若年層を中心に人気を集めるエナジードリンクが台頭するなか、日本の栄養ドリンク市場で圧倒的な存在感を放ってきたのが「リポビタンD」だ。1962年の発売以来、「ファイト一発!」のキャッチコピーとともに、親から子へ、上司から部下へと受け継がれ、長年にわたって支持され続けてきた。

購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、...の画像はこちら >>
しかし、時代の変化とともに働き方や価値観が変わり、ロングセラー製品に対するニーズも多様化している。

「若者離れ」を防ぐために意識している点や、「ファイト一発!」のような力強さを軸にしつつも新たなユーザー獲得に取り組んでいることについて、大正製薬株式会社 マーケティング本部の藤井 淳さんに話を聞いた。

日常的に疲労回復できる栄養ドリンクとして広まった

購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、エナジードリンク台頭の時代に守り続けているもの
大正製薬株式会社 マーケティング本部の藤井淳さん
近年ではレッドブルやモンスターエナジー、ZONeといったエナジードリンクが若年層を中心に人気を集めている。他方で、働き盛りの世代をターゲットにしたリポビタンDは、日本の栄養ドリンク市場において確固たる地位を築き、主に30代・40代を中心に、50代・60代からも支持され続けている。

藤井さんは、「昔から飲んでいただいているお客さまが、次の世代や周囲の人へ勧めるなど、口コミで広がっているのが大きい」と世代を超えて親しまれている理由を話す。

「高度経済成長期の真っ只中だった1962年にリポビタンDを発売し、その時代の“働く環境”にマッチしたことで、一気にユーザー数が増えたことが成長の要因でした。そこで飲み始めたお客さまが長い期間、飲み続けてくれています。

また、リポビタンDを初めて飲んでいただいた人に理由をお伺いすると、『両親がいつも飲んでいた』『上司になぜいつも飲んでいるかと聞いてみたら自分にもオススメされた』といった声が必ず上がるなど、人から人へ伝わっていくのがリポビタンDの強みだと考えています」(藤井さん、以下同)

さらに、元巨人軍の王貞治氏がちょうど活躍し始めたタイミングで、リポビタンDのCMに出演していたことも認知度を高める要因になったとか。

多くのサラリーマンが昼夜働くなかで、疲れを感じるようになったらリポビタンDを飲むといった習慣が定着し、“日常的に疲労回復できる栄養ドリンク”として広まっていたのだ。

購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、エナジードリンク台頭の時代に守り続けているもの
宍戸開さん、西村和彦さん(1993年)
購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、エナジードリンク台頭の時代に守り続けているもの
ケイン・コスギさん、滝川英治さん(2002年)
「一番有名なところだと、『栄養ドリンクと言えばリポビタンD』というイメージは、やはりあの崖を登る『クライシス』のCMによって築かれてきたと思います。リポビタンDの持つ“力強さ”は、他社には決して譲れない大切なブランドの核となっています。

最近では、チル系やエモさを前面に出したエナジードリンクも増えていますが、リポビタンDに関しては、そうしたトレンドも意識しつつも、あくまで力強さを軸に据えてきました。それこそが、長年にわたり多くの生活者に支持され続けている理由だと考えています」

6割が“箱買い”ユーザー。
頑張る人の勝負どきを支える必須アイテム

購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、エナジードリンク台頭の時代に守り続けているもの
リポビタンD 1ケース(10本入)
リポビタンDは10本入りケースの「箱買い」が全体の約6割を占めているそうだ。意外にも、コンビニなどでの1本単位の購入は全体の3割程度にとどまっているという。

特に北関東や東北といった第1次産業が盛んな地域では、50本単位でまとめて購入されることも珍しくないとのこと。このような傾向からも、肉体労働者から特に強く支持されていることがわかる。

そして、リポビタンDの「ファイト一発!」というメッセージが、ブランドへの強い共感や信頼につながっていて、さまざまな“勝負時”にも飲まれるきっかけを作っている。スポーツであれば、大事な大会や試合の際に、学業であれば大学受験や弁護士試験といったように、「絶対に負けられない場面」で頼りにされてきたからこそ、幅広い層に支持されているのだろう。

だが、海外発のエナジードリンクはエンタメやカルチャーといったシーンと深く結びつき、インパクトのあるマーケティングやプロモーションを通じて、ファンを獲得している。こうした状況のなかで、リポビタンDならではの強みやポジショニングはどこにあるのだろうか。

購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、エナジードリンク台頭の時代に守り続けているもの
大正製薬
「エナジードリンクは『清涼飲料水』に分類されますが、タウリンが配合されているリポビタンDは効果・効能をうたえる『医薬部外品』なのが大きな違いです。疲労回復・予防をはじめとして複数の効能が厚生労働省から認められており、生活者が感じている症状に対して製品のイメージだけでなく、効能を見て自分に合った商品を選ぶことができます。

マーケティング活動に関しては、薬機法のルールをしっかり守るのが前提ですが、『疲労回復の時に飲むもの』『頑張る時に飲むもの』というブランドのコアの部分はぶらさずにシーンを喚起し、時代に合わせて伝え方を変えていくことを意識しています」

11年ぶりに復活した「崖の動画」が大きな反響

直近では、「なぜリポビタンDを飲まない人がいるのか」という問いに対して、さまざまな仮説を立てて検証していると藤井さんは話す。特に若い世代については両親が疲れている時に飲んでいた“茶瓶”のドリンクといった漠然としたイメージだけが残っていて、自分ごと化できていない側面がある。そのため、実際にリポビタンDを飲むシーンを想像できるWeb上のCMを展開している。


「もともとリポビタンDは頑張る人たちを応援する飲み物として発売したので、立ち仕事なら看護師やCA、デスクワークならIT企業の社員やエンジニア。長時間同じ姿勢で働く仕事ならタクシードライバーや配達員など、誰もが共感できる『日常の疲れ』を切り取った動画を制作しています。

また、リポビタンDの象徴となる崖を登るクライシス動画も現代版にアレンジして、今年5月に11年ぶりに復活させました。久々にやってみると、意外にも多くのお客さまから反響があって、あらためて崖を登る動画のインパクトの大きさを実感する施策だったと思っています」

若年層との接点で言えば、ラグビーや野球、ゴルフといったスポーツ文脈から製品に触れるケースも多い。部活動の「差し入れ需要」は昔から根強く、高校生や大学生の頃からリポビタンDに接する機会が生まれることで、若年層の新たなユーザー獲得にもつながっている。そうした経験から、長く飲み続けてくれるケースが多いそうだ。

「疲れが取れない」と感じる人生の転機に寄り添う

購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、エナジードリンク台頭の時代に守り続けているもの
大正製薬
そんななか、リポビタンDは、ライフステージの変化や生活環境の移り変わりによって、「疲れが取れなくなる時に飲み始める」ことが分かっている。具体的にはまず、22歳~24歳の社会人になりたての時期が最初の山となっており、自由な生活を送っていた大学時代から急に規則的な社会人生活に変わり、疲労が蓄積しやすくなることでリポビタンDを手に取る機会が訪れるという。

そして2つ目は、結婚や子育てなどライフイベントが重なる29歳前後の時期。家族中心のスタイルに変化し、思うように休息が取れなくなるため、リポビタンDに頼る人が増えるそうだ。

「そうしたタイミングで頑張りたい時にリポビタンDを飲むことを選択肢に入れてもらえるようなコミュニケーションやキャンペーン活動を行っています。若年層に対しては、剤型を変えてゼリータイプを発売し、気軽に購入いただけるような商品ラインナップを揃えています。また、キャップが固くて空けにくいという声もいただいておりますので、品質は保持しながらキャップを開けやすく改良するなど、細かな改善も進めています」

エナジードリンクやゼリータイプの市場が拡大し、さらには生活者の成分に対するリテラシーが上がっているなかで、いつまでもリポビタンDというブランドを知ってもらうためにゼリー飲料を発売したという。
しかし、藤井さんは「もっと反響があっても良かった」と悔しさをにじませる。

「我々は“茶瓶”に誇りを持っていた部分もあったので、どうしても市場のニーズに合わせた形でゼリータイプの製品を発売できなかった背景があります。もっとタイミングが早ければ、状況も少し違ったとは思いますね。ただ、多くの既存ユーザーの方に支えていただいているのは変わりませんので、そこはしっかりと抑えたうえで、新規ユーザーも獲得できるように創意工夫していこうと考えています」

毎年完売する限定デザインのリポビタンD

購入者の6割が“箱買い”。栄養ドリンクの「リポビタンD」が、エナジードリンク台頭の時代に守り続けているもの
季節限定のリポビタンD クリスマスボトルとバレンタインボトル
製品開発に関しては、毎年いろんなラインナップを展開しているが、シーズナルに合わせた限定品も出しており、それが非常に好評を博していると藤井さんは言う。

「バレンタインボトルやクリスマスボトルといった限定デザインの商品は、2014年から発売していて、現在はオンライン限定で展開しています。どちらも毎年デザインを変えていることもあり、販売開始から早い段階で完売してしまうほどです。特にバレンタインやクリスマス当日を迎える前にはすでに売り切れていることがほとんどで、人気の高い製品となっています」

一方でドリンク剤市場は全体的に縮小傾向にあり、特にコロナ禍以降は働き方や人々の価値観が大きく変化し、無理して残業したり土日も働いたりすることが減ったことで、疲れる機会そのものが減ってきている。

藤井さんはリポビタンDを「軽い疲れ」や「ちょっと気合いを入れたいとき」に気軽に飲める存在であることをもっと伝えていきたいと話す。先述した動画やWeb広告、サンプリングなどを通じて、日常のなかでの新しい飲用シーンを提案していくことで、リアルに疲れている人々にリポビタンDを広めていくそうだ。

時代の変遷とともに多様化するニーズに応えるため、ロングセラー製品の挑戦はこれからも続いていく。

<取材・文・写真(人物)/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。
ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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