国分太一(50)が6月20日に所属事務所の株式会社TOKIOから無期限活動停止処分とされてから約10日が過ぎた。処分の理由は複数のコンプライアンス違反があったためである。
その中身は公表されていない。
国分太一「無期限活動停止」の波紋。松岡昌宏「知らない」発言で...の画像はこちら >>

無期限活動停止で生じる波紋

国分は『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界くらべてみたら』(TBS)などテレビ、ラジオで6本あった全てのレギュラー番組から姿を消した。ジャパネットたかた、丸亀製麺などのCMも降りた。

広告代理店は既に違約金の金額の算定も済ませている。「合計約10億円」(広告代理店スタッフ)。そのうちCM分は近日中に支払いが求められる。違約金は待ってもらえない。本人に支払い能力がない場合、エージェント契約を結んでいるスタートエンターテイメントが立て替えることになる。

31年にわたって所属してきたTOKIOは6月25日をもって解散。2021年に設立された株式会社TOKIOも整理される。会社整理は仕方がない。TOKIOメンバーで副社長の松岡昌宏(48)は同27日に愛知県東海市内で取材対応したが、自分も社長の城島茂(54)も国分のコンプライアンス違反の中身が分からないと言うのだから。

「城島も自分もうちのスタッフも、誰も知りません」(松岡)

「答えられない」ではなく「知らない」。
コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から見たら、もはや株式会社の体を成していない。タレントによる会社運営のポーズに過ぎなかったことを露呈した。

同29日放送のTBS『アッコにおまかせ!』(TBS)の和田アキ子(75)など情報番組は揃ってタレントとしての松岡の潔い態度などを讃えた。それに異論はない。半面、松岡には副社長としての立場もあることが忘れられていた。

会見しない芸能人たち

国分のコンプライアンス違反の中身は松岡も明かさなかったため、分からないまま。当の国分は会見を開く素振りもない。ただし、会見を開かないのは国分ばかりではない。お騒がせタレントが滅多に会見を開かなくなった。香川照之(59)もそう。約3年前、東京・銀座のホステスにセクハラを行ったと『週刊新潮』に報じられたものの、会見はしていない。

香川も全ての仕事を失った。興業である歌舞伎にこそ約半年後に復帰したものの、ドラマに出演したのは今年4月。
しかもスポンサーの存在しないBSデジタル有料放送のWOWOWだった。

スポンサーは商品や企業のイメージを上げるため、大金を投じて番組を提供し、CMを流す。視聴者が受け入れない可能性のある芸能人はわざわざ起用しない。

一方で会見が視聴者の悪感情を緩和する免罪符になることも珍しくない。世間の共感や同情を誘える可能性があるからだ。うまくいけば世間の許しが得られ、テレビ復帰が早まる。

それでも香川が会見しなかった理由の1つは、吊し上げを嫌がったからではないか。会見をする芸能人を袋叩きにする記者は昔も今もいる。

ダウンタウンの松本人志(61)は『週刊文春』の性加害疑惑報道を受け、約2年半前から芸能活動を自ら休止している。やはり会見をしていない。このまま秋ごろまでには相方の浜田雅功(62)と動画での活動を再開するという。こちらも基本的にはスポンサー不在である。


松本は昨年12月、一部マスコミの単独インタビューを受けたものの、これは免罪符になりにくい。単独インタビューだと芸能人側が都合のいいことだけを話しているように受け取られがちだからだ。昔からそう。

たとえば2007年、主演映画『クローズド・ノート』の舞台挨拶で司会者から質問をされた沢尻エリカ(39)が、不機嫌そうに「別に」と答えたところ、大顰蹙を買った件があった。直後に沢尻はテレビ朝日のワイドショー『スーパーモーニング』(当時)の単独インタビューに応じ、ときには大泣きしながら釈明したが、イメージ回復にはほとんど役立たなかった。

日テレ福田社長が明らかにしたこと

お騒がせ芸能人は会見を避けるようになったものの、逆に会見を求められる機会は増えた。2020年ごろまでは大目に見られていた芸能人の言動に対し、厳しい目を向けられるようになったためだ。2000年前後から企業に押し寄せたコンプライアンス強化の波が、約20年遅れで芸能界にもやってきた。

芸能人を起用するテレビ局側の会見もコンプライアンスの強化によって変わった。6月20日に国分側が無期限活動停止を発表する数時間前、日本テレビの福田博之社長(63)がこの件について行った会見は関係者のプライバシー保護が最優先。国分のコンプライアンス違反の中身については一切口を閉ざした。一部で批判も浴びた。

一方で福田社長が明らかにしたことも複数ある。


①放送30年の『ザ!鉄腕!DASH!!』から国分は降板する。本人も納得している
②国分は「申し訳ない」と言っている
③弁護士が調査を行った。またプライバシーに関することを会見で伏せるのも弁護士と話し合ってのこと
④日テレ関係者が加害者側として関与していることはない
⑤国分さん個人の問題である
⑥刑法に関わる問題ではない
⑦監督官庁の総務省にも報告した
⑧日テレと親会社の日本テレビホールディングスの臨時取締役会を開き、国分降板の了承を得た


国分のコンプライアンス違反の中身がそう軽いものではないことをうかがわせた。まず、総務省への報告は滅多なことでは行われない。報告されるのは「放送中断などの重大事故」、「選挙報道の当確ミス」、「人権侵害」など見過ごせないことばかりである。

また国分の降板は日テレの臨時取締役会のみならず、親会社の日本テレビホールディングスの了承も得た。親会社のトップである代表取締役会議長は読売グループの総帥である山口寿一・読売新聞グループ本社社長(68)。やはり、軽いこととは思えない。

両社の非常勤取締役の中には元財務事務次官の真砂靖氏(71)もいる。退官後は弁護士に転じ、現在は企業法務やコーポレートガバナンス(企業統治)などを専門とするTH総合法律事務所の特別顧問を務めている。弁護士としても大物だ。

日テレ会見に対する賛否

この会見を外部の弁護士はどう見たのだろう。

「日テレの対応は、企業のリスク管理として適切だったと思います。
記者会見を開いたこと自体に意味があったと思います。たとえ詳細を語れなくても『言えないことを言えない』と明示することが、企業のリスク管理として一定のメッセージになるからです(中略) 日テレは”人権保護に振り切った”判断をしたとみています」(危機管理・メディア対応に詳しい河西邦剛弁護士、6月24日付弁護士ドットコムニュース)

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士(54)は福田社長がコンプライアンス違反の中身を伏せたことで批判されたことについて、「国分氏側の対応にも大きな問題がある」と評した。さらにこう解説した。

「今回の事案では、コンプライアンス違反を指摘された時点で、国分氏側が自ら主導して『謝罪と説明』を行うべきだった」(ENCOUNT、同22日付)

一方、福田社長の会見に対する疑問の声もあった。

「日テレは詳細については『プライバシー等の観点から配慮すべき点が多く説明を控えさせていただく』としているがことがことだけに説明は必要では」(紀藤正樹弁護士、同20日に更新したX)

「違反の中身は不明」に記者からは怒声も

では、会見翌日21日の一般紙4紙の朝刊はどう報じたのか。

朝日新聞「TOKIO・国分さん、無期限休止 日テレ「複数の問題」
毎日新聞「国分太一さん活動休止 コンプラ違反、番組降板」
読売新聞「国分太一さん無期限休止 TOKIO発表 コンプラ違反判明」
産経新聞「国分さん 無期限活動休止 コンプラ違反 セクハラか」


見出しはほとんど同じだが、記事内容は異なる。朝日はコンプライアンス違反の中身について答えなかった日テレにかなり厳しかった。

産経は「日テレが明かさないのなら」とばかりに関係者を取材し、国分がセクハラを行った可能性があると報じた。毎日も締め切り時間の違う大阪版朝刊ではセクハラに触れた。コンプライアンス強化の時代になったので、おそらく類似の会見は増える。芸能プロダクションの幹部に聞いた。

「不祥事の内容をテレビ局側に一方的に明かされたら、タレント側はたまらない。
芸能生活が一発で断たれる可能性がある。芸能プロ側は訴えることになるだろう。そもそもテレビ局にタレントのプライバシーに関わる問題を明かす権利はない」

福田社長の会見は1時間20分以上におよんだ。コンプライアンス違反の中身が明かされなかったため、記者からは「あなたは何のために(我々を)集めたんですか!」「あなたは社長なんですか!」「日テレは常識がないんですか!」といった怒声も飛んだ。

このところ芸能界、テレビ局が絡む会見は荒れがち。コンプライアンス強化の時代になっても会見の中身は変わっていない。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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