恋人とのドライブは、本来ならば楽しい時間のはずだ。しかし、運転中に見せる態度が関係の破綻につながることも珍しいことではない。
鈴木莉奈さん(仮名・30代)も、そんな経験をしたひとりだ。
 鈴木さんのそのお相手とは、職場で出会った澤田さん(仮名・30代)。ルックスが良ければ、性格は穏やかな彼とは、交際開始すぐから将来的な結婚も視野に入れていたそうだ。

 ところが、付き合って数カ月が経ったころ、早くも暗雲が立ち込める。何度か車で出かけるうちに、彼の「もうひとつの顔」が見え始めてしまったのだ。

面と向かって「女なんてごまんといる」と言われた…「カスタムし...の画像はこちら >>

荒っぽい運転、暴言…助手席にいるのが苦痛に

「彼はカスタムしたシルビアに乗っていました。最初は『車が好きなんだな』くらいにしか思っていなかったんです。でも、運転席に座った彼は、まるで別人のようになって……。

 とにかく運転がもう荒いんです。急発進して100キロ以上出すこともありましたし、無理な車線変更や、前の車に対する煽り気味の運転も平気でしていました。助手席にいて、本当に怖かったです」

 特に嫌だったのは、運転中の言動だという。

「信号が赤になるたびに舌打ち。前の車に対して『早く行けよ!』とか『そんなところで曲がるなよ』とか。
普段は穏やかな人なのに運転中は攻撃性の塊で、もはや別人でした。

 割り込みしてきた車に怒鳴ったり、罵声を浴びせたり。クラクションを鳴らされようものなら、窓を開けて『うるせえ!』と怒鳴り返す。助手席にいるのが苦痛で仕方ありませんでした」

折衷案のレンタカー代を出してくれず

 鈴木さんは彼に対し、はっきりと「その運転はやめてほしい」と伝えるが……。

「『ごめん、気をつけるよ』とは言ってくれるんですが、ハンドルを握ればすぐに暴言やスピード狂が出てくるんです。私が『運転するよ』と申し出たこともありましたが、『いくら莉奈でも、この車のハンドルは預けられない』と拒否されて。まるで子供のようでしたね」

 話し合いの末、ドライブデートをするときはレンタカーを借りる決まりになる。

「どうしても彼の運転する車に乗りたくなかったので、レンタカーを借り、私が運転するようになったんです。優しい彼だと思っていたのに、『レンタカーを選んだのは莉奈だから』とお金を出してくれませんでした。

 さらには、私が運転しているとかなりの時間を寝て過ごすんですよ。起きたかと思えば、助手席で私の運転にイラついた態度を見せたり。負担が募り、だんだんと会う機会が減っていきました」

スピード違反で捕まり、潮時を悟る

 鈴木さんの様子に危機感を覚えたのか、澤田さんは「もう、荒い運転はやめる」と宣言。

「それで久しぶりに彼の車に乗ってみることにしたんです。最初は以前より落ち着いた運転に見えたのですが……。
運転する姿が、楽しそうに見えないというか、いかにも不服そうな感じで。しかもとうとう耐えきれなくなったのか、それまでと変わらない危険運転を始め、挙句にスピード違反で警察に捕まりました。

 点数稼ぎだと憤れるような速度超過では到底済んでいないのに、警察相手にものすごい剣幕で抗議までする始末には、『この人はもう変わらないし、これが本性なんだろうな』と強く感じ、潮時を悟りました」

 運転以外の難はないどころか上玉で、しかも同僚の彼。鈴木さんの決断は容易でなかったはずだが、その理由をこう語る。

「もし結婚して毎日一緒にいたら、運転中だけじゃなく、いろんな場面であの攻撃的な一面が出てくるんじゃないかと思うようになってしまって。モラハラな人って、外面だけはいいって言うじゃないですか。そう思うと、これまで優しさだと思っていた部分さえも怖くなってしまいました」

「女なんてごまんといる」と吐き捨て…

 別れを切り出した際、彼の態度はまさに運転中と同じだったという。

「『運転スタイルが気に入らないとか、こっちから余裕で願い下げ。女なんてごまんといるのに勘違いすんじゃねえよ』と、考えられないような暴言を吐かれました。まるで、運転中に見せていたあの荒い口調そのまま。最後の最後に、彼の真の姿を見た気がしました」

 普段はいたって穏やかなのに、運転となると豹変――。そんな人は少なからず存在するが、こち亀の本田のように天才的技術を伴っていてもなお、フィクションだから笑えるもの。


 命を握られている現実では、どんな“ハイスペ”であっても願い下げであろう。

<TEXT/佐藤俊治>

【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など
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