電車やバスで迷惑だと感じる行為のランキング上位には、『周囲への配慮が欠けた行為』が挙げられます。これらは、車内という限られた空間という特殊な状況が、その要因となっています。

 今回は、ある女性客の非常識な行為に端を発したエピソードを紹介します。ただ、そこには後味の悪い結末があったそうです。

バスで香水をつける女性を注意したら「アンタが臭いせい」と反論...の画像はこちら >>

寝不足のバス通勤は心地よい空間

 市役所に勤務の宝田和彦さん(仮名・39歳)。宝田さんは毎朝、郊外の自宅から市役所まで路線バスで通勤しています。

「その日は少し早めに家を出られたので、珍しく後方の二人掛けシートが空いていたんです。ラッキーだなと思って座っていました。すると、次の停留所で20代前半と思われる女性が乗り込んできて、唯一空いていた私の隣に座り、バスは満席となりました」

 その後、バスのエンジン音と心地よい揺れの中で、宝田さんは軽くまどろんでいたといいます。

「ちょっと疲れていたんです。年度末のため前日も遅くまで残業し、睡眠不足気味でした」

 ウトウトしていた宝田さんでしたが、強烈な香水の匂いで一瞬にして目が覚めたといいます。

「本当に鼻の奥に突き刺さるような、甘ったるくて濃厚な香りでした。一瞬、何が起こったのかわからなかったくらいです」

 隣の女性がバッグから香水の容器を取り出し、立て続けに自分の首元や手首に吹きかけていたそうです。しかも一度だけではなく、何度も何度も。乗客の多い車内、密閉された空間でのその行動は、明らかに周囲への配慮を欠いたものでした。


「さすがに我慢の限界でした。あんなに香水をふりかけられては、頭がクラクラしてきますよ」

思わず口にした苦言に想定外の反応

 ついに宝田さんは、我慢しきれずに声を上げてしまいます。

「車内で香水なんてふらないでくださいよ。そういうのは家でやってください!」

 やや語気強めに言ったその言葉に、女性は一瞬驚いた様子を見せたものの、すぐに視線を外して無視を決め込みました。しかし、沈黙は長くは続きませんでした。

「……おじさんのせいですよ。おじさんが匂うからです」

 小さな声ながらも、はっきりとしたその返答に、宝田さんは言葉を失います。

「正直、何も言い返せなかったですね。確かに、前日の夜は帰宅が遅くなりシャワーも浴びずに出社していたので、自分でもちょっと気にはなっていたんですよ。でも、まさかそう返されるとは思っていませんでした」

 その場は一瞬、重苦しい空気に包まれたといいます。

実は周囲も感じていた迷惑行為

 そのとき、すぐ前に座っていた男性客から宝田さんを擁護する声が聞こえたそうです。

「いや、それ間違ってないよ。ちょっと香水ふりすぎじゃないか?普通はそんなの出かける前につけるんじゃないの?」

 それに続いて、別の女性乗客が小声で「私もそう思います」とつぶやいたのが聞こえたそうです。

「助け舟が出たというか、なんだかホッとしましたね。
周囲の人たちも不快に思ってたんだなって」

 若い女性はそれ以上言い返すことができず、ふてくされた様子で窓の外を眺めたまま沈黙。そのまま次の停留所で降りていったそうです。

問題解決も残る複雑な思い

 その後、バスの中は平穏を取り戻しましたが、宝田さんの胸中には複雑な思いが残ったといいます。

「自分の体臭のことを指摘されるのって、正直かなりこたえますね。でも、図星だったからこそ何も言えなかったんだと思います」

 その日の帰り道、宝田さんは仕事終わりに、近くのドラッグストアに立ち寄ったそうです。

「デオドラントのコーナーでしばらく悩みましたよ。スプレー、ロールオン、シート……種類が多すぎて(笑)結局、店員さんに相談して、無香料タイプのスプレーと制汗シートを買いました」

 今回の出来事を機に、体臭ケアにも気を配るようになったという宝田さん。

「香水をバスでふりまくのは間違ってると思いますけど、僕も自分の匂いに無頓着だった部分があったのかもしれません。これからは、お互いに配慮しながら過ごしたいですね」

 最後にそう言って笑った宝田さんの顔には、どこかすっきりとした表情が浮かんでいました。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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