こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

2万人。これはシューフィッターとして14年間で触ってきた人の足の数です。1500足。20代のころに設計した靴のサンプルデザイン数です。4万足。30代から3年前まで修理屋としてリペアしてきた靴の数です。手の中にはデータが残っています。その経験と知識から見えてきた、靴選びの鉄則3か条を紹介したいと思います。それは、ずばり「目的×サイズ×インソール」を掛け算することです。

ルールその1/靴には目的がある。「スニーカー」という定義は広すぎる

「スニーカー=歩きやすい」。というわけではありません。
そもそもスニーカーという言葉自体、定義が広すぎます。ハイヒールは走りづらいことは誰にでもわかりますが、「エアフォースワンは歩きづらい」と言っても、なかなか理解できません。「ナイキエアでしょ? なんで?」とよく聞き返されます。私自身も好きで履いていますが、正直歩きづらいです。

当たり前です。エアフォースワンもエアジョーダンも、バスケットボールシューズです。。バスケの動きをイメージしてください。走るより、止まる・ターンするといったブレーキをかける動きのほうが多いです。ブレーキをかけるための靴とも言えます。

ファッションとして楽しむのはアリですが、歩くととにかく疲れます。歩いていても疲れにくい靴がほしいのであれば、前に進むためのランニングシューズやライフスタイルシューズから選ばなければなりません。
2万円のナイキのバッシュより、3000円のワークマンのランニングシューズのほうがはるかに歩きやすかったりします。

もう失敗しない「痛くならない靴選び」3か条。目的×サイズ×イ...の画像はこちら >>
それはなぜか。ワークマンでもニューバランスでもHOKAでもいいのですが、足の指が曲がるところをフレックスポイントと呼びますが、歩くための靴は必ずここで曲がります。

例えば、ワークマンのハイバウンスバラストウォーク(2900円)。クッションや素材など、細かい話の前にまずフレックスポイントで曲がらなければ、話になりません。

もう失敗しない「痛くならない靴選び」3か条。目的×サイズ×インソールで“フィット感”抜群に
エアフォースワンは止まるための靴なので曲がらない
他方、エアフォースワン(1万6500円)は、ほぼ曲がりません。ここで曲がるとバスケの動きでは逆にケガをしてしまいます。

靴には、目的があります。進むための靴とブレーキをかけるための靴ではそもそもの用途が異なります。目的を混同すると、「なんか疲れる靴」「痛い靴」になります。同じスニーカーでもその用途を理解しておくといいでしょう。

ルールその2/靴のサイズはあってないようなもの

「靴のサイズは何センチですか?」と聞かれて、パッと答えられる方は、意外と要注意です。自分のサイズに思い込みがあり、ネットで靴を買うとかなりの確率でハズレを引きます。
私のもとにも、「ネットで買った靴が合わない」という相談は、山のように舞いこみます。

10年間、靴のサンプルをつくり続けてきたので、よくわかるのですが、メーカーが靴をつくるときにサイズなど計っていません。26㎝の靴はメジャーで計っても26㎝ではなく、「このサイズが26㎝っぽいから26㎝にしよう」と、かなり適当にサイズをつけています。

別に手抜きではなく、「サイズ表記はあくまで目途で、最後は自分の感覚で決めてね」というのがメーカーの基本的な考えかたなのです。オーダーメードではなく、顔の見えない万人に売るわけですから、サイズはあくまで目安としてつけざるをえない。革靴とスニーカーでは同じ足でも1㎝くらい、人によっては2㎝くらい違うのはザラですが、革靴が足のサイズを目安にしているのに対し、スニーカーは靴全体のサイズを基準にしているからです。文句は、革靴とスニーカーが分かれた100年前の先人に言ってください。

「なら、店で測ってもらえばいいじゃん」と思う方も多いでしょう。それも甘い。たしかに今はあらゆる店でAI搭載の最新機器で、無料で足のサイズを測定してくれます。

もう失敗しない「痛くならない靴選び」3か条。目的×サイズ×インソールで“フィット感”抜群に
ナイキ・アシックスでも導入されているAI搭載のAetrex社のフットスキャナー。写真は公式HPより
しかし、どんな高級なマシーンでも測定するのはじっと止まった状態の足です。止まってる足のサイズと、動いている足のサイズはまったく異なります。
加えて、仮に今後AIがさらに発達して足のサイズがわかったところで、店に足に合った靴の在庫があるとは限りません。だから原始的でも、履いて店の中を歩き回る、自分の足のセンサーを信じる方法しかないのです。

ルールその3/機能性インソールで選択肢は超広がる

膝や腰など、30歳を超えるとどこかに痛みがきます。私も若いころのケガの後遺症で膝痛とは数十年のつきあいです。これを靴単体だけで解決するのは、至難の技です。ではどうすべきか? 既存のインソールを機能性インソールに交換してほしいのです。インソールとは中敷きとも呼ばれ、ひと昔前は、ゆるい靴をフィットさせるためにサイズ調整用として利用されるものでした。これはこれで問題があるのですが、それはさておき、今は用途が異なります。靴の機能性を向上させるためのパーツとして販売されています。

昭和~平成の時代は大人といえば、革靴が主流でした。しかし令和になって、ビジネスカジュアルが浸透したこともあり、機能性スポーツシューズでもOKという職場が増えています。これらの靴は基本的に、もともとついているインソールは外れます。
なぜ取れるのかというと、設計の立場から言えば、各自でカスタムしてほしいからです。

しかし、このメッセージは販売の現場には伝わりません。新品のインソールを交換するなど、客に余計な出費を強いることになるからです。

しかし、冷静に考えてほしいのですが、靴という入れ物にはこだわるのに、足が直接触れるインソールを蔑ろにするのは、愚の骨頂です。私は、お客様と一緒に靴を選ぶというアテンドの仕事もしていますが、2万円の靴よりも1万円の靴に5000円の機能性インソールを組み合わせるほうがはるかに効果的ということを身をもって実感しています。

靴を新調する前に、適正な機能性インソールに取り替えただけであっさり膝の痛みが解決したことすらあります。膝、腰の痛みのほとんどは姿勢の悪さからからきます。姿勢を正すには靴単体より、機能性インソールからのアプローチのうほうが数倍効果があります。今の時代、靴選びと機能性インソール選びは、セットだと思ったほうがいいでしょう。ヒザも関節も消耗品です。減りはしても増えることはありません。歩きやすい靴がほしいと思ったときに、まず見るべきは値段でもブランドでもありません。


靴には進むためか止まるためかといった目的があり、それを見誤ると高価な靴でも足に負担がかかります。さらに、サイズ表示は目安にすぎず、自分の足と靴の相性を知るには実際に歩いて確かめるしかありません。そして最後に機能性インソールに入れ替えること。靴の性能を引き出し、姿勢や痛みを改善する最短ルートです。靴選びは「目的×サイズ×インソール」の掛け算で考えていけば、失敗することはなくなるでしょう。

【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』
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