『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは近所のスーパーで購入した『鶏ひき肉と彩り野菜のガパオライス&パッタイ』。
孤独のファイナル弁当 vol.05 「鶏ひき肉と彩り野菜のガパオライス&パッタイ」
変わらず暑いので、タイ料理弁当にしてみた。近所のスーパーに売っていた「鶏ひき肉と彩り野菜のガパオライス&パッタイ」。パッタイってなんだっけ?と思ったが弁当をよく見て思い出した。チラッと見える麺だ。細い平打ちの。エビとレモンもタイっぽい。
しかしずいぶん小さい目玉焼きだ。こんなに小さい鶏卵あるのか。ニワトリの卵じゃないんじゃないの? いちいち疑うな俺。
スーパーが開店したばかりの9時だったので、温めなくて食べられそうだ。パッケージに加工日がこの日の午前8時40分と印字されている。
自宅で食べた。これはスプーンと箸と両方が必要だ。この場合レモンはどこに搾るか?やっぱりパッタイだろうな。
しかし、これ、タイのラーメンライスのようなものか。麺とごはんのセット。実はボクはラーメンライス、ちっとも食べたいと思わない。もっと言ったらラーメンと半チャーハンのセットも頼んだことがない(学生の時は一、二度あるが)。ラーメンはラーメンだけに集中して食べたいボクちゃんです。
これの場合、麺が焼きそば的で、スープがないのがもっと痛い。汁なし麺とごはんで、逃げ場がない。ような気がする。
文句を言ってないで食べよう。さいわい、朝の散歩をしてきた後で軽い空腹だ。いただきます。
まずガパオライスを食べる。うーんちょっと塩っぱいかな。いや、だからごはんの量に対してひき肉部分が少ないのだろう。ごはんはまだ温かさが残っていてやわらかく、おいしい。だがひき肉は塩っぱいだけで味付けは薄く、少し物足りない感じ。でもやや辛いのは季節的にいい。
ここでパッタイにいく。おぉ、いきなり魚醬の匂い。エスニック。
パクチーがないのが残念。タイ味に振り切ってもらいたい。ガパオの味付けの物足りなさに、魚醬レモンの気分転換は効果的。ラーメンライス的な麺米関係とはまた違う。
あ、そうだと思って、目玉焼きを箸で突き崩し、ガパオライスに混ぜるようにして食べてみる。あ、うまい。これでこの弁当、完成! と思った。エビはまぁまぁ。パプリカもまぁまぁ。そう感じるのは、今年五島列島から送ってもらったパプリカがめっちゃくちゃおいしかったせいだな。
だんだんおいしくなってきたけど、ボクは麺とごはんを絶対混ぜない。大阪の「そばめし」みたいなことはしない。麺には長細い麺を啜る楽しさがあり、それをぼやかすようなことはしたくない。
あ、東南アジアの辛い酢があればもっとよかったな。沖縄のコーレーグースーでもいい。そこが残念だ。
今回は残念とその巻き返しの連続だった。人生のような弁当である。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など