地域の夏祭りを“フェス”と勘違い?
夏祭りといえば、それぞれの地域の文化・風習が反映され、先祖供養や疫病退散などの意味が込められている場合も。また、地元の老若男女が交流する場でもある。そこに突然、外国人観光客のグループが現れたら……。吉田祐樹さん(仮名)は、子どもを連れて四国某所の夏祭りを訪れた。会場では、子ども向けの縁日がならび、地元中学生によるダンス発表などの和やかなイベントが行われていた。
かき氷を買って一息ついていると、少し離れた場所に外国人観光客のグループがいるのが目に入ったという。
「5~6人の若い男性たちで、見た目は20~30代くらい。酔っ払っていてテンションが高く、周囲からは浮いている様子でした」
最初は外国人観光客たちが純粋に楽しんでいるだけだろうと思っていた。だが、状況は急変する。
「その中のひとりが、大通りの真ん中でBluetoothスピーカーから大音量で洋楽を流し始め、他のメンバーも踊り出したんです」
音楽はどんどんボリュームアップ。周囲の声が聞こえないほどの大きさになっていった。
“フェス”さながらである。
グループの一人が手に缶チューハイを持ったまま、おぼつかない足取りでフラフラと歩いていた。そして、人通りの多い道路に向かって唾を吐き捨てたのだ。
「近くにいた子どもたちがそれを見て『うわっ!』と顔をしかめ、保護者たちもすぐに子どもをそばに引き寄せていました」
吉田さんはその様子を見守っていたが、周囲の人々が明らかに困惑しているのが伝わってきたという。
「和やかな雰囲気が台無しに」
最終的には地域の夏祭りの雰囲気を乱す行為に、警備員が介入することになった。「英語で何やら注意をしていました。音楽は止められ、外国人たちは何か言い返そうとしながらもも、周囲の冷たい視線に気づいたのか、スピーカーをしまってお祭り会場の外へ移動していきました」
一時的に乱された夏祭りの雰囲気は元に戻った。しかし、この出来事は吉田さんに強い印象を残した。
「和やかな雰囲気が台無しでした。地域の夏祭りの中で彼らの“異質なノリ”が、残念ながらワル目立ちしてしまった。外国人だからといって一方的に責めたくはありませんが、日本のお祭りの文化をあまり知らないままに来てしまうと、場を乱すこともあるのだと実感しましたね」
試食を「まるでビュッフェのような感覚で食べ尽くす」

「小さな佃煮屋さんや和菓子屋さんが並び、いくつかの店では試食も提供されていました」
商店街を歩いていると、ふと目に入ったのは和風のみやげ屋の前で試食に夢中になっている外国人観光客の姿だった。東南アジア系と思われる若い男女2人組は、ひと口サイズにカットされた商品を何度も何度も取っては食べていた。
「まるで『おかわり自由』のビュッフェのような感覚で楽しんでいる様子でした」
試食はあくまで“お試し”である。食べ放題ではない。
加藤さん夫妻は、一度その前を通り過ぎ、他の店を見て回った。約15分後に同じ場所を通りかかると、驚いたことにその2人はまだ同じように試食を続けていたという。
さすがに店員も困った表情で対応していた。
「店員さんが『No more eating, please』と何度も伝えているのが聞こえてきました」
しかし、2人は聞く耳を持たない様子。そこで登場したのが、店長と思われる落ち着いた雰囲気の年配男性だった。彼は言葉ではなく、“行動”で対処する方法を選んだ。
「無言で店の奥から“とっておき”の試食品を取り出して手渡しました。それは真っ赤な梅干し。見た目からして強烈な酸っぱさが想像できました」
好奇心いっぱいに梅干しを2つ口に運んだ外国人男性の反応は劇的だった。
「次の瞬間、まるで漫画のようにバタバタと悶えはじめて。
商店街に響いた拍手
これは商店街の人たちにとってはもちろん、日本人の観光客にも強烈な出来事だったようだ。「そこに居合わせた人たちが一斉に拍手し、ちょっとした一体感が生まれました。私たち夫婦も『あの梅干し、絶対に強烈なやつだったね』『店長さん、かっこよかったね』って。
外国から来た人にとって、日本の試食の文化は珍しく、つい無邪気になってしまう気持ちも分かります。ただ、それでも『限度』や『節度』が大切だと思いますね」
——文化や風習の違う土地を訪れてテンションが上がってしまうのはわかる。外国人観光客と地元の人々、お互いが気持ちよく過ごせるように早くなってほしいものだ。
<文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo