「私自身も以前はそう考えていました。でも、実は昇進した瞬間、ガッポリ引かれているものがあることに気づいたんです。それが、税金と社会保険料です。
額面では給料が増えているのに、なぜか手取りがそれほど増えない……。そんな経験、ありませんか? 一方で、同じ収入アップでも副業で得たお金は、工夫次第でこの“見えない天引き”を回避できる可能性があります」
昇級しても手取りになれば雀の涙…社会保険料の現実に刮目せよ
そう話すのは、最新刊『3ステップで未来が変わる! ふつうの会社員のためのお金の増やし方【最適解】』(扶桑社)を発売したマネー系インフルエンサーのガーコさん。
「日本の会社員は、給料から次のようなものが引かれています。所得税(国税)、住民税(地方税)の税金。そして、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料の社会保険料。
ここに40歳以上であれば介護保険料も追加されます。これらを差し引くと、ざっくり手取りは額面の75~80%程度。
つまり、額面が5万円上がっても、手取りでは3万7,500~4万円程度しか増えないケースが多いのです。でもそれだけじゃない。
昇進しても、額面ほど手取りが増えない理由をストーリーで分析
ガーコさんによると、「昇進による本業の昇給パターン」と、「昇進せず、副業で同じだけ稼ぐパターン」の2つを、社会保険料と税金の視点から比較してみると、わかりやすいとのこと。「仮に同じ会社で働く、太郎と二郎がいたとします。2人のストーリーを見てみましょう」
ある日、太郎は課長に昇進し、月給は3万円アップ。会議室で上司から「期待しているよ」と笑顔でいわれ、部下も10人ついた。名刺には「課長」の2文字。なんだか社会人として一段上に上がった気がした。
でもその翌週から、何かが変わりはじめた。メールの通知が朝の7時から鳴りっぱなし。部下からは「相談いいですか?」と30分ごとに声をかけられ、営業同行や部下の相談対応など、太郎の1日は“他人の問題処理”に費やされていく。
さらにプレイングマネージャーとして自分も営業成績が求められる太郎。日中の部下の相談に加えて、自分の顧客対応もしながら、夜になってもチームのトラブル対応で残業、資料のレビューで帰宅は23時。
会議は2倍、責任は3倍、でも給料は1.1倍。税金と社会保険料を差し引かれたあと、月の手取りが増えたのはわずか1万5,000円。
太郎はふと気づく。「俺、出世して“管理される側” から“管理する側”になっただけじゃないか……?」
同じ「5万円」だとしても、本業と副業ではその中身は大違い

ところがよくよく聞いてみると、その5万円は誰にも指示されず、自宅のソファで書いた記事から生まれた収益。残業時間は自分でコントロール、会議ゼロ、クレーム対応ゼロ。
さらに、パソコンや書籍代は副業の経費で落とせて、課税対象は実質3万円ほど。しかもその3万円には社会保険料は一切かからない。何よりも違ったのは、二郎の“顔”だった。
疲れ切った太郎とは対照的に、どこか余裕がある。
気づいたときにはもう遅い。太郎は会社に自分の時間を差し出し続け、増えた収入は社会保険料と税金に消え、手元には“責任”しか残らない。
“時は金なり”——地位を取るか、可処分所得・時間を取りに行くか?
一方の二郎は、副業という小さなビジネスを育てながら、時間も自由も味方にしていた。副業は派手じゃない。最初は稼げないし、地味な作業の繰り返し。でもその一つひとつが、将来の“収入の複利”になる。昇進は今すぐ収入が増えるけど、その分、時間も責任も雪だるま式に増える。“やりがい”という言葉でオブラートに包まれたブラックボックスの中に、太郎の人生の可処分時間が吸い込まれていく。
「これは架空の話ですが、多くの人にとって“心当たりがある現実”ではないでしょうか? 出世は華やかに見えて、手元に残るのは責任と疲れ。
一方、副業は地味でも自由と手応え、そしてお金が残る。どちらを選ぶかで、人生の質は大きく変わるのかもしれません」
副業報酬に社会保険料がかからない理由

「副業の報酬が『給与』でなければ、基本的に社会保険料はかかりません。
つまり、『ブログの広告収入』や『YouTubeの収益』、『せどり(商品を安く仕入れて高く売ることで利益を得るビジネス)』や『クラウドソーシング(企業や個人がインターネットを通じて、不特定多数の人に業務を委託するしくみ)でのデザイン・ライティング報酬』、『noteの有料記事収入』など、自分で小さなビジネスとして稼ぐタイプの副業、いわゆる個人事業・フリーランス的な収入には、社会保険料はかかりません。
これは“会社に雇われていない”から。社会保険制度の“外”にいるため、そこから保険料を徴収するしくみがない。つまり、会社員の副業は社会保険料の支払いを回避できるボーナスステージなんです」
副業は“給料の増殖装置”。賢く働く選択を
ただし、「そこには注意点もある」という。「副業は社会保険料の対象外になりやすいと述べましたが、それが成り立つのは『事業所得』『雑所得』などで受け取った場合の話です。
一方で、『アルバイト』のように企業から“給与”として受け取る副業は、基本的に2カ所からの給与扱いとなり、むしろ逆に手取りが減るリスクすらあります。
よくある失敗パターンが、『副業OKだからって土日にアルバイトを入れたのに、結局社会保険料も追加で取られてたった数万円の手取り』というもの。これは、会社員副業界のあるある地雷です。
だからこそ副業は、コンビニバイトのような“給与所得型”ではなく、自分が事業主となり請け負う、『業務委託』『ライティング』『デザイン』『動画編集』などの“非給与型”で行うことが鉄則です」
昇進すれば収入が増える……。それはまぎれもない事実。でも、社会保険料という“見えない税金”がその喜びを静かに削っていく可能性もある。
「個人事業型の副業なら、社会保険料の負担を最小限に抑えながら、経費という“節税カード”も活用できます。
『課長になりました』よりも、『副業で月5万円増えました』のほうが、家計にも自由にも優しいという現実があることを知っておくといいでしょう」
【ガーコ】
資産運用や投資、お金関連の情報を発信する、マネー系インフルエンサー。
マーケティング、経営企画、新規事業開発などを担当する会社員として働きつつ、夜間大学院に通い、経営学修士号(MBA)取得。ファイナンシャルプランニング技能士資格保有。ITストラテジスト、プロジェクトマネージャーなど複数の国家資格を保有。自ら「プロフェッショナル窓際族」を実践し、社内で一定の評価を獲得しつつも、ほぼ毎日定時帰りを実現。会社員のかたわら、YouTubeなどのSNSを通じ、副業を始める。副業開始後、約3年でSNSの総フォロワー数は40万人超える(2025年6月現在)。