父が創価学会の2世、母がエホバの証人の2世
――みるくまのしっぽさんが育ったご家庭について、聞かせてください。みるくまのしっぽ(以下、みるくま):父が創価学会の2世、母がエホバの証人の2世という家庭で育ちました。父は自身があまり愛情を受けて育っていないこともあってか、子どもに対する愛情が薄い人だったなと振り返って思います。逆に母は、子どもに依存するタイプというか、私を育てるのが生き甲斐のような人でした。
私は物心つく以前より、エホバの証人の集会などに参加していて、そのうち会員になるのも自然な流れでした。対して父は、当初はエホバの証人の信仰に非常に懐疑的で、反対をしていたと思います。ただ、20年以上の結婚生活のなかで、徐々に懐柔されていって、近ごろではエホバの証人を好意的にみていると聞きました。
騎馬戦は不参加。集会では褒められるものの…

みるくま:エホバの証人は、争い事を嫌います。たとえば、運動会での応援合戦や騎馬戦などは、不参加が推奨されています。私も、小学校低学年のときは、学校の先生に「参加しません」と言っていました。これを“証言”と言います。これをすると、エホバの証人の集会などでは「周囲の圧力に屈しないで、ちゃんと証言できて偉い」と評価されます。私も、それが正しいことだと思っていました。しかし学年が進んでいくと、周りの目もありますし、また自分自身も「参加してみたいな」と思うこともあるわけですよね。その葛藤は辛かったですね。
――学校では、“変わったやつ”という立ち位置になってしまいますよね。
みるくま:そうなんです。「なんで参加しないの?」みたいなことを言われるのはしょっちゅうでした。部活動も基本的にしない方針なので、最初のほうは帰宅部でいました。
信仰以外の生き方を知らなかった
――人をいらつかせる態度の根底には、生育歴があるのでしょうか。みるくま:わりと常にオドオドしてしまうからでしょうか。主に母がヒステリックな性格だったこともあって、相手の顔色を伺いすぎる傾向はあるかもしれません。エホバの証人は「愛しているからこそ、我が子にはムチを」という思想が強くて、私も幼いころから布団たたきなどで叩かれて育ちました。
信仰とは別に、父も子どもに対する愛情のかけ方がわからない人なので、「お前が生まれて、邪魔だと思ってる」と言ってきたり、首を絞めるなどの暴力はありました。なるべく人を怒らせないように生きてきたのは関係するかもしれません。
――さまざまな不都合はあれど、成人するまで信仰を続けていますよね。しかし、一度は排斥になったと聞きました。
みるくま:信仰を続けたというよりは、それ以外の生き方を知らなかったと言ったほうが正しいかもしれません。排斥になった原因は複雑なのですが、広くいえば恋愛でしょうか。
――排斥はどのくらい重い処分なんでしょうか。
みるくま:死刑宣告みたいなものですね。会社だと懲戒解雇とかでしょうか。とにかく、本来は家族であっても話しかけるのは厳禁というような処分です。
“排斥後”の両親の反応は…

みるくま:そうですね。ちょうど私が双極性障害を患ったこともあって、例外的に家のなかでケアをしてはくれていましたが、母は事務的な会話のみ受け付ける感じで、父は「どうしてそんなことをしたんだ」と呆れていました。母からは「自分の娘を汚らわしいと思わなければならない親の気持ちがわかるの?」と言われたのを覚えています。
――そこから家出までは、どのような経緯でしょうか。
みるくま:病気療養中、SNSでショート動画をよく見るようになりました。同年代で精神疾患を告白している配信者もいて、「自分の置かれた状況を私も配信してみようかな」と思えました。動画を投稿するようになると、応援してくれる人が増えて、徐々に家庭のことなどを開示していくようになりました。「応援するから、家から逃げたらどうか」と言ってくれる人も多くて、勇気をもらえたので、家を出た感じです。
全財産が60万円しかなかったので、2~3ヶ月は精神障害者用のグループホームに入所し、保育士の資格を持っているので働きながらお金を貯めて、ひとり暮らしをしました。
信仰そのものが悪いとは思っていないが…

みるくま:排斥後、一度エホバに復帰しているので、母の落胆はすごかったと思います。家出後すぐは、まさに鬼電という感じで。また、投稿した動画を見て怒っている旨のLINEが来たりもしました。ただ最近は、「考えてみたらあなたも25歳だもんね」と理解を示してくれるまでにはなりました。一時的に実家にものを取りに行くような関係性にはなっています。
――いま、ご両親や宗教に対して思うことはありますか。
みるくま:私は信仰そのものが悪いとは思っていなくて、宗教の存在意義も肯定的に捉えています。ただ、私のような家庭で育つと、信仰をするかしないかを本人が決めることは困難であり、宗教を中心に生活が回るようになってしまいます。そうなると、外の世界を見たいと思ってもそれを成し遂げるのは不可能に近いと思います。子どもは少なくとも、親と違う道を選択する権利があるんじゃないかな、と私は考えています。
母についても、世の中の基準でいう毒親となってしまうのかもしれませんが、根底にあった愛情は本物だったと思います。神の教えを通して、私を幸せにしたいと本気で考えてくれていたと思います。
翻って、私はいま幸せです。過去には自殺未遂もしましたが、いまは配信を楽しみにしてくれている多くの人たちのおかげで、楽しい毎日が過ごせています。家出という強硬手段ではありましたが、結果的にすべてがうまく噛み合ってきたと思っています。
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その空間でしか通用しないルールであっても、強固に人を縛り、ときに人生を狂わせるものがある。遠く離れていれば一笑に伏せるほどの荒唐無稽なものが、なかにいる誰かの人生に濃い影を落とす。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki