高台に建つ新築マンション。その最上階で開かれたBBQパーティーをきっかけに、一つの家族が思いがけない疎外感を味わうことになります。

取材に応じてくれたのは、県庁勤務の加藤さん(仮名・42歳)。一見華やかに思える新生活の裏に潜む、ご近所付き合いの繊細な現実を、丁寧にたどっていきます。

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最上階で味わうセレブなBBQ

加藤さん一家が引っ越してきたのは、某所の丘の上に建てられた新築マンション。

緑に囲まれ、眺望にも恵まれたその住まいで、特に注目を集めていたのが最上階の角部屋。広々とした100㎡超のテラスが特徴で、入居当初から“ちょっとしたセレブ住戸”として噂されていました。

そんなある日、その部屋の主人から「今度BBQでもどうですか?」と声がかかったといいます。

フロアの全5世帯が一斉に招待され、週末に催されたその集いは、屋外用のソファや本格的なグリルが並ぶ、まるでリゾートのような非日常空間だったそうです。

「いやあ、びっくりしましたよ。テラスと言っても、うちのとはまったく規模が違ってて。まるでバリのヴィラみたいでした」と加藤さん。参加者たちは子どもも含めて打ち解け、笑い声が絶えない和やかな時間が流れていきました。

一瞬にして凍りついた場の雰囲気

パーティーも中盤を過ぎ、ワインやビールがテーブルを彩る頃、テラスの主人がふと「加藤さん、どちらにお勤めなんですか?」と問いかけてきました。軽い雑談の延長にも思えましたが、その場には一瞬、静かな緊張が走ったといいます。

「うーん、ちょっと嫌な予感がしましたね。
でも隠すことでもないので、『県の方で…』と答えたんです」と加藤さん。

そのとき、敏感に反応した主人の妻が何気なく「え?もしかして県庁にお勤めなの?」と割って入り、加藤さんも思わず「はい」と返したことで、その場の空気が微妙に変わりました。

実は、BBQの主催者であるその主人は、市役所の土木課に勤務していて、加藤さんの所属する県庁の直轄組織にあたる立場なのです。一方、このマンションは、数年前に妻の親が他界し、思いがけない財産を得たことで購入したそうです。

その後の主人は、それまでのフレンドリーさが嘘のように大人しくなり、会話にもあまり加わらなくなってしまったそうです。

始まった仲間はずれ

「ウチの家族だけ呼ばれなくなりました」マンション住民が集うBBQから“仲間はずれ”にされた理不尽すぎる理由
始まった仲間はずれ
それから数週間が経ったある夕暮れ時。ベランダで洗濯物を取り込んでいた加藤さんの妻が、ふと香ばしい匂いに気づきました。窓の外には、またしても最上階のテラスから立ちのぼる煙。楽しげな声も風に乗って聞こえてきたといいます。

「最初は、お友達を呼んでるのかなと思ってたんです。でも翌日、廊下ですれ違った隣の奥さんから『昨日はお出かけだったんですってね。BBQ楽しかったわ』って言われて……」

それは、前回のパーティーと同じ顔ぶれで開かれていたBBQ。そこに加藤家だけが呼ばれていなかったことが明らかになりました。
あえて外されたのか、それとも単なる偶然なのか。そう自問しつつも、他の住人たちの微妙な距離感を敏感に察知せざるを得なかったといいます。

「いやな感じ、というより、なんとも言えない寂しさでしたね。うちは何か悪いことをしたのかって、つい考えてしまいました」

もうここには居られない…

その出来事を境に、周囲の住人たちとの関係にも変化が表れました。以前はエレベーターで顔を合わせれば自然に交わされていた挨拶も、どこかぎこちなくなり、声をかけられることが減っていったといいます。

「妻が特に気にするようになってしまって……。もともと人間関係に敏感な性格なので、精神的にかなり参っているようです」と加藤さんは話します。最近では夜になるとカーテンを早めに閉めたり、外出を控えるような様子も見られるとのこと。

加藤さん自身も、あのときの“無言の線引き”が今も心に残っているといいます。

「立場がどうとか、肩書きがどうとか、そんなことで人付き合いが決まるのは残念ですよね。でも現実として、そういう壁ってあるんだなと実感しました」

終の住処として購入した我が家だったはずが、今では1日でも早くこの場所を去りたい気持ちでいっぱいで、売却も検討しているそうです。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。
趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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