長期休暇シーズンに突入し、旅行や里帰りなど、「新幹線」に乗る機会もあるかもしれない。さまざまな人が乗り合わせるだけに、車内ではお互いに配慮することが重要だ。
飲酒や撮影は、車内のルールとして禁止されてはいないものの、無遠慮に振る舞えばトラブルになりかねない。

自分の席なのに「どいて」と言われた乗客の違和感

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 夏季休暇中の新幹線。隣に座った若い女性の「推し活」が、思わぬ展開を見せた。窓側の席に座っていた光野紗耶香さん(仮名)は、隣席の女性から突然の要求をされ、違和感を覚えたという。

「“ぬい撮り”したいので、一瞬そこどいてもらっていいですか? 窓枠にこの子たちを置いて撮りたいので」

 いわゆる「推し」のぬいぐるみを窓際で撮影したいがために、他の乗客に席を立つよう求める——そんなマナー違反に光野さんは戸惑った。

 その日、光野さんの隣に座ったのは、フワフワしたワンピースを着て髪を綺麗に巻いた女性だった。年齢は10代後半から20代前半に見える。大きなトートバッグとキャリーケースを持ち、バッグからはうちわやペンライトが見えていた。

 うちわには「指ハートして!」という装飾がされており、ある男性グループのコンサートに向かう途中のようだった。

 光野さんが駅弁を食べていると、隣席の女性も駅弁を取り出した。しかし、女性は食事をするのではなく、机上に多数のぬいぐるみとアクリルスタンドを並べ始めた。推しのグッズたちと駅弁を一緒に写真撮影し、ぬいぐるみを持って自撮りする姿に、光野さんは少し違和感を覚えた。

 とはいえ、「パシャパシャ鳴るカメラ音が気になるものの、迷惑をかけられたわけでもないから」と光野さんは気にしないようにしていた。
それどころか、相手が自撮りしている際には、うつりこまないように配慮して端に寄るなどしてあげたという。

理解不能な態度

 だが、食事を終えた女性は、窓側に座っていた光野さんに対し、“ぬい撮り”のために席を立つよう要求してきたのだ。しかも、その態度は……。

「申し訳なさそうに『すみませんが写真を撮りたくて……』とお願いするならまだしも、私が席を立つのは当然のような感じでした」

 光野さんは、断った後も隣同士で座らなければならないことを考慮して、要求に応じることにした。しかし、心中では大きな不満が渦巻いていた。

「見ず知らずの人に席を立ってくれと言える神経も理解できないし、そんなに景色と“ぬい撮り”したいなら事前に予約すれば窓側の席が取れるのに」

 最近は「推し活」や「ぬい活」を楽しむ人が増えているが、光野さんは「公共の場ではマナーを守って楽しんでほしいです。その『推し』のイメージもなんだか悪くなってしまいます」と話す。

外国人観光客の大騒ぎに「もう我慢の限界だった」

新幹線で大騒ぎする外国人観光客に我慢の限界!好転のきっかけとなった“小さな一言”に「言ってくれてありがとう」
新幹線の車内
 昨年の夏、中原美咲さん(仮名)は新大阪から東京行きの新幹線に乗車した。午前10時台、指定席を確保していた中原さんは、窓際の席でパソコンを広げ、打ち合わせの資料に目を通そうとしていた。

「落ち着いた車内の空気を一変させたのは、隣に座った20代半ばの外国人観光客の男性2人です。Tシャツに短パン、キャップを被った彼らは、大きなスーツケースを前の座席との間に押し込むように置いて、スペースがかなり狭くなってしまいました」

 発車すると、すぐに彼らはスマホを取り出し、「Shinkansen!」とテンション高く叫びながら自撮りを始めた。スマホからは大音量の音楽が流れ、周囲の乗客が一斉に視線を向けたが、中原さんは注意する勇気が出なかったという。

 さらに彼らはバッグからビール缶とスナック菓子を取り出して飲食を始めた。それ自体は問題ないのだが、缶を開けた瞬間、“プシュッ!”という音とともに、ビールのしぶきが中原さんの腕にも飛んできたのだ。


「わっ」

 思わず声を漏らした中原さんは、もう我慢の限界だったという。

「言ってくれてありがとう」静かな声かけが生んだ車内の一体感

 意を決した中原さんは、「Excuse me. Please quiet down.」(すいません、静かにしてください)と英語で声をかけた。

 男性たちは一瞬驚いたような表情を見せ、「Oh, sorry!」と謝罪したものの、その後もくすくす笑いながら動画撮影を続けた。

 彼らの足元には空き缶が散乱。状況が完全に変わったのは名古屋駅だった。乗り込んできた車掌が彼らのもとへ歩み寄った。どうやら中原さん以外の乗客が通報したようだ。

 車掌は冷静かつ毅然とした態度で「こちらは静かにお過ごしいただく場所です。他のお客様のご迷惑になります」と英語と日本語を交えて説明した。

 男性たちは目を丸くし、「OK, OK」と繰り返しながら、ようやくスマホをしまい、片付け始めた。

 車内にようやく安堵の空気が流れる中で、斜め前の席に座っていた年配の男性が中原さんに微笑みかけた。

「言ってくれてありがとう。
助かりました」

 その言葉が、緊張していた中原さんの心をじんわりと温めた。

 日本と海外では文化やマナーの違いがあるとはいえ、公共の場では一定のルールを守ることが大切だと、中原さんは改めて実感したという。そして、たとえ小さな一言でも、誰かが勇気を出すことで状況は変わるのだと、自分の行動に少し誇らしさを感じた瞬間でもあったそうだ……。

 しかしながら、他人の行動を迷惑に感じても声をあげにくいのが実情だろう。何かあれば、係員に伝えるのがいちばんだ。

<文/藤山ムツキ>

【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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