20年のセクシー女優経験を通して、業界のさまざまな変化を実際に体感してきた翔田さんが、現在の業界について思うことを語ってくれました。
数回の休暇・引退と復活を繰り返して、活動20年
――今年でセクシー女優活動20周年の翔田さんですが、これまでに何度か活動休止や引退からの復帰もしていますよね。翔田千里(以下 翔田):はい。最初はデビューから2年目の2007年末で、一度休止しました。デビュー以来さまざまなお仕事をいただいて、いろいろな女性を演じて、挑戦して。
最終的に自分からハードSM作品を志願して出演したんです。そこで「やりたかったことはやりきっちゃった」と、燃え尽き症候群になってしまいました。
――一気にいろいろな活動をして、疲れてしまったんですかね。
翔田:それから2010年、今度は子宮の病気が見つかって、映像の仕事は引退。2011年に復帰して、次は2015年にセクシー女優としての活動は完全引退しました。
でも2017年に復帰して、それからずっと活動しています。結局、今が一番セクシー女優として長く活動し続けていますね(笑)。
エキストラに転身も、元セクシー女優の肩書が足枷に

翔田:最初は「しゅう」という名前で、撮影会のモデルをしていたんです。でも仕事があまりなくて、結局セクシー女優としてデビューする前に働いていた人材派遣会社で契約社員になりました。それと並行して、エキストラの事務所に入って活動を。
――エキストラとしては、どんな活動を。
翔田:MVやワイドショーなど、4~5本くらいは出演しましたね。でもバッグの広告をやったら、視聴者から「これは翔田じゃないか」って問い合わせが来てしまって。
広告って、コンプライアンスが厳しいんですよ。それで「どういうことだ」ってなって、結局おろされたんです。違約金などはなかったんですが、それでエキストラ事務所も辞めました。
――やっぱり、元セクシー女優が一般的な表舞台に出るのは、反対があったと。
翔田:そうですね。私も心のどこかで自分を「日陰の人間」だと思っているので、会社には「迷惑かけちゃったな」って。それと同時に「日の当たるところでは、働けないんだな」とも思ったので、エキストラを辞めたんです。
でも、実はずっとエキストラをやってみたかったんですよ。だから短い間でも、夢が叶って良かったと思っています(笑)。
AV新法について思うこと

翔田:もう施行から3年経って、業界には根付いてはきましたね。
契約書があるから、撮影でどんなプレイをするのか、などはわかりやすくなりました。あと、撮影が契約から1ヶ月後になるのは、スケジュールが組みやすいので個人的にはうれしいです。
――逆に、良くないなと思う部分はあります?
翔田:メーカーではない、個人が撮影して勝手に販売している映像と、メーカーがルールを守って撮影している映像が同じに見られているのは、違和感がありますね。
――たしかに、今までAV新法で逮捕されているのは、個人の撮影者ばかりですしね。
AVの“もの作りとしての魅力”が失われた
翔田:出演者としては、撮影が段取りで進むようになった点。契約書に書いてある以上のことはやらず、台本通りに撮影していくので、もの作りとしての楽しさは失われてしまいました。新法前の現場では、その場で臨機応変に内容を変えたり、アドリブを入れたり、みんなで「作品を作っている」感覚があったんですよ。それがなくなったのは寂しいですね。
――今は、決められた内容を淡々と撮影している感じですか。
翔田:監督さんと女優さんの無駄話すらありませんね。シーンとしていて、ただ映像を記録するために撮影している、みたいな。なんか「刑務所みたいだな」って感じちゃう現場もあります(笑)。
――昔の業界は、自由なところが良かったって話も聞きますしね。
翔田:AV新法ができて、業界の問題点がだいぶ見えてきたのは、良いことだと思います。
「私はこの20年間、すごく守ってもらっていたんだな」「とても良い環境で仕事していたんだな」と、気付けました。
セクシー女優自身が自分で考えて活動できるようになるべき

翔田:女優と事務所の関係もそうですね。今は「事務所の言うことは絶対」って考えている女優も多いんですけど、その意識が変わっていけばいい、と思います。
事務所が全面的に悪いってわけじゃないですよ。ただ、現在はメーカーさんと出演者が契約して、事務所はエージェントとして、出演者から業務を委託されているって形なんです。だから女優側も、出演料の取り分について事務所と交渉する、くらいはしてもいいんですよ。
あと「事務所を移籍したら名前を変えなきゃならない」みたいな、よくわからないルールもなくなればいいし。5年後くらいには、女優の意識もそのくらい変わっていてくれればいいな、と思います。
――実際、移籍後も改名しなかった女優さんもいますからね。
翔田:もちろん、女優は事務所の言うことを聞かなくていいってことじゃありませんよ。
「還暦・翔田千里」として撮影するのが目標

翔田:でも私、この業界には絶対に長くいるものではない、と思っているんですよね。20年もいる私が言うことじゃないんですが(笑)。
とくに今は「有名になりたい」という理由で入ってくる子も多いですけれど、この業界で有名になっても、いいことはないですよ。結局、有名になると、セカンドキャリアがうまくいかなくなることもありますしね。
――それは少し意外な意見です。そういえば、翔田さんは昨年6月に「2025年の夏に引退」と表明していましたが、結局撤回しましたよね。それはなぜですか?
翔田:いや、本当は今でも辞めたいんですよ、少なくとも撮影は(笑)。
求められるものが35歳のときから変わらないんですけど、もう体力も落ちてきていますし、あんまりヨロヨロしているような姿を皆さんに見せるのもな、と思って。もう閉経していて、女性としての機能も当時とは違っていますし。
でも、新しく60代の方がうちの事務所に入ってきたり、同年代の女優さんが「まだ出演したい」と話すのを聞いたりしていたら「私は55歳で、なんで辞めようとしたんだろう。
――たしかに、今は50代や60代で活躍する女優さんも増えましたよね。
翔田:同年代の人たちが頑張っているのに、かっこつけることもないか、と。あまりプレッシャーに感じることもないのかな、と思いました。
それに引退したとしても、60歳になったら「還暦・翔田千里」で1本撮影してほしいと思っていたので。だったらあと5年くらい、業界にいてもいいかな、と思ったのが引退撤回の理由ですね。
――ファンからすれば、とてもうれしいことですよ。
翔田:とりあえず還暦作品を目標にして、その後のことはそれから考えようか、と。とりあえず今を頑張ろうと思っています。今をどう過ごすかが、未来を作るもとになるので。
還暦になってからも「まだいけるじゃん」ってなったら、またそこから1年ずつ更新していけばいいのかな、と。だから、今後は自分から「辞める」と言うのはもうやめよう、と思いました。
<取材・文/蒼樹リュウスケ 写真/杉原洋平>
【蒼樹リュウスケ】
単純に「本が好きだから」との理由で出版社に入社。雑誌制作をメインに仕事を続け、なんとなくフリーライターとして独立。「なんか面白ければ、それで良し」をモットーに、興味を持ったことを取材して記事にしながら人生を楽しむタイプのおじさんライター