『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは横浜・昇龍園の弁当『涼麺』。
孤独のファイナル弁当 vol.03 横浜・昇龍園「涼麺(醤油)」
早くも猛暑なので、「冷やし中華弁当」というのはどうかと思った。駅ビルで買った横浜・昇龍園の「涼麺」(油)。冷や中は伝統的かつオーソドックスな油味が好みだ。味噌とか黒酢とかいらん。「生麺使用」で798円。いいじゃないか。麺と具が別々になっていて、スープも袋入り。これなら「弁当」として携帯できる。さて仕事場で午後3時、小腹が空き暑くてまさに冷やし中華腹になってる。
出して皿に盛らずこの容器のまま食べるのが弁当らしいだろう。「瀬戸内産レモン果汁使用」と記してあるスープ袋を注意深く開け(ハネこぼし注意報発令)、麺にかけ回し箸で丁寧に麺をほぐす。
で、具をのせる。薄い別皿にきれいに並んだのを、このまま「せーの、ほい!」とひっくり返して麺にのせようとするような愚行はしない。友人がそういう馬鹿をやって具を卓上に散らばす失敗をした(実は俺本人かもしれん。記憶のすり替えで)。
具をひとつずつ箸で麺に盛ってゆく。元の美しい並べ方を参考にしながらも、アレンジ。俺は紅生姜を中心に持ってきた。
キュウリは大事。なのに少ない。ケチだ。と思う。俺は冷やし中華にクラゲもキクラゲもいらない。こいつらの歯応え、麺と口中でぶつかって話をややこしくする。この辺「昇龍園」の意地とプライドか。
もやしはいい。むしろ好き。
辛子を隅に全部出し、それをちょいと付けたキュウリと麺から食べる。うまい。予想通り麺がいい。しっかりしてる。そこにキュウリがまさに夏の涼。
うれしくなる。もやしと紅生姜と錦糸卵のあたりをざくっといってみる。うーん。紅生姜が、いい! 紅生姜をケチってないのがスバラシイ。キクラゲを食べてみる。ああ、はいはいオイシイオイシイ(二回言うな軽薄だぞ)。蒸し鶏も麺と汁とよく合ってるさすが。どんどん食べ進み、最後のほうで海老を食べてみたら、プリッとしてめちゃくちゃウマイ。お見それしました。
一気に完食。


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など