―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

2025年7月の参院選で参政党が躍進した。その後、8月に入っても話題を集め、新興政党としての勢いは止まらない。
「日本人ファースト」など過激に思える主張とその勢いを支持しているのはロスジェネ世代とも言われ、今まで見捨てられた人たちとの報道もある。なぜこれほどまでに人気を集めるのが、混迷を極める男女の世界に“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報・外交のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みから読み解く!

なぜ参政党は人気があるんでしょうか?

参政党に政治的意識を持たない人が投票<なぜ「日本人ファースト...の画像はこちら >>
★相談者★韓国好き(ペンネーム) 派遣社員 41歳 女性

「日本人ファースト」と言っている参政党が参院選で躍進しましたが、非常に危険な思想だと思っています。

 クルド人の問題や中国人の土地買収、たしかに不安に感じるところはあります。しかし、外国人をセカンド以降にしていいという排他的な考え方をどうしても受け入れられません。

 なぜ多くの日本人が参政党に共感するようになったのでしょうか?

佐藤優の回答

 第27回参院選では、参政党が選挙区で7議席、比例区で7議席の計14議席を得ました。対して、与党が大幅に後退しました(自民13議席減、公明6議席減)。この原因を自民党の「裏金議員事案」の余波と見なすと、事柄の本質を見失います。

 1990年代初頭より、自民党による「キャッチ・オール・パーティ(包括政党)」という国民全体の利害調整を行うシステムは機能不全を起こしていました。そこに公明党が加わり、政策の幅を広げ、連立与党として国民全体の受け皿となる仕組みの維持に腐心してきましたが、それが臨界点を超えたというのが今回の参院選の結果と思われます。

 参政党は自民党の受け皿になったというよりも、これまで政治的意識を持っていなかった人が目覚めたことにより台頭したと私は見ています。

 現時点での参政党は可塑性(力を加えて変形した固体から力を取り除いても元に戻らない性質)の高い政党です。一部の人が排外主義政党であるとか人種(民族)差別政党であると激しく批判していますが、この批判との相互作用で参政党が排外主義的で人種主義的な度合いを高めるという「自己成就する予言」になってしまう可能性があります。

 開かれた場での丁寧な言葉遣いと、相互に人間的な敬意を持った既存の政治勢力と参政党との対話が、参政党が極端な政治路線を取らないようにするために重要と私は考えます。


 参政党にはワクチン接種の拒否、実証的根拠のない外国人嫌いなど非合理主義的傾向があります。この傾向が発展するとファシズムに近い政治になる危険があります。

 慶應義塾大学法学部の片山杜秀教授はファシズムの特徴についてこう述べます。

〈戦前には、日本もこれからファシズムだ、世界大恐慌以降の世界の潮流はファシズムにあり、そう考えた人がたくさんいた。(中略)ムッソリーニ以外に、ファシズムの文化政策にかかわったイタリアの哲学者ジェンティーレや、ムッソリーニに近かった経済学者のパレートらの本が翻訳されました。

 ジェンティーレは「純粋行動」でしょう。理性や観念があってそこから行動が生まれるという西洋近代の合理主義の否定ですね。日本の西田幾多郎なら理性よりも経験に重きを置いたけれども、ジェンティーレだと考えるのに先行して行動がある。観念が行動を生むのではなく、行動が観念を生む。〉(『現代に生きるファシズム』381頁)

 ファシズムはその潜在力を使い果たせていません。だから参政党のファッショ化を阻止することが私たちにとって焦眉の課題になるわけです。

★今週の教訓……ファシズムになる危険性を秘めている

参政党に政治的意識を持たない人が投票<なぜ「日本人ファースト」は人気を集めた?>/佐藤優
20世紀の劇薬=ファシズムは世界をどう変えたか? 生みの親であるムッソリーニからナショナリズムが盛り上がった第2次安倍政権への影響まで分析。’19年刊
※今週の参考文献『現代に生きるファシズム』(佐藤優/片山杜秀 小学館新書)

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。
’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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