見ず知らずの人に汚れた部屋を見られたくないし、先に少し掃除しておく?
できることは自分たちでやっておけば、特殊清掃の費用を安く抑えられるかも?
じつは、「何もしない」が正解だ。素人が下手に手を出してしまうと事態が複雑化し、業者が困ってしまう可能性があるという。それどころか、費用が逆に高くつくケースも……。
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに詳しい話を聞いた。
依頼主が「先に少し掃除しておく」は逆効果
特殊清掃業者へ依頼をする前に、遺族が先に清掃作業を進めてしまった場合、逆にややこしい状況に陥ることが多々あるという。「孤独死現場の清掃依頼を受けて、まずは見積もりのために現場に行った時、先に遺族の方が『やれることはやっておきました』といって、作業を進めてしまっている場合があるんです。
たとえば、ゴミを袋に詰めてまとめてくれていたりとか、遺体の体液などの処理をある程度進めてしまっている場合など。気を利かせてくれた、あるいは少しでも安くしたいと思ったのでしょうが、できれば遠慮していただきたいんです」
多少片付けるといったことが、なぜいけないのであろうか。
「まずは、孤独死があった部屋に専門的な知識やリスクを理解していない状態で入ること自体が危険な行為ということがあります。感染症リスクなどがあるので、基本的には防護服を着用しないといけません。体調を崩すきっかけになったり、感染症にかかる原因になるので。
他にはゴミを分別してまとめてくれているお客様もいます。一見ありがたいように思えるのですが、業者の分別基準と、一般の家庭ゴミの分別基準が違います。
割引してもらえるケースも?

「木は木で、紙は紙で、金属は金属で、素材ごとにまとめて置いてもらえると、こちらの作業工程が減るので見積もりの段階で割引できることはあるかもしれません。
勝手に作業を進めてしまう依頼主の気持ちとしては、家族の部屋を見ず知らずの業者に最初に入られたくないのかもしれません。自分だったら、ちょっと嫌だなと思いますし。たしかに、まだ遺族の方が入っていない見積もりの段階でタンス預金とか金品があったら盗んでしまう業者も中にはいるとは思うので……」
依頼主からするとゴミのようなものでも、リサイクルできるものもあるという。
「ゴミでも、海外輸出でリユースできるものだったり、査定をして買い取って再流通させられるものだったり色々あります。一般の方でその審美眼を持っている人は稀だと思います。
『この中から買い取ってもらえるものがあったら可能な限り買い取ってください』という依頼もありますので、そういった場合、査定書を作ってキャッシュバックしたり、差額を清掃料から割引することもあります」
鈴木さんが働くブルークリーン株式会社は古物商の許可を取っており、買い取ったものを保管するための倉庫もあるという。
「査定書で出した金額よりも古物商オークションで高めに売れた場合は後になってキャッシュバックすることもあります。でも、なるべくそうならないように、いままでの経験を社内で共有して、実際の現場で売れる料金と見積額にあまりズレがないようにしています」
見積もりから追加費用が必要になる可能性も

「お客様がある程度、先に掃除をしてサジを投げたあとに我々が清掃する場合はかなり大変です。元々の被害状況が見えなくなってしまうので、作業工程として床を解体した方がいいのか、薬品だけでなんとかなるのかが、わからなくなってしまうのです。一度見積もりを出した後、結局は臭いが取れなくて床を解体することになり、追加費用を請求する場合もあります。
先に清掃されてしまっていた場合、見積もりの段階で追加費用がかかる可能性があることを伝えるという。
「お客さんの中には、“少しでも特殊清掃費用を安くしよう”と考える人が多いのですが、結果的にはいつもより高くつく場合もあるのでご自身での清掃はヤメた方がいいです。以前、『一見キレイになっているのですが、臭いがとれません』といった依頼で、原因を特定できず、ちゃんと臭いが感知できなくなるレベルまで回復させられるかわからない現場もありました」
タンス預金など、本来は相続税がかかるものをこっそり持ちだそうとして先に清掃する依頼主もいる。
「身内だからといって、ちゃんと相続税がいくらとか決まる前に色々と手をつけるというのは法律的に問題があるのでヤメていただきたいです。関係性によっては、下手したら窃盗になる場合もあると思うので……。財産になるもの・ならないものといった知識がないのに勝手に部屋をいじくり回すのは避けた方がいいです」
賃貸で勝手に退去時期を決められていると困る

「賃貸のみでの話なのですけど、特殊清掃業者に依頼する前に退去時期を相談なしに決めてしまっている場合も困る時があります。退去まであと4日しかないけど部屋をキレイにしてくださいって言われても困ります。臭いを全て無くすためには絶対にかかる日程というのがあり、10日かかる作業を5日で終わらせてくれと言われても非常に難しいです。薬品をかけて終わりじゃなく、薬品が浸透して臭いが感知できなくなるまで確認しなきゃいけないので」
部屋の臭いは5日で取れたとしても、経過観察をしなくてはいけない。
「言われた日数で作業自体は終わらせることができたとしても、完全に臭いが取れているかどうかは何度か様子を見ないとわかりません。後日、不動産屋さんから『もう一回特殊清掃をやり直してください』といったトラブルが発生することもあるので。
なるべく間に合わせるようには努力しているが、過去には指定された日程に間に合わなかったこともあるという。
「日割り家賃をなるべく少なくしたくて、早めの退去をしたいという気持ちはわかるのですが、一度清掃が間に合わなかったことがありました。見積もりの時点で終わらせられると思ったのですが、案外手こずりまして……。不動産屋さんにお願いしてみたところ追加の家賃なしで退去時期を延長してもらえることになりました。こういったトラブルを避けるためにも、退去時期を相談なしで決めるというのはやめていただきたいです」
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦