起業塾業界では契約書を交わさないことが多い!?
宮子氏のもとには、トラブルを抱えた1人社長や個人事業主からたくさんの相談が寄せられるという。「起業塾で多いのは、情報管理体制がないことに加えて、個人情報の重要性を認識していないことから発生する顧客リストの漏洩やノウハウの流出、契約書の知識がないことから発生する顧客とのトラブルです」
こうしたトラブルは、「起業塾業界ならでは“あるある”によって引き起こされている」と警鐘を鳴らす。
「一般的な考えでは理解できないと思いますが、起業塾業界では契約書を交わさないことが多い。特定商取引法(特商法)が年々厳しくなっている今、訴えられるケースも増えています」
信じていた教え子に裏切られて…
宮子氏が解決した事例をもとに、実際に起こったトラブルを見ていこう。まずは、講座販売で年商4500万円を記録した1人社長Aさん(30代・男性)のケース。「彼は、優秀な教え子と契約書を交わさないまま、起業塾の講師として雇っていました。信頼している人間とはいえ、口約束で仕事を依頼するのは危険なのですが、起業塾の業界では成果を出している教え子ときちんとした契約を結ばずに組むのは“あるある”なんです。先生の講座に手を加えて、新たな講座を売ることも許されていますが、Aさんの教え子はやりすぎた。
教え子が顧客情報を流出させたことで、Aさんのもとに顧客からクレームが入るようになりました。さらに調べてみると、Aさんの名前を使い、Aさんの講座をそのまま販売していたことがわかりました。Aさんは『“業界あるある”といってもさすがにひどすぎる』と私のところに相談にきましたが、教え子がしたことははっきり言って違法ですよ」
Aさんと教え子はのちに和解。今は暖簾分けという形で、教え子はAさんに使用料を支払い、講座を販売しているという。
「Aさんは、個人情報を管理するためのルールを作成したうえで、個人情報はまるごと当社で管理することに。外注する講師等への契約書も作成、締結を義務化し、情報漏洩の防止に努めています。
契約書を嫌がる顧客に対応した結果…

「彼女は先生がちゃんとした方だったので、当初は契約書を作成していました。ですが、起業塾の顧客の中には、契約書を交わしたがらない人も多い。普通なら安心するはずなのに、『騙されるのではないか』と逆に不安になってしまうんです。言葉は悪いですが、リテラシーが低い顧客が多いと思います」
嫌がる顧客が多かったことからBさんは申込書だけで講座を販売するようになるが、これが悪夢の始まりだった。受講の敷居が低くなり、顧客が増えたことで質の低下を招き、トラブルに発展したという。
「個人客を相手にする場合、特商法に準拠した契約を締結していないと、顧客に訴えられたら負けます。今の時代、調べれば簡単に違法だから解約してもらえるとわかるので、クレームがきたらすぐに返金するのが鉄則ですが、複数の顧客に高額な商品を販売していて返金額が膨らむと、自己破産したほうがいいケースも……。
Bさんは返金対応で事なきを得ましたが、当社が顧客の選定基準、契約書を作成したことで、『いい顧客が増えたのでストレスなく仕事ができるようになった』『トラブル対応なくなり仕事に集中できるようになった』と明るい顔で話していました」
華やかな面ばかりが取りざたされがちな「起業」だが、実は無数のトラブルが日々起こっているようである。
【黒田知道】