なぜ、ブームは一瞬で消え去ってしまったのか? 元テレビ局スタッフの筆者が、改めて歴史を振り返ってみたい。
「第七世代」の特徴が当時のテレビ業界にマッチ
前述した4組に加え、宮下草薙、かが屋、ぺこぱ、ゆりやんレトリィバァも、メディアで「第七世代」とされていた。ネタに対して真摯に向き合っている芸人が多く、現に霜降り明星は「M-1グランプリ」、ハナコは「キングオブコント」、ゆりやんレトリィバァは「女芸人No.1決定戦 THE W」と「R-1グランプリ」で、それぞれが優勝。実力を裏付ける結果を残しているわけだ。
まじめな優等生タイプが多いことも、コンプライアンス意識が高まりはじめていたテレビ業界とマッチした。くわえて、テレビ関係者からすると、彼らの起用は同世代の若年層視聴者を獲得できるメリットがあった。各番組が「お笑い第七世代」の芸人を起用し、一気に知名度が広まることになる。
「第七世代芸人」ブームのその後は…
ただ、ブームはさほど長続きしなかった。彼らの現在地には大きな明暗が分かれている。文句なしの売れっ子は、霜降り明星とハナコ。ともに『新しいカギ』(フジテレビ系)でメインキャストを務め、引き続き人気を維持していると言えるだろう。
時点でぺこぱ。ネタを見る機会は減ったが、レギュラー番組を持ち、さらには発表会やイベントでの仕事も少なくない。次にかが屋は、ブレイクしているとは言えないが、本業のコントでは熱狂的なファンを抱えている。「ライブで食える」ようになりつつあるのはコント師としては本懐ではないか。
ゆりやんレトリィバァは独自の立ち位置。『極悪女王』(Netflix)が大ヒットしたことで演技が認められ、現在は拠点をアメリカに移して世界進出を目指す。「お笑い第七世代」の中では、いまでもなにかと話題になることが多い。
EXITはレギュラー番組はあるものの、「お笑い第七世代」を引っ張っていたコンビとしては、少々さびしい着地点のように思える。
一方で、人気が低迷してしまったのが四千頭身だ。トリオの中心人物・後藤拓実は、2023年上旬の時点で仕事がなく、バラエティ番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)で、給料が家賃を下回ったことを告白。現在まで“仕事がないキャラ”を続け、トリオとしての活動は『有吉の壁』(日本テレビ系)やラジオ番組など限られたもので、再浮上の見込みもない状況となる。
四千頭身と同じく失速したのが宮下草薙だろう。
明暗が分かれた理由は…
それにしても、霜降り明星とハナコはなぜいまでも引く手あまたなのか? 大きな理由としては、前述した通り有名な賞レースで結果を残していることが大きい。優勝した実績は大きく、テレビ関係者からの信頼も厚い。また、『新しいカギ』への出演が、大きなターニングポイントになったのではないか。スタートは2021年4月からで、「お笑い第七世代」のブームが終わりかけている時に立ち上がった。同番組は中高生をターゲットとした企画を放送し、若年層から高い支持を得ることに成功した。2024年には、『新しいカギ』をベースに『FNS27時間テレビ』が制作されたのも記憶に新しい。
方や人気が低迷している芸人たちは、もともと印象的な漫才やコントを披露していたが、バリエーションに乏しく、賞レースでも結果は残せていない。
その結果、若い世代の活躍に押され、ブームが過ぎたあたりからテレビでネタを見る機会が一気に減った。番組を任されるような実力もなかったことで、一過性のブームが過ぎ去ったのと同時に勢いをなくしていったのは、ある意味自然な流れか。
失速の理由はまだある
一致団結していなかったのも失速の理由として挙げられる。「お笑い第七世代」は、霜降り明星・せいやが、コンビのラジオ番組『霜降り明星のだましうち』(朝日放送ラジオ)での発言がキッカケで生まれた。芸人だけでなくスポーツ選手やミュージシャン、YouTuberなども一括りにし、“自分たちの世代”を押し出し、盛り上げようという意図で語られていた。キャッチーな言葉だったことでメディアが飛びつき、実態がないまま「第七世代」という言葉だけ独り歩きしてしまうことに。その結果、当事者たちは関係性を築く間もなく消費され、事務所の垣根を越えた結びつきが生まれなかったように思う。
ちなみに、2025年5月30日の『霜降り明星のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で、霜降り明星が「お笑い第7世代」について語ったが、せいやが「同窓会はない?」と聞くと粗品は「ないない」とすぐに否定している。
もしかしたら、「第7世代」というブームを当事者たちは黒歴史にしたいのかもしれない。
<TEXT/ゆるま小林>
【ゆるま小林】
某テレビ局でバラエティー番組、情報番組などを制作。退社後、フリーランスの編集・ライターに転身し、ネットニュースなどでテレビや芸能人に関するコラムを執筆