今回取材に応じてくれた男性は、かなりひどい迷惑を被ったようです。しかも、新幹線で。
早朝の新幹線で爆睡スタート
外資系の機械メーカーで営業を担当している小森さん(仮名・39歳)は、平日の早朝、東京発京都行きの新幹線に乗り込みました。この日も日帰りの出張。移動中に軽く朝食を済ませ、資料を確認するつもりだったといいます。「前夜、資料の修正がギリギリまでかかってしまって、寝たのは深夜3時すぎ。起きたのは5時前でしたから、睡眠時間は2時間ちょっと。キオスクで駅弁を買って、新幹線で食べながら目を覚まそうと思ってたんです」
しかし、睡眠不足の影響は予想以上でした。座席に腰を下ろした途端、駅弁の包みも開けずに強烈な眠気に襲われ、そのままウトウトと意識が遠のいていったそうです。
「指定席は通路側で、窓側にはすでに女性が座っていました。30代前半くらいで、髪の長い美人でしたが、眠気が勝っていたので話しかける気力もありませんでしたね」
こうして小森さんの“朝の珍事件”は、静かに幕を開けました。
隣の美女が繰り広げた“変身ショー”
「鼻の奥をつくようなツンとした匂いで、目が覚めたんです。最初は香水かな?と思ったんですが、なんだかもっと化学的な感じがして」ふと隣を見ると、小森さんの視線の先には驚くべき光景が広がっていました。隣の女性のテーブルには、ファンデーション、アイシャドウ、チーク、リップ、ブラシ類がズラリと並び、まるで化粧台のような状態だったのです。
「彼女は手鏡を片手に、真剣な顔つきでメイクをしていました。ビューラーでまつ毛を上げたり、パウダーを叩いたり…正直、ここまで堂々とやる人がいるんだと、驚きましたね」
周囲の乗客もチラチラと視線を送っていたようですが、彼女はまったく動じる様子はなく、堂々と“朝の身支度”を進めていたそうです。
「まぁでも、朝の新幹線だし、時間ない人もいるよな…と、無理やり自分に言い聞かせて、また目を閉じたんです」
ところが、それで終わらなかったのがこの出来事の厄介なところでした。
目覚めはシンナー臭、マニキュアの衝撃
「再び目が覚めたときには、本気で具合が悪くなっていました。ツーンとくる刺激臭で頭がクラクラして…これはマズいって思いました」再度隣を見た小森さんの目に飛び込んできたのは、女性がマニキュアを塗っている姿でした。小さな瓶のフタは開けられ、揮発性の強いマニキュア液の匂いがあたりに充満していたといいます。
「新幹線の中でマニキュアって…ちょっとあり得ないと思いました。しかも早朝の新幹線ということもあり、自分のようにうたた寝をしている客も多かったので、なおさら異様でした」
我慢の限界を超えた小森さんは、やんわりと声をかけることにしました。「すみません、ちょっと匂いがキツくて…」と控えめに伝えたそうです。
ところが、返ってきたのは意外すぎる反論でした。
「あなたがイビキかいて寝てたから、お手洗いに行けなかったんですよ」
「最初、意味がよく分からなくて……。どうやら、僕が寝ていたから彼女が通路を通れず、だから仕方なく席でマニキュアを塗っているってことを言いたかったようです。正直、ちょっと唖然としました」
その場の空気は一瞬でピリついたそうです。
下車した女性と車内に充満した匂い
新幹線が駅に到着すると、女性は化粧道具を素早くバッグにしまい、最後に小森さんを鋭くにらみつけながら立ち上がったそうです。「『じゃあもう降りますけど』と捨てゼリフのように言って自分の前を横切りその女性は足早に降りていきました」
彼女が去った後も、車内にはマニキュアの匂いがしばらく残り、気分の悪さが続いたそうです。結局、小森さんは朝食の駅弁にも手をつけられず、京都に着くまでただぐったりしていたといいます。
「資料を見直すどころじゃなかったですね。なんというか…朝から全神経を持っていかれてしまった感じでした」
今では笑い話として話せるようになったものの、「できれば二度と同じ体験はしたくないです」と苦笑する小森さん。公共の場でのマナーについて、考えさせられる一件でした。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営