YouTubeの人気リアリティ番組「令和の虎」に虎(投資家)として出演し、歯に衣着せぬ物言いと、鋭い洞察力で注目を集める安藤功一郎氏。現在はグループ全体で年商1800億円とも言われる不動産テックのGA technologiesで執行役員として海外事業を統括する傍ら、タイ・バンコクで自ら立ち上げた不動産仲介会社Dear Life Corporation(ディアライフ)などの経営も行う実業家だ。
「令和の虎」での投資額は2億5000万円を超え、規格外の投資額に多くの視聴者を惹きつけている。
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 大学卒業後、中古車販売大手ガリバーインターナショナル(現・IDOM)に入社してすぐに最年少事業部長にスピード出世。その後、会社を辞めてタイへ渡り、10社近くの会社を立ち上げ、会社が伸び盛りのときに事業売却して、自分の気の向くままに新たな起業にかける――。まるでゲームを攻略するかのような彼のビジネス人生は、どのように形作られてきたのか?

 今回、そんな注目の実業家・安藤功一郎氏に迫るのは、出版プロデューサーでビジネス書作家の水野俊哉さん。これまで数々のベストセラーを世に送り出してきた水野さんが、安藤氏の思考の根源、そして「覚悟」が運とお金を引き寄せるという哲学に迫る。

「人生もビジネスもゲーム感覚」「運は使いどころが肝心」と語る安藤氏の成功を掴むためのヒントは、常識外れの“ゲーム感覚”の中に隠されているのかもしれない。

◆最年少で事業部長に抜擢された戦略的な根回し術

水野:新卒で中古車販売のガリバーインターナショナル(現・IDOM)に入社されたときに創業社長との運命的な出会いがあり、ビジネスの秘訣を学んだと聞きました。同社は当時、5年で東証一部に上場した、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの会社でしたね。

安藤:将来は自分で会社をやりたい、社長になりたいという思いは、子供の頃からずっとあったんです。社長といっても小さな会社の社長ではなく、大きなお山の大将になりたかったんです。しかし、大きな会社に入らないとどのように目指せばいいのかわからない。それなら、まずは一番伸びている会社、最短で上場するような急成長企業の組織に入って、その秘密を中から見てやろうと思ったんです。それがガリバーだったのです。


 当時はIT系の会社で3年で上場していた会社もありましたが、ガリバーはリアルビジネスの会社なのに、たった5年で上場していました。その記録はいまだに破られていないはずです。

水野:なるほど。就職活動で内定をいくつかもらって、ガリバーの内定を辞退しに行ったそうですね。そこで、創業者との運命的な出会いがあったと聞きました。

安藤:そうです。創業者の方が僕と人事担当者のやり取りを会議室の外から見ていて、フラッと会議室に入ってきた。そして、「俺は60年生きているけど、人生の中で3年間なんてあっという間だから。3年間くらい、俺に騙されたと思って入社してみな。絶対に損はさせないから」って言われたんです。

 その言葉に「確かにそうだね」って思っちゃって。断りに行ったはずなのに、「やっぱり、お願いします」って言ってしまいましたね(笑)。


水野:その後、入社前からアルバイトとして働き始めて、すぐに結果を出されたんですよね。

安藤:入社したら店舗研修は必ずありますから、戦略的に先にやらせてもらいたいとお願いしました。最初は洗車要員でした。でも、周りの社員が普通に買取の商談をしているのを見て「自分でもできそうだな」と思って、「買取をやらせてください」って言ったんです。

 当時の店長には大学生には無理だとか、ボロクソ言われました(笑)。ですが、最終的にはやらせてもらえることになり、そこで最初の商談でいきなり買取が成立したんです。

 忙しいお店だったので、「能力があるのなら、どんどんやらせよう」と、本格的に買取をやらせてもらいました。それで粗利で1億円を稼ぎました。

水野:バイトで1億円ですか……! それはすごい。その「結果を出す」姿勢が、後の最年少部長昇進に繋がっていくわけですね。

安藤:そうですね。次に僕が考えたのは、役職がついている人たちに顔と名前を覚えてもらうことでした。
大きな会社で何らかの要職を任せてもらうには、顔と名前を覚えてもらうことはとても重要な要素だと思います。

 うちの会社も社員は1500人くらいいますが、顔と名前が一致するのは、せいぜい100人くらいです。その点、僕は内定辞退のときにも、アルバイトのときにも社長には名前と顔をしっかりと覚えてもらうことができましたね(笑)。

水野:入社後はどの部署に入るのですか?

安藤:新規事業開発部です。ここはガリバーの資産を使って、新しい事業を生み出す部署です。フランチャイズの経営者のコンサルティングも担っていた部署で、社長と距離も近く、どのように利益を出すかということを話していたので、ビジネスを理解するには最適な部署でした。

 そこでも関係ない部署の仕事を手伝ったりして、部長や役員にも積極的に顔と名前を覚えてもらうように動いていました。要職に推薦してもらうためには、社長だけではなく、役員や部長にも顔と名前を覚えてもらうことが大切ですから。

 仮に役員会で「安藤を部長に」って社長が推薦してくれたとしても、他の役員から「どんなに実績をあげていても、彼はまだ入社1年目でしょう」と反対されて終わりです。そうならないためにも戦略的な根回しは必要なのです。

水野:最年少部長に推薦されるには、売上もあげなければいけない。売上をあげるコツみたいものはあったのですか?

安藤:売上をあげるコツは、僕の場合はお客さまの紹介が多かったことです。
普通、新人ってテレアポとか飛び込みからスタートします。僕、こう見えてけっこうシャイなんで、そういうの苦手なんですよ(笑)。

 だから、いかにテレアポをやらずに済むか考えた結果、既存のお客さんから紹介をもらうのが一番効率いいな、と。紹介なら、相手も最初から話を聞いてくれる可能性が高いですからね。

 それで効率よく数字をつくって、東証一部上場企業の最年少部長に就任しました。その後、役員への話もあったのですが、会社には2年半いて、24歳で起業しました。

◆タイで10社近く起業→売却

「人生もビジネスもゲーム」7社をイグジットした“令和の虎”安藤功一郎が語る成功哲学とは?
水野:ガリバーを退職された後、世界中を視察して、最終的にタイで起業されました。なぜ海外、そしてタイだったのでしょうか?

安藤:もともと海外志向が強かったというのもありますが、一番は今後の日本の人口動態とかを考えたときに、「日本ってこれから必ず衰退するな」と思ったからです。だったら、伸びていく国、成長市場でビジネスをやったほうがラクじゃないかと考えました。

 それで東南アジア、南米、アフリカとかいろいろ回ったなかで、タイが一番、日本人向けのビジネスも、現地向けのビジネスも両方やれるチャンスがあると感じたんです。親日国で日本人も多く住んでいますしね。

水野:タイでは旅行会社から始まって、不動産、携帯電話販売など、10社近く起業されたとか。そして、そのうち7社をイグジット(売却)されています。
これは最初から計画していたのですか?

安藤:いや、全然狙ってないです(笑)。ただ単に、僕がそのビジネスに飽きてきたタイミングで、ちょうど「欲しい」っていう人が現れたから売った感じです。でも、僕は負けず嫌いなので、自分がやっている間は絶対に会社を右肩上がりに成長させたいんです。だから、売るときっていうのは、業績が一番よい時。だから僕が売却した会社は、すべて存続しているんですよ。これはちょっと自慢ですけどね(笑)。

 ビジネスモデルがしっかりしていて、働いているメンバーもお客さんも損しない形で次に事業を繋げられているっていうのは、うれしいですね。

水野:まさに連続起業家ですね。しかし、海外でのビジネス、特に資金調達は大変だったのではないですか?

安藤:めちゃくちゃ大変でした。海外の会社って、外国人が代表だと基本的に銀行がお金を貸してくれないんですよ。もし事業が失敗して本国に逃げられたら、追いようがないですから。だから、どんなに有望な事業計画があっても、自己資金かエンジェル投資家を探すしかない。


 お金がないと事業をスケール(拡大)させるのに時間がかかってしまいます。お金は、僕にとっては選択肢や時間を増やすものと考えています。つまり、お金がなければ、選択肢も限られる。だから、日本で事業を展開している会社と共同でやったほうが事業を拡大するスピードが速くなると思いました。

水野:それが、後にご自身の会社ディアライフとGA technologiesが経営統合する背景にも繋がってくるわけですね。

安藤:そういうことです。当時は事業を売って終わりにしたかったわけではなく、まだまだ会社を伸ばしたいと思っていたので、GA technologiesと株式交換という形で経営統合して、僕自身もGAの株を創業者と同じくらい持たせてもらって、一緒に海外事業を伸ばしていく道を選んだ、という流れですね。今はGA technologiesの執行役員として、タイを中心にASEAN全体の事業を見ています。

◆「人生はゲーム。運は“使いたい時”まで貯めておく」

「人生もビジネスもゲーム」7社をイグジットした“令和の虎”安藤功一郎が語る成功哲学とは?
水野:安藤社長の人生はかなり破天荒で、普通の人ではなかなかそのような考えまで及ばないというか、戦略思考というか、どのような感覚で人生やビジネスを捉えているのですか?

安藤:そうですね、基本的にはゲームだと思っています。自分に降りかかる困難なこともイベントみたいなもの。どうやってクリアしようかなって考えるのが楽しい。だから、タイで起業したときも、次から次へと新しい会社を作ってしまう。

 レンタカー事業を始めたのも、「なんでこんな待たされるんだろう」「もっと便利な料金体系にできないかな」と自分が不便に感じたことを解決するゲーム、みたいな感覚で。

水野:そのゲームを有利に進めるうえで、「お金」と「運」についてはどう捉えていますか?

安藤:お金は、さっきも言ったように僕にとっては「時間」と「選択肢」を買うための道具なんです。お金があれば、やりたいことへの時間を短縮できたり、いろいろな手段を選べるようになる。

 逆に、お金がないと時間がかかったり、できることが限られたりする。だから、お金を有効に使えば使うほど、さらに時間や選択肢が増えて、結果的にお金も増えていく。そういうものだと思っています。

水野:では、「運」についてはどうでしょう?「運の正体はゼロサム」とお考えと聞きました。

安藤:運って、基本的にはプラスマイナスゼロだと思っています。良いこともあれば悪いこともある。ただ、その運を「いつ使うか」は自分でコントロールできるんじゃないかな、と。

 例えば、「今日、デートだから雨降らないでほしいな」ってところで運を使ってしまうと、本当に大事な商談とか、ここぞというときに運が残ってないかもしれない。逆に、小さな不運を受け入れておけば、そのマイナス分がどこか別のところでプラスとして返ってくる。

水野:なるほど! 日常の小さなラッキー・アンラッキーに一喜一憂せず、本当に使いたいときのために運を「貯めておく」という感覚ですか。

安藤:そうです。だから、「運がいい人」っていうのは、本当に運がいいんじゃなくて、「自分は運がいい」と思い込んでいるだけ、とも言えますね。ただ、その思い込みが大事で。

 あとは、仏教でいう「喜捨(きしゃ)」、喜んで捨てると書くのですが、そういう考え方も大事にしています。何かを手放さないと、新しいものは入ってこない。執着せずに手放すことで、また新しい運とかチャンスが入ってくるんじゃないかな、と考えています。

◆ムエタイ王者から“令和の虎”へ。有名になって生まれる「影響力」

「人生もビジネスもゲーム」7社をイグジットした“令和の虎”安藤功一郎が語る成功哲学とは?
水野:ビジネスでのご活躍はもちろんですが、安藤社長はタイでムエタイのチャンピオンにもなられていますよね。これはどういう経緯なんですか?

安藤:最初はダイエット目的で始めたんですよ(笑)。でも、やっているうちに試合に出ないか、と言われて。アマチュアの試合でたまたま引き分けたのが悔しくて、「3年以内にチャンピオンになる」と公言したんです。

 周りは「え、無理無理、何言ってんの?」みたいな反応でしたけど、僕はそう言われれば言われるほど燃えるタイプなんで。

水野:公言して、本当にチャンピオンになってしまうのがすごいですよね。しかもムエタイはタイの国技。外国人には相当ハードルが高いのでは?

安藤:かなりハードルは高いです。まず判定が完全にアウェイなので、タイ人選手相手だと、ぶっ倒さないと勝てない。僕も顔面だけで40針以上縫ってますからね。ムエタイは肘や膝とかも使うんですが、肘って尖っているので、まぶたがすぐ切れちゃうんですよ(笑)。

水野:壮絶ですね……。そして現在のご活躍といえば、「令和の虎」への出演です。これはどういったきっかけだったんですか?

安藤:あれは自分で連絡して、立候補したんです。もともと「マネーの虎」を見ていて面白かったし、「令和の虎」もYouTubeで見ていまして。自分ならこういう価値提供ができるんじゃないか、特に海外でビジネスしたいっていう志願者が出てきたときに、他の虎のメンバーは国内がメインだから、僕がいたら話が合うし、番組も盛り上がるだろうなと思ってプレゼンしました。

水野:自ら売り込みをしたんですね! 番組に出演されて、何か変化はありましたか?

安藤:それはもう、めちゃくちゃありましたね。一番大きいのは、自己紹介がすごくラクになったこと(笑)。「あ、令和の虎の!」って言ってもらえるのんで。

 あとは、会える人の幅が格段に広がりました。今、僕が会おうと思って会えない人って、ほとんどいないんじゃないかな。総理大臣とかは別ですけど(笑)。

水野:影響力が格段に上がったわけですね。番組での出資の決め手はなんだったのでしょうか?

安藤:いろいろありますが、最終的には「その人と一緒に仕事がしたいか」「その事業が社会のためになるか」といった、フィーリングに近いところもありますね。もちろん事業計画も見ますが、最後は人かな。

水野:顔を出してメディアに出ることで、影響力を持つことのメリット・デメリットについてはどうお考えですか?

安藤:メリットは今言ったようなことですよね。ビジネスもやりやすくなるし、いろいろなチャンスも舞い込んでくる。一方で、影響力が強い分、プライベートは犠牲になるし、一歩間違えれば炎上するリスクもある。影響力って、使い方次第で武器にもなるけど、凶器にもなり得る。

 ただ、ビジネスでお金儲けしたいと思うなら、顔を出して影響力を持つことのメリットのほうが大きいと思いますよ。持っていて損はない。顔を出せないような、後ろめたいことをしてるヤツは儲からないですから。

水野:いろいろお伺いしましたが、最後に一番伝えたいことは何ですか?

安藤:一番伝えたいのは、やっぱり「覚悟」の大切さですね。僕自身の経験から言っても、何かを成し遂げるとき、大きな決断をするとき、そこには必ず「覚悟」があった。タイで起業したときもそうですし、ムエタイでチャンピオンになるって公言したときもそう。その「覚悟」が、結果的に運を引き寄せたり、お金に繋がったりするんだと思うんです。結局、すべては「覚悟」から始まる。それが、僕が一番伝えたいメッセージですね。

【プロフィール】安藤功一郎(あんどう・こういちろう)

「人生もビジネスもゲーム」7社をイグジットした“令和の虎”安藤功一郎が語る成功哲学とは?
1981年、神奈川県座間市生まれ。実業家、投資家。
大学卒業後、株式会社ガリバーインターナショナル(現・株式会社IDOM)に入社し、24歳で当時の東証一部上場企業史上最年少部長に就任。
その後、タイ・バンコクに移住し、旅行会社、不動産仲介会社など10社近くを起業、うち7社を売却した連続起業家。
2012年設立のDear Life Corporation(ディアライフ)は、バンコクNo.1の日本人向け不動産仲介会社へと成長。
2022年、ディアライフは株式会社GA technologiesと経営統合。現在はGA technologies執行役員(海外事業担当)およびGA technologies (Thailand) Co., Ltd.、RENOSY (Thailand) Co., Ltd.のCEOを務める。
YouTubeチャンネル「令和の虎」に虎(投資家)としてレギュラー出演中。2024年1月、初の著書『覚悟がすべてを変える 運とお金の正体』(サンライズパブリッシング)を出版。セレッソ大阪サッカースクール・バンコク校の運営にも携わる。

<取材・文/水野俊哉・高橋真以>

【水野俊哉】
1973年生まれ。作家。実業家。投資家。サンライズパブリッシング株式会社プロデューサー。経営者を成功に導く「成功請負人」。富裕層のコンサルタントも行う。著書も多数。『幸福の商社、不幸のデパート』『「成功」のトリセツ』『富豪作家 貧乏作家 ビジネス書作家にお金が集まる仕組み』などがある。
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