトラブルを起こした場合、相手に対してだけでなく勤務先にも迷惑が及んでしまう可能性もあるだろう。
「S work車両」のルールを理解し、まずは自分自身がしっかりとマナーを守らなければならない。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
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