あえてゲームに“縛り”を課してプレイすることを「縛りプレイ」と呼ぶ。ポケモンにも「縛りプレイ」文化が存在するのだ。「リセット禁止」「ドーピング禁止」「ポケモン1匹で全クリア」というプレイスタイルを10年以上続けてきた実況者が、rasiaさん(@rasiadayo)だ。
初代作品にも登場しているむしポケモン・スピアーの“1匹縛り動画”で話題になったrasiaさんだが、なぜあえて縛りを課すのか? その背景と、縛りプレイをしたからこそ分かった、ポケモンの魅力をうかがった。
投稿歴は10年以上。はじまりはニコ動から
──まずは簡単に自己紹介をお願いします。rasiaさん:大学入学と同時にニコニコ動画で投稿を開始し、スピアーの人と呼ばれて活動していました。「古の実況者と関わりたい!」という半ば邪な(笑)動機で動画投稿を始めましたが、残念ながら特に関われることはありませんでした。現在はYouTubeに場所を移し、主にポケモンの縛りプレイのゆっくり実況プレイ動画を投稿しています。2012年ごろから始めたので、かれこれ10年以上、投稿を続けています。
──はじめはニコニコ動画からの活動でしたが、YouTubeに拠点を移したきっかけは?
rasiaさん:当時のニコ動って「動画でお金を稼ぐ=悪」みたいな風潮があったんです。
YouTubeに移るまでには紆余曲折が
──なるほど。では、モチベーションの高い媒体で頑張りたい!というのがYouTubeに移ったきっかけでもあった?rasiaさん:いや、実はそれだけじゃないんです。もともとニコニコ動画に投稿していた動画が、ある日YouTubeを見たらモロッコ人に無断転載されていて(笑)。しかも自分の元動画より伸びて、広告まで入っていたんです。それで削除をお願いしたところ、モロッコ人から「もう二度と転載しないから見逃してください」と言われて、「何言ってんだこいつ」と思って(笑)。そのまま拒否して削除申請をしました。
──普通にとばっちりですね(笑)。その後は無事、削除申請は通りましたか?
rasiaさん:いえ、そしたら今度は向こうに「私が本人です」と主張されたんです。加えて、ゆっくり実況だから自分の声じゃないので、証明するすべもなく。
“スピアー1匹”で攻略したときは「ギリギリ100回死んでない」

rasiaさん:私は強いと思っていますが、誠に遺憾ながら世間一般的にはあまり強くないという評価になっていますね。。ただ、小学生のころから、なぜか好きだったんです。ビジュアルが好きでずっと使っていました。自分の中では一貫して「かっこいいポケモン」でしたね。中二心をくすぐる良いデザインをしていると思います。
──実際に、「スピアー1匹縛り」ではどんなルールを設けたのでしょう?
rasiaさん:「スピアー1匹でストーリーをクリアすること」「リセットは禁止」「プラスパワーなどのドーピングアイテム禁止」といった感じで、自分なりの縛りルールを設定しています。秘伝要員(ポケモンにおけるひでん技をたくさん覚えられる種族。ゲームを進めるうえでのフィールド攻略要員)はOKですが、戦闘には出しません。
──クリアまで何回くらいやり直したんですか?
rasiaさん:ギリギリ100回死んでない……くらいですかね。どうだろう。死んでるかもしれないですが(笑)。プレイに一生懸命であんまり数えたこと無いです(笑)。
ほんの数人でも反応が来るのが楽しかった
──最初から、戦略的に縛りのルールを設けていたんですか?rasiaさん:いえ、そこまでガチガチには縛ってないので、比較的同じ実況者の中でも緩い方かもしれないです。私が楽しいと思えるラインで縛っているだけです。当時は300回くらいしか再生されなかったんですが、ほんの数人でもユーザーから反応が来るのがすごく楽しくて。なんのプレッシャーもなく投稿を続けられました。
──やはりチャンネルが伸びるきっかけになったのはスピアー1匹縛りでしたか?
rasiaさん:そうですね。ただ、いきなりバズったというより、じわじわランキングに入ってきて、いつの間にか再生数が一番伸びていたという感じでした。あと、同じ時期に別の投稿者の方が『アンノーン1匹で全クリ』という動画を出してすごく伸びていたんです。ただ、パート2で何故か打ち切りになり、そのあとにちょうど自分の『スピアー1匹縛り』の動画が出たので、もしかしたらタイミングが良かったのかもしれないです。
レベル100でも全然勝てないポケモンは…
──スピアー1匹縛り以外にもエビワラーやむしポケモン縛りなどたくさんの種類で挑戦されています。ご自身の中で、一番きつかった動画って何ですか?rasiaさん:「デリバード1匹のプレゼント縛り」ですね。デリバードは「プレゼント」という技しか基本的に使わないんですが、行動ごとにその内容が変わる、非常にランダムな技なんです。うまく当たれば強い火力で殴れるんですが、相手を回復させてしまったり、全然当たらなかったりで、何なんだこれって感じでした。もう前に進んでるんだか進んでないんだかわからないっていう(笑)。
──ぶっちゃけプレイの上手い下手というより、運ゲーに近い感じじゃないですか…?
rasiaさん:はい。運ゲーです。テクニック云々じゃなく、土下座しながら祈ってボタンに念を込めるくらいしかやることがないんですよ(笑)。最大火力を全弾必中させるためには、10%くらいの確率を5~6回連続で引かなければいけません。相性が悪い相手の場合はその4~5倍かかることもあります。あと一発で倒せる! というところまで追い込んでも何度回復されたか分からないです(笑)。
──それこそ、やり直した回数もすごかったのでは?
rasiaさん:すべての動画の中で一番やり直しました。負けまくった相手の仕草を覚えてしまい、戦闘が開始するまでのすべての行動に難癖をつけていました。
縛ることで見える、ポケモンの「意外な顔」
──最後に、ポケモンの縛りプレイを続けるうえでの楽しさを教えてほしいです。rasiaさん:縛りプレイに関しては、やることがなくなって、それでも極めたくなったらやってみてほしいです。でも、おすすめはしないですね(笑)。ただやはり、「このポケモンにはこんな戦い方があるんだ!」と気づけるところが、ポケモンの縛りプレイをやっていて良い部分です。ポケモンって1000種類以上いますし、メジャーどころではないポケモンはたくさんいると思います。
──確かに、最近のゲームだととくに「Tier表の上位を育てるべき!」みたいな風潮もありますよね。
rasiaさん:あまり話題にならないポケモンたちにも、各々の見せ場はあると思うんです。意外な強さだったり、「お前ひこうタイプなのにひこう技覚えないんかい!」みたいな発見もあったり(笑)。そういう魅力を掘り出すのが楽しいし、これからもいろんなポケモンで縛りプレイを続けていきたいですね。
<取材・文/FM中西>
【FM中西】
広告・ゲーム・出版を経て、現在はフリーの編集・ライターに。アニメ/ゲーム/アングラ等、ポップorサブカルチャーを浴びていたい。最近の目標は早起きと減量。友人とともに『ぽぷかる研究所』を細々と運営中