この数値は、あくまでも自治体に報告があった件数で、実際はもっと多いとみられる。
その謎の一端を探るべく、家の片付けを生業とする(株)ウインドクリエイティブ(大阪市)の代表取締役、二見文直さんに話を聞いた。
生ゴミが散乱してゴキブリが大繁殖
——大阪市だけでも片付け業者は300社を下らないそうですが、それだけ“モノ屋敷”が多いということでしょうか?二見文直(以下、二見):モノ屋敷は、実はそう稀なケースではありません。料理や運転が苦手な人がいるように、片付けが苦手という人がいるだけにすぎないのです。しかし、片付けが苦手な人ばかりが、めちゃくちゃ批判されるという側面があります。
ただ、紙やプラスチックといったゴミだけでなく、腐った生ゴミが散乱する「生ゴミ屋敷」となったら、単に片付けが苦手というより、心の問題に起因していることが多いのです。
——実際に心の問題によって「生ゴミ屋敷」となった実例を教えていただきたいです。
二見:では一例を挙げましょう。コンビニフランチャイズのオーナーとして働いている、50代女性のAさんのご自宅を清掃したときのことです。Aさんは週7日、朝から晩までコンビニで仕事をしていて、深夜にバイクで帰宅していました。ほとんど夜食をとって寝るためだけに家に戻っていたようです。
弊社で運営しているYouTubeチャンネル「イーブイ片付けチャンネル」では、モノ屋敷を片付ける作業を写しています。こちらの女性が弊社のチャンネルの動画をよく視聴してくれていたそうで、「家がゴミ屋敷化しているので片付けてほしい」と依頼されました。
行ってみると、弁当の空き容器が散乱している、典型的な生ゴミ屋敷。荷物も積み上がっていて、入ってすぐの玄関から片付けを始めなければならないほどでした。各部屋への動線は辛うじて確保されていましたが、廊下の両側には袋に入ったゴミが積み上がり、寝室もベッド以外はゴミの山。家で自炊している気配は一切なく、コンビニ弁当を食べたらそのままポイ捨て……という感じで、ゴキブリが大繁殖していたのです。
家族を失ってゴミ屋敷化が始まった
——それは凄惨ですね。どのような経緯があって、生ゴミ屋敷になってしまったのでしょうか?二見:片付け作業は、私たち作業員の独断ではできないので、Aさんも立ち合いました。そのとき私はゴミが散らかったきっかけを、それとなく尋ねてみたんです。すると、旦那さんを交通事故で亡くして、その1か月後に子供2人も交通事故で亡くなったと答えられました。
もともと、Aさんは旦那さんと2人でコンビニを切り盛りしていたそうです。楽な仕事ではないと思いますが、居心地がいい場所だったのですね。それが、家族を失ってしまって、心の拠り所が思い入れのある店だけになってしまった。コンビニの仕事は大好きとおっしゃっていましたし、店内は清潔そのものでした。対して家族のいなくなった自宅は、もはや心地よい居場所ではなくなったのでしょう。
「家がゴミ屋敷化してしまう人=だらしない人」ではない

二見:まったく、そのとおりです。ネットでは「精神科にでも行けば」「生活がだらしないだけ」といったコメントがありますが、そう一括りできる問題ではありません。結果としてセルフネグレクトのようになっても、「いろいろな事情が折り重なってゴミ屋敷になってしまう」という面も考えてほしいです。
仕事が辛すぎて片付けができなくなり…
——Aさんはレアケースかと思いますが、その他はどういった人の家がゴミ屋敷化してしまうのでしょうか。二見:特に多いのは仕事ですね。以前、依頼を受けた女性のかたは、泣きながら「整理収納は大好きだったけれど朝から晩までの仕事が辛すぎて……。でも辞めることができない」と打ち明けました。それで、何かをする気力をなくしてしまい、友達に会うこともなくなり、食事も宅配で済まし、散らかっても片付ける気も起きなくなったそうです。
この話を聞いて「出勤時に、ゴミをゴミステーションに出せばいいのでは?」と思う人もいるかもしれません。ただ、こういった状態になってしまうと、ゴミ出しのための何秒かすら作れない。極限まで心が追い詰められると自分のことはすべて後回し、というかできなくなってしまうのです。
謎も多いピンポイントなゴミ屋敷

二見:例えば、1軒家で2階の1部屋だけがゴミの山というお宅に行ったことがあります。父母と一人息子の3人家族ですが、息子さんの部屋だけが腰の高さまでゴミが積み上がっていまして……。
依頼してきたのは、息子さんではなく親御さんです。ですが、立ち合われたのは息子さんで、私どもが片付けている間も親御さんは部屋に上がってきませんでした。この家庭は、おそらく家庭内暴力があったのだと思います。親子関係が断絶して、子どもの部屋だけが散らかるのはしばしばあるんです。
「まずは玄関から」が掃除の基本
——こういったゴミ屋敷では、まずはどういったところから片付けていくのでしょうか。二見:どのケースであれ、片付け作業の仕方は一緒。まず、動線の確保が絶対必要なので、玄関から先に着手して片付けることが多いです。依頼者によっては、「奥の部屋からどんどん先に片付けてほしい」というリクエストがあるのですが、玄関がゴミ山であれば、そうしたくてもできません。そうした制限の範囲内で、お客さんの要望に合わせた片付けをしています。
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心の問題や家庭環境、仕事の過酷さなど、ゴミ屋敷化には人それぞれの背景がある。ゴミ屋敷に住んでいる人を安易に「だらしない」と決めつけることなく、その事情を知ることが大切だ。
では、もし自分や家族の部屋が散らかり始めたら、どんな心がけを持ち、どう対処すればゴミ屋敷化を防げるのだろうか。インタビュー後編では、ゴミ屋敷化を防ぐための「捨てるコツ」の話を中心にお届けする。
取材・文/鈴木拓也
【二見文直】
株式会社ウインドクリエイティブ代表取締役。YouTubeチャンネル「イーブイ片付けチャンネル」運営者。1984年大阪府生まれ。一般社団法人遺品整理士認定協会認定遺品整理士。生前整理技能Pro1級。リサイクル販売会社に勤務後に独立し、2016年に株式会社ウインドクリエイティブ(屋号はイーブイ)を設立。毎月200軒以上の依頼に応え、これまで2万件以上の片付けを経験。2024年12月、著書『1万軒以上片づけたプロが伝えたい 捨てるコツ』(ダイヤモンド社)を上梓。X:@EeveeSns
【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。