ニュースなどで頻繁に取り上げられる「あおり運転」。被害者の精神的苦痛は深刻であり、トラウマにもなりかねない。
自動車損害保険を扱うチューリッヒ保険は、『2023年あおり運転実態調査』を実施。あおり運転をされたことがあるドライバーは53.5%であった。約半数のドライバーが被害経験を持っており、現在も社会問題となっている。今回は、あおり運転に遭遇した人のエピソードを紹介する。
急接近してくる黒いセダン
遠藤曜子さん(仮名・30代)は夏の日の夕方、仕事を終え、自宅に向かって車を走らせていたときのことを話してくれた。「街の喧騒から離れた郊外の道を走っていると、バックミラーに異様な光景が映り込みました」
後方から1台の黒いセダンが急接近してきたのだという。その車は遠藤さんの車に異常なほど近づき、バンパーに触れる寸前の距離で追尾。遠藤さんは「どうしたんだろう」と思いながらも、スピードを少し上げてみたという。しかし、その車はぴったりとついてきたそうだ。
「次第に恐怖心がわき上がり、心臓の鼓動が速くなりました。
その後もあおり運転は続いた。しばらくして、その車はクラクションを執拗に鳴らし始めた。遠藤さんは限界を感じ、最寄りのコンビニの駐車場に避難することに。ウィンカーを出して左折し、駐車スペースに車を止めた。しかし、黒いセダンは遠藤さんの後を追うように同じ駐車場に入ってきたという。
恐怖におびえながら警察に通報すると加害者は慌てて…

「耳を塞ぎたくなるほどの怒鳴り声でしたが、内容は理解できませんでした。ただ、怒りの表情から敵意を感じました」
すぐに「助けを呼ばなければ」と思った遠藤さんは、スマートフォンを取り出して警察に通報した。
「警察に説明する間も、相手の怒鳴り声は続きました。
やがてパトカーのサイレンが聞こえた。あおり運転をしてきたチンピラ風の男は、その音を聞くと慌てて車に戻り、急発進して逃げたそうだ。警察に事情を説明すると、親身になって話を聞いてくれたという。安心した遠藤さんは、警察の指示のもと、ドライブレコーダーの映像を確認し、加害者を特定するための手続きを進めた。
「この経験を通じて、あおり運転の恐怖と危険を実感しました。日常の中で突然巻き込まれる可能性があるので、より一層の警戒と対策が必要だと思いました。自分や他人の安全を守るために、どんな些細な異変も見逃さず、冷静に対応することの大切さを学びました」
後日、「あおり運転をした加害者が逮捕された」と、警察から連絡があったそうだ。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。