今回は、満員電車で出会った“自分勝手すぎる乗客”にモヤモヤしたという2人のエピソードを紹介する。
通勤電車に“アトラクションのノリ”で乗ってくるのはやめてほしい
「満員電車って、ほんと過酷ですよね。毎朝ぎゅうぎゅう詰めで通勤していたんですけど、ある日、とんでもない光景に出くわしたんです」佐伯真理さん(仮名・40代)は、電車のドア付近に立っていた。車内は相変わらずの混雑。誰もが満員電車に耐えていたところへ、2人の若者が視界に飛び込んできたという。
「スーツケース、しかも2人分……。正直、“やめて、こないで”って思いました」
明らかに旅行中の2人は、大きなスーツケースにリュックをもち、笑顔を浮かべながら会話をしていた。そして、電車のなかへなだれ込んできたのだ。
「私は足の指で立っているような状況でした。車内の空気が一気に変わりましたね」
スーツケースとリュックで2.5人分のスペースは迷惑
「背負ったリュックは下ろさないし、スーツケースのストッパーもかけていなくて、電車が揺れるたびに当たっていました」2人は周囲を気にする素振りもなく、ドア付近をふさいだままだったという。
「しかも、降りるときに『満員電車やばーい、絶対ムリー』って笑いながら言っていたんです。いやいや、“こっちがムリだわ”って思いました」
あまりの非常識さに、佐伯さんは“せめてリュックは背負わずに、スーツケースの上に置いて!”、“混雑しているんだから号車をわけて乗って!”など、その場でマナーについて説教したい気持ちが抑えられなかったそうだ。
「スーツケースをもって電車に乗ることだって、もちろん自由です。
まるで観光スポットのアトラクション。楽し気に笑い合う姿を見て、心のなかで“そのテンションで乗り込まれたこっちの気持ちも考えて”と思ったという佐伯さん。
満員電車におけるほんのわずかな心遣いが、誰かの1日を左右する。公共の場において、あらためて考えさせられる出来事だったようだ。
沈黙の車内に鳴り響く“推しの歌声”

「降りる駅まであと30分ぐらいありました」
そんなとき、背後から聞き慣れた高音の音楽が響いてきたという。それは、男性のイヤホンから漏れている音だったようだ。
聞き慣れたリズムにピンときた田中さんは、思わず振り返った。スーツを着た中年男性が立っており、スマートフォンを見つめながら小さく身体を揺らしていたのだ。
「もうライブ状態でした。“ここは、山手線の車内だよ”って言いたくなりましたね」
男性は自分だけの世界に没入しており、楽しげにビートを刻み続けていた。
音漏れ以上に、誰も注意できない空気がつらかった
田中さんの苛立ちは徐々に高まっていったという。前に立つ女性は眉尻を下げ、向かいの学生は視線を投げるのだが、誰もなにも言えなかった。「注意したいけど、面倒なことになったらイヤだなって、みんなが思っていたようです」
朝の電車内には、“誰もが我慢している空気”が漂っている。そんな微妙な空気のなかで、自分の推し活だけを全開にしている男性の姿は、どうしても目に入ってしまった。
「音楽を聴くなって言っているわけではありません。でも、ここは山手線の電車内で、全員が我慢しています」
男性は、音楽に没入したまま、何事もなかったように電車を降りていった。車内には、まだ微かに“あの旋律”が残っていたそうだ。
「“あー、やっと終わった”と思いました」
しかし、心に残ったのは、「誰も注意できなかった沈黙の重さだった」と田中さんは振り返った。
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。