イケてるおっさんの正解――自由であること
お笑い芸人として第一線を走る原田泰造は。“おっさん”を演じさせたら右に出る者はいない俳優でもある。齢55にして「体が痛いし、すぐ疲れる」と、おっさんであることを日々痛感しながら、それでも自由に「人生を謳歌」するタイゾーの生き方に迫った。何げに、と言っては失礼かもしれないが、立っているだけで雰囲気がある。お笑い芸人としての顔はもちろんのこと、俳優としての演技力も高く評価される原田泰造。昨年主演を務めた連続ドラマの劇場版『映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』が7月4日より公開中だ。凝り固まった価値観と偏見をアップデートさせていく“おっさん”会社員・誠を、リアルに演じた原田が、原田流の“おっさんたる自由”を語った。
朝起きてから夜寝るまで「おっさんになったな」って、ずーっと感じてる
──ドラマ版に続いて、映画でも銭湯で“おっパン”(おっさんのパンツ姿)を披露していました。原田さん自身はサウナーだけあって、堂々たるおっパン姿でかっこよかったです。原田:ほんと? 誠は自分のなかで普通のおっさんだから、体が引き締まりすぎててもいけない、ある程度の肉もついてなきゃって思ってたんだけどね。
──普段、「かっこよく年を重ねる」うえで意識していることはありますか?
原田:お酒をあまり飲まないから、そういう場所には行かないんだけど、気持ちとしては「モテたい!」と思ってる(笑)。
人間もスマホみたいに、更新されていかなきゃいけない

原田:演じながら「そうだよな」と思うところはたくさんありましたよ。誠と一緒に自分もアップデートしていった感覚。スマホでさ、毎晩のように「アップデートが何個あります」って出てくるでしょ。人間も、ああやって更新されていかなきゃいけないんだろうなと思う。
──違う、というと。
原田:世の中の価値観自体が変わってきているからさ。たとえば僕が若い頃なんて、立ちションとかしてる人なんて普通にいたけど、今はいないよね。
──たしかに。では合わせる合わせないではなく、若い世代に何か感じることは?
原田:今っていわゆる“生意気な若者”が少なくなったでしょ。尖った感じとかがない。
──「オレが一番!」とか?

──(笑)。
原田:そう、ニュータイプ。アムロ・レイが出てきている。今回の映画でも退職代行が登場するけど、誠はそれを最初から受け入れてるからね。逆にすごいよ。もう当たり前なんだなって。ただ、もし僕の時代に退職代行があったら、使いまくってたかもしれない。
過去の言動は、取り消せない

原田:そうだと思うよ。いっぱいあると思う。
──そんな中で、劇場版では、かつて誠のパワハラとも言える言動で退職した元部下と再会し、過去の過ちに苦しみます。
原田:そうなんだよね。
──そうですよね。

──過去とちゃんと向き合う誠は立派です。
原田:ほんと偉いと思う。うちの奥さんなんて、若いときのこともすごく覚えていて、いまだにその熱量で怒れるの。僕は忘れちゃってるんだけど。
──女性のほうが事細かに覚えている人が多いと聞きますね。

──それはなかなかツラい。
原田:たとえば「ハワイの夜景っていいよね」って言ったら、「昔ハワイの夜景を見に行く前にあったあの事件!」と繋げてきたりするの。そういうときはやっぱり、申し訳なかったなと思う。
おっさんは365日、朝から晩まで“痛い”
──今回、「おっさん」代表として主演を務めていますが、原田さん自身、自分がおっさん化しているなと自覚する瞬間はどんなときですか?原田:朝起きた瞬間にわかる。「こんなに年取ったか」みたいなのは、朝起きた瞬間から夜寝るまで、ずーっと感じてる。
──起きた瞬間から(苦笑)。
原田:365日、体調いい日なんて一日もない。びっくりするよ。でもしょうがない。自分の体だから。やっていくしかない。僕ね、“自分がどれだけ老いてるかトーク”が大好きなの。他の人から聞くのも好きだし、自分が言うのも大好き。
──(笑)。では、おっさんはいとおしいですか?

──つまり老化で一番しんどいのは……?
原田:体が痛いところだよね。すぐ疲れちゃうとか。でもさ、おっさんって、肩身が狭いようでいて、実は自由な生き物だから。なんでもできるんだよ、体さえ痛くなかったら。
──悪い面があれば、いい面もある、と。
原田:なんでもありじゃない? おっさんって。どこにでも行けるし、どこにいても平気でしょ。電車で女性専用車両のところにいたらダメだけど、そういうところ以外はどこにだって行けるし、最強だと思う。
──そうなんですね。実際になってみていかがですか?
原田:よかったよ。今、すごく生きやすい。
──おっさんになってみて、抱いている誇りはありますか?
原田:誇り? 誇りなんてものは何もないけど。でも昔、憧れていた部分は、実際にいろんなことができてるし。50歳手前でバイクの免許を取ってみたりさ。全部自由だから、なんか夏休みみたい。
──夏休みですか。
原田:うん。『しゃべくり007』の収録が早く終わったら、4人で1時間半くらい喋りながら歩いて、サウナまで行ったりしてさ。楽しいよ。
世の中とマッチしない、自分の生活を謳歌中
──自由な大人になれたと思いつつ、今の新常識や価値観、社会に狭められていると感じる瞬間はありませんか?原田:ない。今の僕は自由なの。子供たちも大きくなってきたし。いろんなコミュニティに属したり、参加している人は、大変かもしれないけどね。先輩後輩とか、そういった関係もないし。
──同じ「おっさん世代」を見て客観的に感じることは?
原田:楽しく、好きなことに生きるのがいいんじゃないかとは思います。ただ別に、人に「もっと自由にしたほうがいいよ」って勧めるようなタイプでもないから。「僕は今とっても自由だけど、あなたは?」ってだけで、別に「あなたも自由にしたら?」とは思わない。
──なるほど。
原田:僕、朝の6時くらいに寝て、昼の3時くらいに起きる生活をしてるけど、誰にも怒られないの。奥さんは朝型で、僕は夜型。最初の頃は、どこか世の中に対して申し訳ない気持ちがあったけど、今はそんなのもない。なんだろう、世の中とマッチしてないのかもしれない。
──マッチしていないからこそ、自分らしくいられる。
原田:若い頃はさ、地下鉄で通勤している人たちを横目に、自分は遊んで家に帰っていくわけね。それで「ああ、自分は社会不適合者だ」みたいに思ったけど、そういうサイクルをずっと続けていると、「そんなものか」と思って。だから誠みたいな役を演じると、こういう人がいるんだなと頭に入れるんだけど、自分とは全く違うんだよね。
──原田さんは、自由なおっさんですね。
原田:人に推奨はしないけど、自分の生活は謳歌してるよ。

1970年、東京都出身。ネプチューンのメンバーとして活躍しながら俳優としても活動。出演作に、NHK大河ドラマ『篤姫』『龍馬伝』『花燃ゆ』『べらぼう』、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』、NHK特集ドラマ『生理のおじさんとその娘』、『サ道』など
取材・文/望月ふみ 撮影/杉原洋平 ヘアメイク/東まり子 スタイリング/上井大輔(demdem inc.)
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi