―[シリーズ・駅]―

 当初計画していた2030年度末から2038年度末へと、開業が大幅延期となった北海道新幹線の新函館北斗―札幌間。しかも、国土交通省の有識者会議が国に提出した最終報告書では、ここからさらに数年単位で開業時期が遅れる可能性があることも触れている。

 それでも延伸区間の工事はすでに始まっており、新設される延伸区間の新幹線停車駅についても同様だ。38年度末に開業できたとしてもまだずいぶん先のことだが、現在どの程度作業が進んでいるのか、各新駅の建設予定地を巡ってみることにした。

新駅は牧場地帯のど真ん中?

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 最初に訪れたのは、新函館北斗の次の停車駅となる新八雲駅(仮称)。特急停車駅でもある並行在来線の八雲駅は市街地にあるが、新八雲駅はここから約3km西。夏場の東京でこの距離を歩くのは厳しいが、取材に訪れた6月下旬の某日は曇り空で気温もそれほど高くなかった。近くに路線バスも走っていなかったため、歩いて向かうことにした。

 東京23区の約1.5倍の面積を持つ八雲町の人口は、わずか1万4349人(※5月末時点)。20分も歩くとすっかり郊外の景色に変わり、周囲には緑が広がる。

ヒグマ出没のリスクも…開業大幅延期となった「北海道新幹線」の“未完成駅”を巡ってみた
新八雲駅の周辺に商店や飲食店は皆無。民家もごくわずかだ
 ちなみに八雲町は「牧場の中にある駅」というデザインコンセプトの要望書を鉄道・運輸機構に出しているが、新駅の建設予定地はまさにそのイメージを具現化したような場所。

 しかし、新幹線の高架橋や駅の建設用の足場が組み上がっており、大型のクレーンが何台もある。すぐ隣には酪農の畜舎のような建物もあって、コンセプトのままとはいえ、新幹線とのギャップを感じてしまう。

新八雲駅の周辺は「ヒグマ出没」の危険性も…

 しかも、『ひぐまっぷ』という八雲町のヒグマ出没情報をチェックすると、新八雲駅の周辺に出没を示す印が多数入っているのを確認。北海道である以上、こうしたリスクが付きまとうのは仕方のないことだが、建設に従事する作業員にとってはいろんな意味で命懸けだ。

 その後、再び歩いて八雲駅に戻る途中、複数の住民に新八雲駅について尋ねてみたが、地元に新幹線が通ることに対しては概ね歓迎というスタンス。
一方で「新駅が誕生しても利用客は多くなさそう」(70代女性)や「新幹線が通ってもこの辺は観光地じゃないからなぁ」(60代男性)といったネガティブな意見も。

 たしかに、八雲町は大勢の旅行者が訪れるような場所ではなく、延伸開業後すべての新幹線が停車するとは考えにくい。地元は人口減少が進んでおり、住民の利用促進と観光客の誘致が今後の大きな課題になりそうだ。

長万部は延伸開業後の新たな特急始発駅に?

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現在の長万部駅
 次に向かったのは新八雲駅の次の停車駅にあたる長万部(おしゃまんべ)駅。現在の同駅の隣が新幹線駅になるが、6月下旬時点では駅舎部分に足場もなかった。工事が本格的に始まって間もないといった感じで、作業が本格化するのはこれからのようだ。

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長万部の新幹線駅の建設現場
 長万部は東室蘭、苫小牧方面に向かう室蘭本線、ニセコや倶知安、小樽方面に向かう通称“山線”こと函館本線との分岐駅。いわゆる交通の要所だが、長万部町の人口は4769人(※6月末時点)と八雲町の3分の1しかない。

 北海道新幹線の延伸開業後は、長万部が室蘭本線経由札幌行きの特急列車の始発駅となることが予想されている。沿線には洞爺湖や登別といった人気の温泉もあり、新幹線から在来線への乗り換え客が多くなりそうだ。

 そんな長万部は今や各地で駅弁になっている『かにめし』発祥の地。駅構内で販売はされていないが、駅前の『かなや本店』で購入できる。私はここでかにめし弁当を購入し、次の電車を待つ間、駅の待合スペースで食べることに。


 かにめし弁当を食べたのは久々だったが、ほぐしたカニ身と錦糸卵、椎茸煮、酢飯が絶妙なバランスで美味い。何度食べても飽きのこない味だ。延伸開業後は昔のように駅構内で駅弁を購入できるといいのだが……。

倶知安駅で外国人客の姿も

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現在の倶知安駅
 この日は長万部に泊まり、翌朝始発の函館本線山線で向かったのは倶知安(くっちゃん)駅。今や外国人御用達となったスキーリゾートのニセコの玄関口で、長万部のように現在の在来線駅に隣接する形で建設が進んでいる。実際、まだ一部ながら高架駅用の足場が組み上がっていた。

 さらに駅の周辺を歩いていると、ある工事車両の出入口付近にトンネル工事の進捗状況を示す貼り紙を発見。

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トンネル工事の進捗状況を伝える貼り紙
 延伸区間の全17か所のトンネル掘削率は6月時点で85%だそうで、9つのトンネルはすでに掘削済み。思った以上に進んでいる印象だが、残りの部分にメディアで報じられている難所があるのだろう。

 夏場はこの地域にとってはシーズンオフだが、それでも外国人の姿がチラホラ。まだ営業前の早い時間帯だったが飲食店の数も多く、北海道の田舎町らしからぬ活気を感じた。ニセコの外国人バブルはすでに弾けたとの一部報道もあったが、この調子なら新幹線開業後も多くのスキー客が訪れそうだ。

 なお、駅の反対側にある公園『くとさんパーク』からは工事の様子や在来線ホームがよく見える。
跨線橋や自由通路がないため、改札からは回り道しなければならないが、1986年まで使用された転車台が保存されており、鉄道ファンにはオススメの場所だ。

小樽の町はずれにある新小樽駅

 倶知安を離れ、在来線の終点・小樽で路線バスに乗り換えて訪れたのは新小樽駅(仮称)の建設現場。小樽駅から4kmほど南の山間の谷間に位置し、トンネルとトンネルに挟まれた場所に駅が設けられる。

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新小樽駅の建設現場。左は後志自動車道
 工事現場の入口には「新幹線トンネル作業を行っています」と「発破作業を行っています」の大きな貼り紙。一帯は新八雲駅と違ってギリギリ市街地だが、ここから小樽の中心部までの移動はバスかタクシーに頼ることになるだろう。

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トンネルの発破作業を告知する新小樽駅の建設現場入口の貼り紙
 ただでさえ北海道は他の地域よりも運転手不足が深刻で、減便や路線の廃止が相次いでいる。10年以上先の開業になると運転手はさらに不足することは必至で、人員を確保できるのか心配だ。

 高台の高架駅のため、立地的に駅のホームから小樽市街を一望できると期待している人もいるかもしれないが、目の前の高架橋が景観を遮ってしまうのがネックである。これがなければビュースポットになったかもしれないが……。

札幌には全長約1.3kmの屋根付き車両基地を建設中!

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札幌駅の新幹線ホーム付近。在来線ホームから約300m離れている
 そして、最後の札幌駅だが、新幹線ホーム用のスペースを確保するため、駅や隣接する高架部分の拡張工事、駅周辺地域の再開発を以前から行っている。新幹線用のホームは現在の札幌駅の在来線ホームから約300m東に設置される予定で、さらにその先には約1.3kmの屋根で覆った車両基地も建設される。

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札幌の新幹線車両基地の建設現場入口
 完成後、外から眺められないのは残念だが、街のど真ん中に長細い屋根型の新幹線車両基地はここだけ。冬場の積雪量が多い北海道の天候を考慮してのことだと思われるが、そもそも札幌は地上部分を走る地下鉄の一部区間も似たような構造になっており、そこまで違和感はないかもしれない。


 このままだと延伸区間の各駅とも開業よりかなり早い段階で駅舎は完成しそうな気もするが、その状態で何年も開業を待たなければいけないのはもったいない。中国の高速鉄道のように駅舎を造っても未開業のまま放置ということはないと思うが、とにかく1日も早い開業を願うばかりだ。

<TEXT/高島昌俊>

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【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。
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