風営法とは、性風俗関連店の営業や、キャバレーやホストクラブ、パチンコ店、ゲームセンターなどの営業に関わってくる法律であり、時代の流れに応じてこまめに改正されていくものです。
……とはいえ、実際問題として今回の改正でどのような変化が生じたのか、イマイチわかっていないのも事実。
そんなわけで、今回は改正風営法について、6月に著書『歌舞伎町弁護士』を上梓した若林翔弁護士(グラディアトル法律事務所・代表弁護士)に、いろいろお話を聞いてみました。
実際に話を聞いてみると、実は改正風営法には意外と誤解されている部分が多いことが判明しました。
風営法改正の目的は
――まず、今回の風営法改正の背景にはどういった目的があるんですか?若林翔弁護士(以下、若林):背景として大きいのは、悪質ホスト問題です。
ホストクラブでの高額支払いや、売掛金(飲食代をホストが一時的に立て替え、後日お客さんがまとめて支払うシステム)によって、立ちんぼやパパ活詐欺などが増加している。そこを規制するのが目的です。
――有名なのは「色恋営業」ですよね。ホストがお客さんに恋愛関係をほのめかして、お金を使わせる方法。
若林:悪質なホストクラブだと、そのあたりをマニュアル化して大勢のお客さんに大金を支払わせていた、という例もあります。
――そういった悪質なお店は、規制されても仕方ないかもしれません。ただ、ホストにお金を使うのは、いわば「推し活」と主張するお客さんもいると思います。推し活の結果、相手から「好きだ」と言われたいというのは、自然な感情だと思うんです。そこを規制しちゃうのは、人間の感情を法律でコントロールするみたいで、違和感があるんですが。
「色恋営業」がすべて規制されたわけではない
若林:たしかに「好きって言ってもらえないなら、ホストクラブに行く意味がない」という意見も聞きます。でも、それは誤解されがちな部分で、実は今回の改正では色恋営業そのものは規制されていないんですよ。規制されたのは、色恋営業のなかでも「お客さんを困惑させて、お金を使わせる行為」です。たとえば「お金を使ってくれないと、もう会えない」と言ったり「ノルマが達成できないと降格しちゃうから、お金を使って」と頼んだりして、お客さんにお金を使わせる行為がNGなんです。
だから、そういう言動をしなければ、実はそこまで厳しい規制ではない、と考えています。
――じゃあ、ホストが女の子に「好きだよ」って言うのはOKだし、女の子が自分の意思でいくら大金を使ってもOK、ってことですか。
若林:OKです。むしろ、ホストのほうがお客さん側から脅される、なんて事案が増えるかもしれません。「私、色恋営業されたからんだから、お金を返して」という感じで。
――じゃあ、ホストも自衛しないといけないですね。愛の言葉をささやくときは録音するとか、LINEを保管しておくとか。「ちょっと待って、録音するから……好きだよ」なんて、雰囲気が台無しですけど。
街から消えた「No.1ホスト」「○億円プレイヤー」の看板
――雰囲気が台無しと言えば、歌舞伎町を歩いているときにホストクラブの看板の文字部分が黒塗りされているのを見かけました。若林:ホストクラブでよく見られた煽り文句、たとえば「ナンバーワンホスト」とか「○億円プレイヤー」といった言葉が規制された影響ですね。
――意外とホストにとっては重要なものだったんですね。それが規制されちゃうとは、ホストもガッカリでしょう。
若林:ただ、これも法律の解釈上では、看板や店内の広告物、設備に今回規制されたような煽り文句を入れるのがNG、と言えるんです。
だから、口頭で「ナンバーワンです」と伝えるとか、名刺に書くとか、ネット上で掲載するとか、そういった場合は規制の対象外、と考えられるんですよ。
――そうなんですか!全面的にダメなのかと思っていました。
若林:ただ、時世的にホストクラブは世間から厳しい目で見られていますので。ホストクラブ側が、自主規制の形で全面的に使わないようにしている状況ですね。状況が落ち着いてくれば、ネット上などでは煽り文句が復活する可能性はあります。
ガールズバーへの影響は
――ホストクラブ以外だと、ガールズバーも施行直後に摘発されていますね。これは警察が「本気だぞ」とアピールしているのでしょうか。若林:それはあるでしょうね。ガールズバーの摘発は、「接待をしているか」が問題になるんですよ。
――摘発のニュースで、店員が「隣に座らず、カウンター越しの接客なら接待にならないと思っていた」と言っていて。実際に私もそう考えていたので、ビックリしました。
若林:どこからを「接待」と考えるかは、非常に難しいんですが。接待を定義で言うと「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と書かれています。
たとえば、普通の居酒屋だとお客さんと店員がカウンター越しに会話することもありますが、あくまでもお客さんは飲食を楽しみに来ていますよね。一方、ガールズバーやコンカフェは、飲食よりも店員と会話したり、カラオケをしたり、が目的でお客さんが来ている。
このように、お客さんがなにを目的に来店しているか、が接待かどうかを見極めるポイント、と考えられます。それなのに「カウンター越しなら大丈夫」みたいな話が、都市伝説的に信じられてしまっているんですよね。
性風俗店からのスカウトバックは全面禁止に
――あと、性風俗店からスカウトへのスカウトバック(紹介した女の子が稼いだお金の一部を、スカウトに還元するシステム)も、今回の改正風営法で規制されました。これはスカウトそのものを規制するのが目的なのでしょうか。若林:それは間違いないです。スカウトバックは反社会的勢力の資金源になる問題や、スカウト会社自体が「トクリュウ」化している問題がありますので。
ただ、スカウトだけでなく、風俗店に女性を紹介して謝礼を受け取ったら、全員が刑事罰の対象になる点に注意が必要です。
ホストが売掛金を払えないお客さんを風俗店に紹介する、または一般人が友人を風俗店に紹介する、どちらも謝礼を支払った時点でアウトです。
メンズエステ罰則強化の影響も
――あと、メンズエステ自体が規制される、と聞きました。若林:メンズエステ自体が、と言うか、性的なサービスをこっそりおこなっているメンズエステ、ですね。
そもそも、性的サービスをおこなっているメンズエステは以前から規制対象なんですよ。ですから正確には、罰則が強化されたってことです。
――そうか、もともと風俗店として認可されているわけじゃないので、違法なんですね。じゃあ、お客さんとして行くのは避けたほうがいいですか?
若林:規制強化でお客さんが捕まるわけじゃないんですけど、別の危険がありますね。施術中にお客さんを誘惑して、触ったら「お触り禁止だ、不同意わいせつ罪だぞ。警察に言われたくなければ金を払え」と脅す、美人局を目的にしている違法メンズエステの相談も増えてきているんです。そういう点では、お客さん側も注意が必要でしょうね。
――しかし、こうやって今回いろいろと説明していただいて、法律に関してはちゃんと専門家に聞かないと誤解したままになってしまう部分が多いんだな、と改めて感じました。
若林:はい。実際、風営法の改正や広告の規制に関しては、ホスト業界にとっては重要な問題ですので。
私の事務所にも経営者の方が相談に来たり、大手グループが幹部や各店の責任者を集めてセミナーを開催して、講師を依頼されたりすることも増えました。そうやって、ナイトワーク業界も自衛をしなければならないのは間違いないですね。
――ナイトワーク業界も、大変ですね。
若林:とくに今回の改正では、ホストは「女の子から大金を騙し取って、立ちんぼや風俗で働かせる悪い奴」という見方をされてしまっています。でも実際には、もともとしっかりと節度を持って、お客さんを楽しませるために真面目に営業しているお店も多いんですよ。
そういうお店のためにも、今回の風営法の改正でナイトワーク業界全体に「しっかり法律について学んで、問題ない経営をしなければならない」と周知されたのは、良いことだと思います。
<取材・文・撮影/蒼樹リュウスケ>
【蒼樹リュウスケ】
単純に「本が好きだから」との理由で出版社に入社。雑誌制作をメインに仕事を続け、なんとなくフリーライターとして独立。「なんか面白ければ、それで良し」をモットーに、興味を持ったことを取材して記事にしながら人生を楽しむタイプのおじさんライター