「ここは私たちの席だと思います」を無視
昨夏、山上諒平さん(仮名)は祖母を訪ねるため広島行きの新幹線に乗った。帰宅ラッシュの時間帯だったが、山上さんは指定席を確保していたため安心していたという。しかし座席に到着すると、思いがけない光景が目に入ってきた。
「通路に若い女性とその母親らしき2人が立ち尽くしていました。どうやら彼女たちの指定席に中華系の外国人観光客が座っていたようです。男性はキャップを深くかぶり、派手なシャツの女性はビール缶を片手に大声で笑っていました」
女性が「すみません、ここは私たちの席だと思います」と丁寧に声をかけたにもかかわらず、男性は笑いながら中国語で何かを言い、理解できないふりをした。
さらに、隣の女性は周囲の空席を指差し、そこに座るよう促している様子だった。
流暢な中国語での注意に態度を一変
これを目の当たりにした山上さんの心中は穏やかではなかったが、トラブルを大きくしたくないと考え、車掌を呼びに行こうとした。「車掌さんを探してくるのでお待ちいただけますか」と声をかけた瞬間、背後から中年男性が立ち上がり、「私が注意しますよ」と一言。
「その男性は流暢な中国語で外国人観光客に話しかけ、強い口調で言いました。突然の中国語での説教に、それまで威勢のよかった2人は態度を一変させ、荷物をまとめ始めたんです」
ちょうどそのタイミングで巡回中の車掌が到着。確認の結果、2人は自由席のチケットしか持っていなかったことが判明した。空席に見えた指定席も次の駅からは埋まる予定だという。
だが結局、外国人観光客から謝罪はなく、代わりに車掌が謝罪するという後味の悪い結末となった。
とはいえ、女性たちは無事に指定席に座ることができ、中年男性に深くお辞儀をし、山上さんにも感謝の言葉を述べた。
この出来事を通じて山上さんは考えた。
「こんなに迷惑客が増えているのは、日本人が舐められているからなのか……。わかりませんが、正当な場面では“No”と強く言える日本人でありたいと思いました」
外国人観光客が空港で列を無視した挙句に…

「その日も通常通りお客様と共にチェックインを済ませ、保安検査場へと向かっていました。小規模な地方空港で乗客数も多くないため、通常は保安検査場にはスムーズに入場できます」
そこに突如として現れたのが、3人の外国人観光客。欧米系の男性2人と女性1人が、何の前触れもなく順番待ちの列を無視して川西さんたちの前に割り込んできたのである。
一緒にいた添乗員は「えっ?」という表情で目を丸くした。
空港の係員がすぐに「Please wait in the line(列にお並びください)」と声をかけたが、男性の1人が「We are in a hurry!(急いでるんだよ!)」と強い口調で返す。
いっきに険悪な空気が漂った。さらに驚くべきことに、その男性は係員の肩に手をかけて押すような仕草をしたという。
「そこから事態は急展開しました。警備員が飛んでくると、外国人観光客の3人は制止され、別室へと連行されていきましたね……」
川西さんたちはその後、無事に保安検査を通過し、搭乗ゲートから機内へと乗り込んだ。しかし、先ほどの3人の姿はどこにも見当たらなかった。
フライトを逃してしまった
「他の便がない時間帯だったため、おそらく彼らはそのまま飛行機に乗れなかったのでしょう」列の割り込みから始まり、係員に逆ギレしてトラブルを起こした結果、フライトを逃してしまった外国人観光客……。
行動を共にしていた添乗員が「こういうのがあると、やっぱり“日本の秩序”って大事だなと思いますね」とつぶやいた。
旅行会社に勤める川西さんは、自身も様々な国へ渡航した経験があるが、改めてこう感じた。
「異国の地でルールに従わずに振る舞うのは良くないことだなって。ましてや空港という公共性の高い場所ならなおさらです」
日本では、公共交通機関を利用する際に周囲へ配慮するのが常識だ。何か困ったことがあれば、まずは近くの係員に相談するのが最善だろう。
<文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。