今回は、隣人から”電力”を窃盗された信じられないエピソードです。
掘り出し物の戸建てと、穏やかな隣人たち
「新築が理想だったんですけどね。駅にも近いし、築10年ならいいかなと思って」そう話すのは、東京都下のある郊外に中古戸建てを購入した森本さん(仮名・42歳)です。購入はちょうど1年前。利便性と予算のバランスで選んだその物件は、駅から徒歩10分圏内、日当たりも悪くない掘り出し物の一軒家でした。
裏手には、細い旗竿地に暮らす老夫婦が住んでいました。昔からその地に住んでいるというだけあって、年季の入った趣のある外構に加え、庭には菜園や小さな池まであります。
そんな老夫婦はとてもフレンドリーで、引っ越し間もない頃から野菜をもらったり、近所のお店情報などを教えてもらったりと、良好な関係を築いていたといいます。
「ほんとうに引っ越してきて良かったと思っていました。あのことが発覚するまでは……」
雑草刈りで見つけた“違和感”
発覚のきっかけは、ある休日の草刈りでした。「入居以来、仕事も忙しくて、裏側の通路の雑草が伸び放題になってたんです。やっと時間ができたので、気合を入れて一気にやろうと」
通路の両端は隣家との境界でもあり、うっそうと茂った雑草は膝丈以上に伸びていたといいます。1日では終わらず、翌日も作業を続けた森本さん。ところが、2日目の作業中、ある“違和感”に気づきました。
「外壁のコンセントに、見慣れないケーブルが刺さっていたんです。しかも、そのコードが地面に潜ってるんです。不自然ですよね」
ケーブルを辿ると、それはフェンスの下をくぐり、裏の家の池の岩場のあたりへ。さらに奥へと続いたその先には、池の浄水機や照明があったといいます。
「どう見ても、うちの電源を引いて使っていました。入居時には気づかなかったけど、たぶん僕が住み始めた時点で、すでに通電されてたと思います」
森本さんはスマホで証拠写真を撮りました。接続状況、コードの取り回し、そして池の装置まで、余すところなく記録しました。
「それ、窃盗罪ですよ」証拠を突きつけた日
「悩んだんです。直接言うべきか、警察に通報すべきか」考えた末、森本さんは直接、裏の老夫婦のもとを訪ねることにしました。証拠写真を見せると、老人はすぐに青ざめ、深々と頭を下げたそうです。
「『すみません、もう、年寄りの浅はかな考えでした…』と何度も繰り返していました。でも、これは明らかに“窃盗”なんですよ」
森本さんは「場合によっては警察に相談することも考えている」と、それとなく伝えました。すると、老人は自ら反省の意思を示し、森本さんの提案で誓約書を書くことを受け入れたといいます。
「一応、穏便に済ませたつもりですが、正直ショックでしたね。信頼してたご近所さんだったので」
池の鯉と庭の明かりが消えたその後
それからというもの、裏の老夫婦の家は以前とは少し様子が変わったそうです。「ある日ふと池を見たら、鯉がいなくなってました。どうやら浄水機も止まってるみたいで、水も淀んでたように見えました」
加えて、夜になると見えていた裏の家の明かりも、やけに暗くなったように感じると森本さんは話します。
「なんだか、あの日以来裏のお宅に活気がなくなりました。そりゃそうですよね。煌びやかな明かりや風情のある池の演出は全てウチの電気で再現されてたのですから。夜なんか、まるで人が住んでいないような感じの暗さになりました」
今では、老夫婦との関係もぎこちなくなり、お裾分けもぱったり止まったとのこと。
「近所づきあいって難しいですよね。お互い様の精神がある反面、今回みたいにルールを破られると、やっぱり気持ちが切れちゃう」
森本さんは今後、別のコンセントにも防犯対策を講じる予定だと語っていました。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。