今、全国各地では外国人観光客による“マナー違反”が問題となっている。日本と海外では常識が異なる。
外国人観光客にとっては、そもそもマナー違反だという認識がない行動も多い。
 しかし、そんな外国人観光客のマナー違反と直面した際に、日本人の“気質”として何もできなかったりするだろう……。

公園にゴミを放置するカップル

電車で外国人観光客のスーツケースが女性の足に直撃…「大丈夫で...の画像はこちら >>
 高橋ゆいさん(仮名)が北海道の自然豊かな公園で目撃したのは、一見何でもないようで、考えさせられる光景だったという。

「平日のお昼頃、観光客の多い公園に外国人カップルがテイクアウトで昼ごはんを食べていました。食べ終わると、彼らはそのままどこかへ歩いて行ってしまい、ベンチにはゴミとスマホが残されていたんです」

 高橋さんが見守るなか、ほどなくして年配の清掃員が巡回してきた。彼はベンチに近づくと、無言のまま置き去りにされたゴミを丁寧に片付け、スマホも回収した。

「清掃員さんは、何も言わずに目の前の状況を受け入れるような感じでした」

 約10分後、スマホを忘れたことに気づいたカップルが慌てた様子で戻ってきた。高橋さんは英語で声をかけたという。

「あなたたち、スマホを忘れたでしょ? あそこにいるスタッフがゴミを片付けてくれて、スマホも預かっているよ」

外国人観光客のマナー違反を指摘できない日本人

 高橋さんは、さりげなくゴミのことにも触れた。しかし……。

 カップルは「なんて親切なんだ、ありがとう」と言って清掃員に駆け寄り、スマホを受け取った。おじぎをして感謝の意を表したが、清掃員はゴミについては何も言わなかったという。

「ゴミを置き去りする外国人観光客と、それを指摘せず静かに処理する日本人。その対比になんとも言えない感情を覚えました。
そもそもゴミのポイ捨てがマナー違反という意識すらないのかもしれません」

 多くの日本人は、他人のマナー違反を目にしても直接注意せず、沈黙を選ぶ傾向がある。そこには、“モヤモヤ”だけが残されるのだ。

電車内を転がるスーツケース

電車で外国人観光客のスーツケースが女性の足に直撃…「大丈夫ですよ」と何も言わない様子にモヤモヤ
スーツケースを持つ外国人観光客の姿
 武田勇人さん(仮名)が電車に乗っていた時の出来事だ。

 大きなスーツケースを持った外国人カップルが乗り込んできた。2人は楽しそうに会話を続ける。スーツケースを通路に置いたまま、気にする様子もない。

 電車が揺れるたびにスーツケースもゴロゴロと動き、周囲の乗客たちは黙って体を寄せ合って避けていた。

「日本人はたいていの場合、口論やトラブルになるのを避けるため、相手が自分で気づくのを待ちますよね」

 周囲の乗客は、不満を抱えながらも指摘することはなく、「もしかしてスーツケースが邪魔になっているのかな?」と察してもらえることを期待していたのだろう。

 だが、その後もカップルは会話に夢中だった。

女性の足に直撃するも「大丈夫ですよ」

 ついにスーツケースが座っていた女性の足元に当たってしまった。

「女性は『痛っ』という小さな声をあげましたが、すぐに『大丈夫ですよ……』と微笑み、何事もなかったかのように振る舞いました」

 ああ、本当にそれでいいのだろうか。なんだか、胸に引っかかるものがある——。

 その瞬間、一人の若い男性が席から立ち上がった。
そして、スーツケースを自分のスペースに引き寄せたのだ。

 スーツケースの持ち主であるカップルは、「Oh, thank you so much!」と驚きの声をあげた。カップルは、ようやく状況を理解したようだ。自分のリュックを前に抱き抱えて、スーツケースを近くに寄せるという配慮を見せた。

 外国人カップルは日本語で「ありがとう」と何度も言いながら、笑顔で電車を降りていった。

 日本人は周囲の空気を読み、察するものだ。しかし、それを外国人観光客にも期待するのは正直難しい部分があるかもしれない。

 インバウンド需要に沸く一方で、まだまだ課題は山積みである。

<文/藤山ムツキ>

【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。
X(旧Twitter):@gold_gogogo
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