『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは老舗名店・浅草今半の弁当『牛玉重』。
孤独のファイナル弁当 vol.02「浅草今半 牛玉重」
浅草今半の弁当「牛玉重」をもらった。オレンジ色の包み紙デザインに歴史を感じて、グッとくる。創業明治二十八年だもの。「味と心のお弁当」のコピーもいいじゃないか。この包み紙、取っておく人がいるかもしれない。そこから弁当包み紙収集が始まるかもしれない。コレクターの収集には、必ずキッカケになる名品があるのだ。だけど夜遅かったので、その日は食べず冷蔵庫に入れて、翌朝食開いた。
中身の見た目も貫禄ある。半分牛肉で、半分玉子。肉も多いが、玉子量多し。
おいしくても色味が地味なのは肉弁当の宿命。しかし紅生姜を中心に輝かせたことで、グリーンピースの緑がぐっと生きている。
今半のすき焼き弁当は冷えてもうまい。それは知っている。が、冷蔵庫はさすがに冷えすぎだった。箸でちょっと食べたらごはんが硬くなっていた。このまま電子レンジに入れられる容器ではないので、全体のフォルムが崩れないように気をつけて皿に出した。そしたら意外に量が多くてびっくり。こんなに詰まっていたのか。
でもレンジで温めて、外しておいた紅生姜をそのままのせたら、おかずカップがなくなったぶんカッコヨクなった。
あっためたので香りも戻った。今半のすき焼き弁当の匂いだ。そう、この肉の柔らかさ、大きさだ。肉を噛んで箸で引っ張ると、ビヨーンと伸びる。そんなことする必要はないんだけどやってしまう。幼稚な大人でごめんなさい。
肉の味付けに、さすが浅草今半という説得力がある。説得されて嬉しいのか俺。
そして玉子。このだし玉子、どうやって作っているんだろう? 最初「あれ? 豆腐が混じっているのか」と思った。柔らかいんだけど、ところどころエッジがあって。
というわけで、弁当箱から出したら重量級だった牛玉重、すんなり完食。大満足だった。


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など