今回は、逃げ場のない満員電車のなかで、身勝手な行動に振り回された2人のエピソードを紹介する。
リュックが“ドンッ”…満員電車で何度もぶつけられて
斉藤真理さん(仮名・50代)は、朝の満員電車に乗り、打ち合わせ先に向かっていた。
「吊り革につかまるのもやっとで、バランスをとるために必死でした」
身動きすらとれない混雑のなか、斉藤さんのイライラの原因となったのは、隣に立っていた中年男性の“背中のリュック”だった。
「リュックを背負ったまま乗ってきて、電車が揺れるたびに私の腰や背中に“ドンッ”って当たるんです」
しかもその男性は、スマートフォンに夢中でまったく周囲に気づいていない様子だったという。
「混雑しているときは、リュックを前に抱えるのがマナーじゃないですか……。でも、そんな気配りがまったくありませんでした」
電車がカーブに差しかかると、案の定リュックが大きく傾き、今度は斉藤さんの肩に直撃した。すると、斉藤さんはバランスを崩して、隣の女性にぶつかりそうになった。
さらに追い打ちをかけるように、再度電車が揺れたタイミングでリュックの角が腰骨にぶつかったそうだ。
「“イタっ”って思わず声が出そうになるくらい痛かったです。さすがにもう我慢の限界でした」
「すみません」のひと言で変わった空気
「すみません、リュックが当たっているので……」
斉藤さんは思い切って声をかけた。すると、男性は軽く謝りながら、ようやくリュックを前に抱えたという。
「そのあとは、もう快適でしたね。最初からそうしてくれたら、“なにも言わなくてすんだのに”と思いました」
“朝はみんなに余裕がないからこそ、小さな心遣いが大切なんだ”と、斉藤さんは改めて感じた。
「私も気をつけようと思いました。“お互いさま”の気持ちを忘れずにいたいですね」
びしょ濡れの傘を…なぜ私のカバンに?

「その日は朝から本降りの雨で、靴もカバンもびしょ濡れでした」
あと3駅で職場の最寄り駅につくというタイミングで、なんとか気持ちを保ちながらつり革につかまっていた。そんななか、ずぶ濡れの傘をそのまま持ち、電車に乗り込んできた女性がいたという。
「ほかの人はちゃんと傘をたたんで乗っていたのに、その人だけはズイズイ入ってきて、水滴をポタポタ落としていたんです」
「こっち来ないで……」と願ったのも虚しく、その女性は木村さんのすぐ隣に立ち、なんと傘を木村さんのカバンに引っかけてきたのだ。
「一瞬、なにが起きたのかわからなくて、思わず二度見しました」
「混んでるんだから仕方ないでしょ」たった2駅で気分はどん底に
最初は、「満員だから手が滑っただけかもしれない」と思い、木村さんは少し様子を見ることにした。しかし、次の駅に着いても、まったく傘を持ち直す気配がなかったそうだ。
さすがにイラっとした木村さん。ついに我慢の限界に達し、意を決して声をかけた。
「あの、私のカバンなので傘をかけないでもらえますか?」
すると、返ってきたのは思いもよらない言動だった。
「はぁ? 混んでて狭いんだから仕方ないじゃない、うるさいわね」
女性はそう吐き捨てて、次の駅でさっさと降りていったという。
「え、なにそれ!? って思いました。
たった2駅の出来事だったが、職場についても怒りとモヤモヤは収まらなかった。
「今でもあのやり取りを思い出すとムカムカします。雨の日の満員電車って、本当に人間性が出ますよね」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。