―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは新宿駅構内で購入した『鶏ごぼう御飯の小箱bento』。
スリムな箱に彩り豊かなおかずが詰め込まれた弁当を、特急あずさの車内で食べてみることに。果たして、お味はいかに?

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孤独のファイナル弁当 vol.04 「鶏ごぼう御飯の小箱bento」

 特急あずさ乗車前に、新宿駅構内で買った弁当。車内で食べ終わってすぐさまパソコンを出してこれを書いている。

「鶏ごぼう御飯の小箱bento」。ちと弁当名が長くねえか? 「小箱」いるのか? アルファベットで「bento」というのも、若者意識しすぎでめんどくせえな。「鶏ごぼう弁当」でよかろう。いや、文句の多い老人になるのはやめよう。嫌われ者になる。

 小箱に小文句を言ったが、正直この弁当のコンパクトさは、ボクが購入に踏み切った一要因だ。箱がスリムでごはんが少なめなのはいい。目的地で何か食べるかもしれないので、これで腹いっぱいにしたくない。というケチな下心に好都合な量だ。


 まず開けて割り箸で鶏ごぼうごはんをひと口食べた。お、まだ温かい。そして、うまい。ごぼう、いい。味付けもやや甘めなれど、濃くなくて好ましい。うんうん♪

 次におかずのメインぽく見える春巻きをかじってみる。……おいしい! まだ皮がパリッとしていて香ばしく、細い春雨の入った具にいろんな風味が混じり深みがある。

 角に入っている桜漬けらしきピンクのやつを食べたら、違う! キャベツだ! キャベツのマリネ。それがまたちゃんとおいしい。この時点で「この弁当にして正解」とたぶんニヤつきながら鼻の穴を広げていた俺。

 ここでコロッケを三分の一食べたら、また驚いた。とうもろこしが現れた! これコーンクリームコロッケだよ。
買う時点では、わかんねーよぉ。うれしい文句。

 しかも、コロッケの横に潰されて見えなかったのだが、ナスとパプリカを炒めたのが一枚ずつチョコマーンと隠れてた。聞いてねぇよお! 芸が細かい。パッケージの表示を見たら「茄子とズッキーニのスイートチリソース」とあった。うは、料理してくれてんじゃんもう。

 感心してさらに目を凝らしたら、隣のレンコンとカボチャの素揚げの下にも何か隠れてる。……なんだ、ポテサラくん、そんなとこにいたのかい! 顔見せてよぉ!

 いやいや驚いた。買った時点でわからなかったものが、あとからあとから出てくる魔法の小箱だ。しかもコロッケもナスズッキーニもポテサラも見た目以上においしい。

 単なる彩り要因かと思ったブロッコリーとパプリカが、歯応え香り甘みスバラシイ。町弁当ではランク特Aではないか。
マジで。

 いや~、おそれいった。見くびっていました。弁当名に文句言ったこと、謝る。このbento、細部までこだわっていて全部予想以上のおいしさ。絶対また買う。今日はこれを書くから飲まなかったが、次は缶ビールも一緒に。

次から次へとこだわりのおかずが飛び出す…『鶏ごぼう御飯の小箱bento』はまるで魔法のよう<人生最後に食べたい弁当は?>/久住昌之
新宿駅で偶然出合ったコンパクトな駅弁。“小箱”という名前に侮るなかれ、食べ進めれば食べ進めるほど、現れる彩り。隠れた実力に舌鼓を打つばかりだ


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など
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